クラスター#18

氏名:表玲人(おもて・れいと)
年代:十代
性別:男性
同居人:あり
職業:高校生
日時:二〇二〇年五月二十日


中村先輩は俺が一番尊敬している先輩だった。兄とも仲は良いが、歳がけっこう離れている。リトルリーグに初めて入ったときに声をかけてくれたのが一つ年上の中村先輩だった。

中村先輩はよっぽどのことがなければ、俺といるとき兄の話はしない。俺が兄に関する話題を嫌っているの察して、気を遣ってくれていた。そう言った優しいところが大好きで、休憩中や帰り道はいつも一緒だった。

中学校に入学したときも迷わず軟式野球部への入部を決めた。中村先輩と野球がしたいというのが大きな一つの理由だった。

中村先輩も俺と同じどこにでもいる平凡な野球少年。ポジションはキャッチャー。キャプテンシーがあり、俺のように慕っている後輩は多い。部内ではかなり野球がうまいほうで、レギュラーは常連だった。だけど決してプロに行くような逸材では無かった。

中村先輩は東京の公立高校に進んだ。そこの野球部は、数十年前は甲子園に何度か行ったことのある強豪だ。今は私立や他の高校の躍進もあって、地方大会では思うような成績を残せていない。

高校受験のことを真剣に考えていた時期、自分の学力から志望校は三つほどの選択肢に絞られた。そのなかに中村先輩のいる公立高校もあった。中村先輩に志望校を迷っていることを相談したときに、ボソっとこう言われた。

「また表と野球出来たら俺は嬉しいけどな」

嬉しかった。野球を続けるかどうかも迷っていたが、もうこれしかないと決断した。中村先輩のいる公立高校を自分も受験し、合格した。

高校の野球部はピッチャーが不足していた。チーム事情もあって、一年生から試合に出ることも多々あった。

二年生の夏。中村先輩の最後の夏。一つ上の代でショッキングな出来事が起きた。エースのピッチャーがケガをしてしまった。夏の地方予選への出場は絶望となった。

監督は代わりの背番号1に俺を指名した。レギュラーである背番号一桁の人は俺以外全員三年生。あまりに荷が重く、監督に「背番号1はやめてほしい」と直接言おうか悩むくらいだった。せめて1番は三年生に譲りたいと思っていた。

