クラスター#29

氏名:谷太郎(たに・たろう)
年代:三十代
性別:男性
同居人:なし
職業:芸能事務所社員・飲食店経営
日時:二〇二