そんな俺の様子を見て中村先輩から呼び出しをした。二人きりで話がしたい。励まされるのかなと思った。

いざ行ってみると、中村先輩は説教を始めた。長い付き合いになるが、ここまで怒られたのは初めてだった。

「お前がくよくよしてどうする」

エースの離脱でチームは緊急事態。大会を前にしてバラバラになりそうになってる。それを救えるのはお前しかいない。説教というより、活をいれられた感じだった。

先輩たちのために。

その日から空いている時間は全て野球の練習に費やした。大会まで残り少ない時間ではあったが、練習をしないと気が済まなかった。

始まった最後の大会。今思えば、とんでもなく神がかっていたと思う。チームは二十年ぶりにベスト4進出。俺は連日の連投だったが、疲れる暇も無かった。

勝ちたいとか、有名になりたいとか、そんな気持ちは一切無い。先輩たちと一秒でも長く野球がしたい。

周りは「甲子園出場もある」とOBなどが大騒ぎを始めた。地方大会にも関わらず、客席はうちの高校のスタンドだけ満員。周囲の期待は最高潮に達した。

準決勝の相手は去年甲子園出場を決めた、超強豪校との対戦だった。それでも負けなかった。投打が噛み合い快勝。まぐれでも嬉しかった。

そして甲子園出場をかけた大一番。決勝戦でも俺はマウンドにあがった。ここまで全試合一人で投げ抜いて来た。それでも腕を振り続けた。

同点のまま迎えた九回裏。先攻だったうちのチームが勝つには、この回を守って延長戦に入らないといけない。

相手も土壇場の粘りを見せる。なんとかツーアウトまでこぎつけたが、そこからつながれて満塁にされてしまった。

大丈夫。今の自分なら抑えられる。中村先輩のミットをめがけて全力で投げるだけ。

フルカウントになった。あの瞬間、急に魔法が途切れた感覚に襲われた。

最後のストレートはすっぽ抜け。ワンバウンドしてしまう。押し出し。サヨナラ負け。俺たちの夏が終わった。

試合終了から俺はずっと謝り続けた。申し訳無かった。最後の試合の敗北を決めたのは自分。その責任が重くのしかかった。

先輩たちは俺をかばった。中村先輩は最後こう言った。

「表。絶対に来年甲子園に行ってくれ」

次の夏で人生で野球をするのは最後になるだろう。あと一年だけ。俺のせいで負けてしまった先輩たちのためにも。中村先輩のためにも。あと一年だけやってやろう。

二十、三十になったときに本気で野球に取り組むイメージなんてまるで出来ない。もう今年が最後。最後に絶対に最高の結果を出す。それを中村先輩に報告する。

そのモチベーションでやっている。だから「プロ目指さないの?」とか「大学でも続けないの?」なんて質問は自分にとってくだらないものだった。

甲子園に行ければいい。あとのことはどうでもいい。その覚悟で朝も夜も練習してきた。

それなのに。

今日、高野連は今年の全国高等学校野球選手権大会の中止を発表した。夏の甲子園が無くなった。

覚悟はしていた。春の選抜も無くなった。この調子だと、夏も無いのではないか。誰もがそう思っていた。ただこうして正式に発表されると、大きな絶望感があった。

こんなこと声に出して言えないけれど、はっきり言って騒ぎすぎだ。世間もそうだし、メディアもそう。

兄が感染した。病院で隔離され、治療を受けた。昨日、退院し自宅に戻ってきた。兄はほとんど無症状。肉体的なダメージは一切無かった。

毎年インフルエンザは流行している。それと何が違う?薬が無いってだけ。犠牲者のことを思うと辛い気持ちにはなるが、そんなこと言い出したらキリがない。

恐ろしい病気だと騒ぐから、国民が異常に怯える。医療従事者も疲労する。絶対に何かがおかしい。こんなに騒ぐ必要なんて無い。

夏の甲子園だって、無観客でやればいいと思う。どうせ感染が広がっても若い人しかいない。俺たちの自己責任でやらせてくれたっていいじゃないか。

兄が合コンをしたことはもちろん知っている。兄だって、仕事がままならない状態で精神的に参っていた。いけないことだったかもしれない。それでも世間のバッシングはあまりにも異常だ。

「こいつは今年試合に出場させるな」

そんなこと言い出すやつもいる。もう何から何まで納得いかない。ご飯に行ったことがそこまで悪いことなのか?

将来に期待がもてる人を異常に持ち上げ、悪いことをした人を異常に叩く。世間はだいたいそう。

いったい何のためにあんなに練習したんだろう。全部無駄だった。

俺の気持ちなんてどうでもいいんだ。俺がどんな練習をしてきたか、どんな気持ちで部活動に取り組んでいたかなんてどうでもいい。

世間は俺たちのことなんて「美談」の材料にしか思っていない。

大勢が「ウイルスが怖い」と言えば怖がり、大勢が「かわいそう」といえばかわいそうと言い張る。どうせまた夏の甲子園中止で、俺みたいな努力が無駄になった人がネットニュースにされる。それに対して、世間がああだこうだ言うんだろう。

そこに俺たちへの思いやりとかは無い。自分たちにとって気持ち良ければそれでいい。大勢と同じ意見であることが気持ちいい。そんだけ。

コロナだから自粛しましょう。これだって周りがそうしてるから、自分もそうしてるだけ。理由をはっきり言える人なんてほんの少しだ。

明確な理由があって「野球がしたい」と言う俺一人。特に理由も無く「みんな我慢してるから我慢しよう」って言う世間の人大勢。人数が多いから、後者が世間の声になる。

クソが。

このやり場のない怒りはコロナウイルスに向いてるわけではない。異常に騒ぐ世間に向いていた。
 

つづく


~~~~~~~~~~~~~~~


もうちょっとだけ書き続けてみようと思います

まだ書いてる途中で、この先どんな展開になるかわかりません

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クラスター#17

氏名:表玲人(おもて・れいと)
年代:十代
性別:男性
同居人:あり
職業:高校生
日時:二〇二〇年五月二十日


「玲人は高校卒業したらどうすんの?」

もうこの質問はうんざりだった。

「普通に大学行く」

「ええ?もったいない」

この反応もうんざり。

自分で言うのもなんだが、周りに自分が期待されているのは事実だった。

「お兄ちゃんみたいにプロ野球で活躍するんでしょ?」

兄は今年三年目を迎えるはずだったプロ野球選手。去年、先発で九勝となかなかの好成績を残した。

もちろんそれは嬉しい。家族が活躍して嬉しくないわけがない。だけど、その結果自分が過剰に期待されるのは迷惑だった。

俺が野球を始めたのが小学三年生のとき。兄に影響されて、地元のリトルリーグに入った。一度熱中すると、なかなか飽きないタイプ。周りよりもちょっと長く練習をして、技術を磨き続けた。

だけど、大人になっても野球を続けるつもりは全く無かった。一番の理由は、自分はそこまで才能が無いから。これ以上でもこれ以下でも無い。野球でお金を稼ぐほどの自信は無かった。

「玲人君くらいの努力家ならきっといい選手になれるよ」

周りは無責任にこんなことを言う。二番目の理由はそこまで野球が好きじゃないから。

そりゃ涙ぐましい努力をすれば、ひょっとすると野球選手になれるかもしれない。でも、そこまで野球を頑張るくらいなら、同じ時間勉強して、そこそこの大学に行くほうがよっぽどいい人生を送れると思う。

社会人野球とか地方リーグとか、野球を仕事にするハードルは数十年前に比べて下がっているとは思う。それでも、なったところで毎日練習して、試合をしてなんて生活を送るのはあまりいい気がしない。

で、そんなこと考えてると最後に行きつくのが「いやそもそも俺そんなに野球うまくねえ」だった。なれるわけないんだ、自分なんかが。

正直なところ、個人的には兄がそこまでプロ野球で活躍できるとは思っていなかった。スカウトが見に来るくらい知名度はあったらしい。それでも、まさかNPBのドラフトに指名されるとは思っていなかった。

一年目は二軍暮らしが続いて「まあそんなに簡単には通用しないだろう」と思っていた。まさかまさか一軍でチームのエース級の活躍をするとは思わなかった。

活躍したことは嬉しい。(同じことを二回言うくらい嬉しい)。だからと言って「じゃあ弟もプロいけるんじゃね?」という周りの風潮がしんどかった。

「俺がなれるわけがない」「そこまで野球が好きじゃない」

毎日言ってる気がする。

友達に言われるのはまだ納得できる。一番腹が立つのは、メディアがそうはやし立てること。

たまに自分のところへメディアが取材に来ることがある。全部お断りしている。それでも勝手に記事を書かれる。

「夢の兄弟の共演なるか!?」「兄弟で投手のケースは過去に……」

そんなネットニュースに腹を立てていると、嫌味っぽく「贅沢な悩み」だと言われることまである。それが余計に腹が立つ。

俺はただの平凡な高校生。兄は才能があったのかもしれないが、俺はどこにでもいる野球部の部員。そんなやつを「未来の卵」ともてはやすのはやめてほしい。それだけなのに。俺が間違ってるのか?

そんな俺の本音を理解してくれている友人は周りにいる。その人たちは、全部理解したうえで、次にこの質問をしてくる。

「じゃあ何を目標に野球やってるの?」

じゃあお前は将来アスリートになるために部活やってんのかと言いたくなる。言わないけど。たしかに人一倍練習をしている自覚はあったし、そんな質問をされる気持ちも分からなくはない。

それに対する答えは一つ。中村先輩のためだった。
 

つづく


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クラスター#16

氏名:道重進(みちしげ・すすむ)
年代:四十代
性別:男性
同居人:なし
職業:演出家
日時:二〇二〇年五月一日


あの日「演劇を当たり前に」と息を巻いていたはずなのに。自分はいったいこの十年、二十年何をしていたんだ。

自分へのいら立ちが、さらに血迷わせてしまった。

私はこのとき、こう考えた。

このコロナの騒ぎが終わったときに、一番にエンターテイメントを提供しよう。誰よりも早く今までと全く同じかたちのエンターテイメントを見せつける。それで世間に「演劇」の力を見せつけるんだ。これが「演劇」だと大声で言うんだ。

「絶対にやる。得体のしれないウイルスなんかに負けてたまるか。いつそのときが来てもいいように準備は続ける」

そう劇団員に檄を飛ばした。自分にも聞こえるように。

結果、大規模なクラスターを起こしてしまった。発端は恐らく小野寺。主演を務める彼女は今、「合コンに参加していた」とバッシングの標的とされている。

その小野寺を含め、我々が複数人で稽古をしたのは事実。対策を怠っていたわけではない。マスク、フェイスシールドを着用のうえで、手指の殺菌と検温をしていた。

しかし、検温は各自でしてもらい、一覧表に記入するかたちを取っていた。というのも、非接触型の体温計が手に入らず、脇に挟むものを消毒して使っていた。報道によれば、稽古の日に小野寺は発熱があったらしい。つまり、微熱があるにも関わらず、それを隠していたということだ。

なぜ隠したのか。それについても世間は追求し、勝手に答えを出している。

今回の公演は、劇団青息吐息として、初めてダブルキャストを試みた。全く同じ役を小野寺と斎藤の二人で交互に上演する。

理由は単純で、オーディションのときに自分の作品に出演してもらいたい役者がたくさんいたからだ。他の役も二人以上候補があがった。悩んだ末に一度やってみるのもありかと思い、一部の役にダブルキャストを採用した。

ネットのニュースをあてにするのであれば、小野寺自身は女優の仕事が減っており、捨て身の覚悟でこの作品に挑んでいたんだとか。斎藤とのダブルキャストに本人も焦っており休まざるを得ない状況になったのではないか、と噂されている。

本当のことは本人しか分からない。だけど、そうさせてしまったのであれば、私にも責任はある。言い訳ではなく、私は本当に小野寺の演技力を買い、オーディションを合格させた。同じくらい斎藤の演技も素晴らしかった。それだけだった。

そんな私の気持ちや小野寺のコメントも無く、ネットではバッシングの嵐だった。当然、劇団にもバッシングは及んでいる。それが行きつく先は、あのときに稽古を強行した劇団代表である私だった。

これが紛れも無い私の今の実力だ。

世間一般に知られる名作を産み出していれば、もっと批判は少なかっただろう。

犯罪をしても、不倫しても、クスリをやっても「作品に罪は無いから」と第一線に復帰するミュージシャンはいっぱいいる。それがいいか悪いかは別として、素晴らしい作品があれば、世間の評価は変わる。

「緊急事態宣言下で稽古をした」という私の罪を軽くする作品や実績は無い。

世間の声をまとめるなら「演劇“なんか”がクラスターを発生させてるんじゃねえよ」ということなんだろう。

演劇だけをしていたい。演劇のことだけを考えていたい。

そのなれ果てがこれだ。小野寺の気持ちを汲み取ることが出来なかった。劇場で公演をする以外で、自分の存在を証明する手段が思い浮かばなかった。

何か一つに夢中になることが素晴らしい。夢を追うことが最高。そんなことが教科書にも書かれている時代。だけど、そんなことはない。違う世界のことも含め、誰よりも勉強しないといけない。そうしないと天下は取れない。

今、演劇を取り上げられてやっと気づいた。病院のベッドで寝ているだけにならないと気がつかなかった。

情けない。悔しい。勉強していれば、新型コロナだろうがどんな困難でも越えるアイデアが浮かんだはずなのに。あのときに何も思い浮かばなかったのは、自分の努力が不足していた以外何も無い。

私が人生をかけて「演劇を当たり前に」と誓っていた夢はまるで叶わず、あろうことか演劇に泥まで塗ってしまった。

これから私はまた演劇に携わることが出来るだろうか?そんなことを考える気力も無かった。
 

つづく


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クラスター#15

氏名:道重進(みちしげ・すすむ)
年代:四十代
性別:男性
同居人:なし
職業:演出家
日時:二〇二〇年五月一日


二〇二〇年。役者もミュージシャンもアイドルも死んだ。

私たちは誰かを笑顔にしたり、感動させたりすることでお金を得ている。それは突き詰めると、どの職業にも言えることかもしれない。だけど、私の仕事は「今目の前にいる人を楽しませること」だと思っている。

その“目の前にいる人”がいなくなってしまった。つまり私は無職になった。

幼い頃、父親に連れられて映画を観に行くのが大好きだった。自分もこんな作品を作る人になりたい。物心ついたときから、私は「人を楽しませる仕事」を志していた。

中学生のときの文化祭で一人だけ張り切って劇を作ったり、高校生のときに学校の機材を無断で使って映画を作ったり、ずっとずっと作品を作ることに熱中していた。

高校を卒業して、専門学校に入学。はじめは映画監督を目指して勉強し始めた。たまたま友人の舞台を手伝うことになって、演劇に裏方として携わる機会があった。そのときに一瞬にして魅了されて、演劇も勉強し始めた。次第に演劇だけを作るようになった。

日本での演劇の文化はまだ浸透しているとは言い難い。友達と「映画を観に行こう」なんてのはよくあると思うが「演劇を観に行こう」とはなかなかならない。それが私の心に火をつけた。

演劇が当たり前の世の中にしたい。

ありとあらゆる劇団の公演を見た。小さな会場、大きな会場、日本全国に演劇を観に行った。どうすれば演劇がメジャーな文化となるか、日夜考え続けた。

三十歳。自分の劇団を立ち上げる。劇団青息吐息。はじめは役者裏方含め七人しかいなかった。それでも自分の作品が受け入れられる自信があった。

事実として「劇団青息吐息」の名前は多少は広まった。自分の名前もそれなりに売れて、時折メディアの取材も受ける。「青息吐息が面白い」と言ってくれる人は一定数いるし、私の演出を受けたいと言ってくれる人も現れるようになった。いい役者が集まり、いい作品となり、そしてまたいい役者が集まる。手応えはたしかにあった。

だけど。演劇が「当たり前」の世の中になっただろうか?さっぱりだ。公演を打てども打てども、映画やドラマには勝てない。

自分だってなんとか食っていけてるのが現実。たまに通帳を見て冷や汗が流れる。自分と同い年の演出家や役者でも、この歳でアルバイトをしている人もざらにいる。

四十二歳。そこまで健康に気遣っている人間ではないので、もう人生の半分は過ぎたように思う。

十代や二十代のときに比べて、体力は格段に落ちた。それと平行して、演劇に対する熱も下がってきた気がする。熱があるにはあるんだけど、自分の限界を感じているのが本音だ。

演劇を当たり前に。その夢が大きすぎるのだろうか。不可能なんだろうか。自分には成し遂げられない話なんだろうか。

苦しみながら、演劇を続けていた。

そして今。その気持ちに追い打ちをかけられていた。

新型コロナウイルス感染拡大で日本中のありとあらゆるイベントが中止になった。歌手は歌を取り上げられ、芸人は芸を取り上げられ、我々は演劇を取り上げられた。

そんな世の中を少しでも励まそうと、色々なアーティストたちが知恵を絞っている。

メジャーなバンドは過去のライブ映像を無料で配信していた。芸人は無観客のライブを配信していた。「今目の前にいる人を楽しませる」ことが仕事である人は、なんとかして自分たちの存在意義を示し続けている。

じゃあ私には何が出来るだろうか。何も思いつかなかった。

個人的に映像を無料で配信するのは抵抗がある。理由は二つある。

一つは単純に作品の価値を下げたくないから。私の劇団も映像化したものをDVDとして販売したり、台本を売ったりしたことはある。過去に値段をつけたものを「世の中を明るくしたいから」ってだけで無料にするのは、果たして正しいだろうか?

ただでさえ「音楽」や「映画」の価値は下がり続けているのに。ネットで違法アップロードされたものを見て、平気で感想を言うやつがうじゃうじゃいる。

「違法に配信されたものは見ないでください」

そうやって声をあげていたのは、作品の価値を守りたかったからではないのか?それなのに無料で配信するというのはどうも自分は納得できない。

二つ目は演劇に関する話。演劇は何をどうやっても生の臨場感に勝ることは出来ない。同じ空間に鑑賞する人がいることを前提に作られているのだから。

自分の舞台をDVD化するときも、映像のプロを呼んで複数台のカメラで撮影した。様々なアングルの映像を編集し、映像での臨場感を演出した。それでも、劇場で観ている感覚には遠く及ばない。様々な事情で劇場に来ることが出来ない人もいる。そんなことを考えて映像化してきたが、劇場に来て欲しいのが大前提だった。

四月のはじめに新作「いつもの夜」の上演延期を決めた。私から演劇が取り上げられてから一か月が経とうとしている。

何人かのファンは「公演延期」の一報を聞いて、「残念」だとか「待ってます」と反応してくれた。

でもそれだけ。世間にとってはちっぽけな出来事。ニュースにもならなかった。

スマホを覗けば「大黒麻友子 卒業公演を延期」とある。どこかのアイドルが卒業を延期したことが大きく取り上げられている。そのニュースは数日消えず、SNSでもトレンド入り。私たちの演劇はこのアイドル一人に完敗しているんだ。

一瞬、悔しさで吐きそうになった。


つづく


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昨日深夜に#13(ホストの稲田くんの話)をあげました。まだ読んでない人、読んでね。

 


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クラスター#14

氏名:稲田拓(いなだ・たく)
年代:十代
性別:男性
同居人:あり
職業:ホスト
日時:二〇二〇年四月二十八日
 

僕が生まれたのは岩手県。海の見える家でお父さん、お母さん、三つ年下の妹と四人で暮らしていた。

そんな普通の日々が突然終わった。僕が小学四年生のときに東日本大震災が起きた。僕らの町はあっという間に津波に飲み込まれて、家は跡形も無く流されてしまった。

震災が起きた瞬間、僕と妹は小学校にいた。小学校はギリギリ津波が来なかった。小学校にいた人たちはなんとか生き延びることが出来た。

だけど家にいた母と会社にいた父は逃げることが出来なかった。未だに四千人以上いる行方不明者のうち、二人は僕の両親だ。僕と妹は取り残されてしまった。

親戚や仲の良かった近所の人の助けもあり、二人でなんとか生活を続けた。だけど、当然周りの人たちも震災の被害に遭っている。いつまでも周りに支えてもらっていてはダメなことは小学生でも分かった。

中学生になったとき、自分でも働ける場所を探した。日本の法律で中学生は働いてはいけないらしい。例外として、新聞配達は大丈夫。そんなことがネットには書いてあった。

それを鵜呑みにして、新聞屋に直接雇ってくれないかとお願いしに行ったが、全て断られた。

それでもめげずに働ける場所を探した。初めて雇ってもらえたのは個人経営の居酒屋だった。優しい店主のおじさんが、僕の事情を汲み取ってくれた。

おじさんも経営者として、中学生を雇ってはいけないことくらい理解している。接客はせず厨房で出来る仕事を与えてくれた。他の従業員にも口止めをしてくれた。本当にありがたかった。このころから多少の法を破ることへの抵抗が薄れていた気がする。

親戚の家から独立し、妹と二人暮らしを始めた。妹も家のことを全てやってくれた。他のことは全て犠牲にし、なんとか最低限の学業と生活は出来た。

そんな日々も終わってしまう。僕が中学三年生のときに、雇ってもらっていた居酒屋がつぶれてしまった。収入がゼロになった。

このとき僕は高校に進学するかどうか迷っていた。成績は悪かったけれど、受験すればどこかしらの高校には受かるとは思う。だけど、まだ学生を続ける余裕があるだろうか。

妹は絶対に高校は行ったほうがいいと言ってくれた。僕も高校に行くつもりでいた。それが収入がなくなり、そうは言ってられなくなってしまった。あんまり神様とか信じるタイプではなかったけれど、なんだか高校に行くなと天から言われているような気分だった。

迷いに迷って僕は高校進学を断念した。高卒認定試験とかもあるらしいし、いつだって戻ってこれる。今は妹のために働くことが優先だと判断した。

中学を卒業したことで、働くことの出来る場所はぐっと増えた。就職する道もあったけれど、資格もなければ特技も無い。体力仕事の重労働をこなせるほどの体でもない。バイトのかけもちが一番手っ取り早く稼げる手段だった。

「稲田くん」

十七のとき。働いていたバーの加藤店長に突然声をかけられた。

「いいお仕事紹介してあげよっか」

バイトを何個もかけもちなんてせずに、高収入が得られる。そう口説かれた。巡っても無いチャンス。とりあえず話だけでも聞いてみようと思った。

加藤店長に連絡先を教えてもらい、電話をかける。電話口から渋い男の声が聞こえた。

薦められた仕事、それがホストだった。条件は破格のものだった。東京でマンションを用意するから、そこに住んでいい。年齢は偽ってくれていい。給料は毎日手渡しで払う。そんな感じ。

絶対に踏み込んではいけない世界なのは分かった。断らなければいけなかった。だけど、目の前の大金に目がくらんだ。断るのが怖いのもあった。

「なんで僕にそんな仕事を薦めたんですか?」

「あんた話がうまいから向いてると思ったんだよ」

あとから知ったが、バイトをしていたバーも裏社会とつながりがある店だったみたいだ。ネットでの噂にすぎないが、僕みたいな人材を探すために日本中にそういう店は溢れている。お金を欲しているハングリー精神のある若い人はちょうどよくて、僕みたいな人を紹介すると加藤店長もそれなりの報酬をもらえるらしい。

結局、僕は上京することを選んだ。地元でのバイトを全て辞めて、東京に向かった。妹には派遣社員として雇ってもらえたと嘘をついた。

東京に着いてすぐに指定された場所へ向かう。雑居ビルの中にある小さな事務所だった。そこにスーツを着た大きな男と、今のホストクラブの中尾店長がいた。

「ようこそ」

タバコと香水のきつい匂いはしたが、一見普通のスーツの男だった。

「この世界は優しいけど、厳しい。そのかわりお金はたんまりとあげる」

ホストとして働くお店は東京のとあるビルの最上階の店。そこの地名は「夜のまち」というイメージがある聞いたことのある場所だった。

その店は会員制で、表向きは店があることも分からない。店名も無い。従業員もお客も許された人しか入ることの出来ない空間だった。

そこで二十一歳の新人ホストとして雇う。休みは週に二日。夜の十八時から朝の十八時まで勤務する。そんな契約内容をつらつらと話された。

「稲妻ライ。これがあんたの名前」

中尾店長が名付けたらしい。「稲田って聞いたら稲妻が思い浮かんでん!」と嬉しそうに話してくれた。

名前を支配されるなんて、なんか千と千尋の神隠しみたいだ。そのくらい異世界に迷い込んでいるのはたしかだった。

「……僕、ホストの経験なんて無いんですけど、やっていけますかね?」

話が終わり最後に恐る恐る聞いた。すると大男と中尾店長は大笑いした。

「加藤くんがオススメしてくれたっちゅうことはたぶんうまくいくわ。彼が推薦したやつは君が二人目で、一人目はナンバーワンホストまで登りつめたからなぁ」

ネットの噂は事実だったみたいだ。それに加えて、大男が僕に詰め寄る。

「まあ、あとは君次第。もし出来ないやつって分かったらすぐに捨てる。それがこの世界のやり方。人気になればなるほど儲かる。人気が出なければ捨てられる。俺の言いたいことが分かるか?」

「…………」

「十七歳でこんだけお金をもらうってのはそういうこと。優しいけど厳しい。食うものと住む場所は保証するから、あとは自分で考えろ」

この日の夜。僕は東京のマンションで泣いた。間違えた。来るところを間違えてしまった。もう逃げられないんだって。

僕は夜になると「稲妻ライ」として、店で働いた。お酒を毎日吐くまで飲んだ。ホストとして登りつめるために必死に働き続けた。

いつしか僕はこの世界に染まった。お店を代表するホストになって、指名も受けるようになった。お酒を飲んでも吐かないようになった。そして、信じられないくらいのお金を手に入れた。

妹に仕送りしても、まだまだ余るほどお金がある。はじめは怖かったけれど、それにも慣れてしまった。本当に怖い世界だ。

「夜のまち関連のクラスターが発生しています」

テレビの中の東京の都知事は、やんわりと我々の世界に責任を押し付けている。大庭さんとかいうおばさんは、しきりに「夜のまち」と連呼している。

僕だって感染なんかしたくなかったし、他の誰かにうつしたくもなかった。誰が悪いとか言いたくないけれど、「夜のまち」って一括りにされて責任を押し付けられるのは、少し違和感がある。日本中が混乱していることに対して、僕は責任を取らなければいけないのだろうか。

まあ無理もないか。対策を何もせず営業を続けている、うちみたいな店がある限り感染は広がり続けるだろう。

僕は中尾店長の言う通りに病院には行かなかった。行っても何も本当のことが言えないから。そのくらい「夜のまち」の闇は深かった。
 

つづく


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【ごめんね1】昨日(土曜日)更新さぼりました。すみません。

【ごめんね2】今日(日曜日)の更新、深夜になりました。すみません。

マイペースに頑張ります

 

もうちょっとだけ書き続けてみようと思います

まだ書いてる途中で、この先どんな展開になるかわかりません

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クラスター#13

氏名:稲田拓(いなだ・たく)
年代:十代
性別:男性
同居人:あり
職業:ホスト
日時:二〇二〇年四月二十八日


「ええか、世間のことなんか気にすんなよ。うちはうちで営業を続ける。コロナが怖いやつはこの店辞めてもらうで」

開店前のミーティング。普段そんなことしないんだけど、中尾店長がホストを集めた。どうも仲間のなかに、この状況で営業を続けていいものか質問した人がいるらしい。

それに関しては自分も戸惑いがあった。店に来る間に見たお店は、チェーン店から個人店まで全て閉まっていた。「休業」「自粛」そんな言葉が書かれた紙が貼られて。

普通に考えたら休業するだろう。それでも店長からは出勤命令が出た。従うしかなかった。

中尾店長は明確には言葉にしなかったが、上から強く言われているのだろう。だから、僕たちにも強い口調で命令をしているんだと思う。

「店長」

「ん?」

「もしお客様に何か言われたら、どう答えたらいいですか?」

ミーティングの最後に僕は質問をした。全員静まりかえっている。中尾店長は口をゆっくり開く。

「ウイルスはアルコールで除菌できる言うとけ。酒飲んで除菌って言えばええわ」

ジョークなのだろうか。ジョークには聞こえなかったけれど。

「こんなときにうちに来るやつなんかそう言うときゃええねん。頭悪いやつしか来んやろ」

言葉の奥の奥に「俺もこんなときに営業したくない」って本音がいるような気がした。いや、それは僕の願望が強すぎるかな。

このホストクラブは何一つ普段と形を変えずに営業を続ける。感染対策など一切しない。まあたしかにホストがマスクをする姿もそれはそれで滑稽だとは思う。だけど、この有様だとクラスターが発生するのも時間の問題だと思った。

僕の予想は的中し、お店は大規模なクラスターが発生した。誰かは分からないが、発熱の症状があり店長に報告。すぐさま、ホストとスタッフ全員に「今日は休め」と命令がくだった。

僕も熱がある。たまたま風邪を引いたなんて思えるわけがない。確実に自分も新型コロナに感染したんだ。だけど……。

休むように命令が下った直後に、僕のスマホに着信があった。中尾店長からだった。

「ライか?」

「はい」

「お前、なんか症状あるか?」

言葉の圧は電話口でも感じる。僕も馬鹿ではない。このあと何を言うかは分かりきっていた。

「一応、熱がちょっとだけあります」

「ええか。絶対に病院にうちのこと言うなよ」

「……分かりました」

「出来れば病院にも行くな。分かったな」

「はい」

「言うたらどうなるか分かるよな?」

僕の働くあの店は合法では無い。風営法だとか、何から何まで引っかかると思う。

そもそも僕はまだ十九歳。そんなやつが働いている時点で、あの店が闇であることは十分証明できた。


つづく


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クラスター#12

氏名:黒木結芽(くろき・ゆめ)
年代:十代
性別:女性
同居人:あり
職業:中学生
日時:二〇二〇年四月二十二日
 

私のパパはお笑い芸人をしている。売れっ子とまではいかないけれど、そこそこテレビにも出ている。

パパのことはそこまで好きではなかった。お笑い芸人だからとか、そんなんじゃなくて、普通に人間としてだらしがない。

私が小学四年生のときにパパとママは離婚した。これと言った原因はあんまりわかんないけど、ママがパパにいつも怒っているのをそばで見てきた。ずっと仲が悪かったから、愛想を尽かされたんだと思う。

私は小さい頃からママっこで、喧嘩したときもママの味方になっていた。「離婚する」って聞いたとき、私はすぐに「ママに着いていく」と言った。だけど、ママはそれを許さなかった。

「パパのほうがちゃんとお給料多いし、これからの結芽のことを考えたら絶対にパパに着いていったほうがいい」

泣きじゃくる私にママは優しく言い聞かせた。

「ママとならいつでも会えるから」

その言葉を信じて、私はパパに着いていった。

ママのあの言葉は嘘だった。次第に連絡をしても返してくれなくなり、今はどこで何をしているのか分からない。パパとは違って一般人だから、何の情報も無い。

小学生のときは「なんで?」って思っていた。ただもうすぐ十五になる私には分かる。もうママにとって私たちは家族でもなんでもないんだって。関わりたくないんだって。そんな悲しみがちょっとずつちょっとずつ大きくなっていった。

パパとの二人暮らし。お笑い芸人って不安定な職業だと思われるかもしれないが、パパは芸能界をしぶとく生き残っている。実際に私の学費やおこづかいもちゃんとくれる。仕事に関しては立派にこなす人だった。

だけど、家のことは何一つしてくれない。小学生のときは一生懸命ご飯を作って、パパと一緒に食べていた。それも次第に無くなった。

「仕事の人と飲み会に行ってくるから」

そう言って五千円札を置いて出ていく。それが当たり前となり、私とパパが一緒にご飯を食べる機会は無くなった。小学校を卒業する前は「たまには外食でも行くか!」って連れてってくれたけど、それも無くなった。

洗濯や掃除は私が担当している。それ以外はもう同じ家族とは思えない生活だった。一週間くらいパパの顔を見ないときもある。

別にパパは私を嫌っているわけではないみたい。会ったら元気に話すし、連絡もこまめにくれる。だけど、家族とか父親としての愛情は何一つ感じなかった。

お金をくれるから一緒にいるだけ。最近はそんな感じ。高校生になったらアルバイトして自分のお金で生活をしよう。もう一人で生きられるって思っていた。家を出ていったママの気持ちが今になってやっと分かった気がする。

そんなときに、この事件が起きる。パパからの着信は新型コロナに感染したという報告だった。

はじめは仕事かなんかで感染したのかと思った。だけどパパはぶつぶつと話を続ける。

「こないだ飲み会に行って、そこで感染してしまったみたい……」

あとからネットニュースになっているのを見た。あの緊急事態宣言で自粛ムードのなか、パパは合コンをしていたらしい。

「仕事、大丈夫?」

「リモートで収録とかがあるから大丈夫」

そんな会話をして、朝も夜も出かけていた。それも嘘だったみたい。仕事に行くフリをして、モデルや女優と飲み会に行ってたらしい。

「それで、結芽が濃厚……」

私はパパの言葉の途中で電話を切る。

もう我慢できなかった。こんなやつの声を聞きたくなかった。

私が学校に行けない原因がこんなにすぐそばにいたなんて。許せないと思っていた人が、私のパパだったなんて。

スマホは再び震える。もちろんパパからの着信。私は無視をする。いや、そもそもこんなやつ「パパ」じゃない。

私はこの人のLINEアカウントをブロックする。電話番号やメアドも拒否設定をする。

そのあとすぐにクローゼットの奥からキャリーケースを取り出した。その中に私物を詰めれるだけ詰める。入らなかったものはリュックサックに入れる。

もうこの家にはいてられない。お金をくれるから一緒に生活をしていたけれど、もうこんなやつの顔も見たくない。このニュースでタレントとしてのイメージも下がるだろうから、もうお金も期待できないかもしれない。一緒にいる理由が無かった。

私の部活の引退試合を返せ。私の修学旅行を返せ。

一人で生きてやる。絶対に。私は怒りに任せて玄関のドアを開けた。


つづく


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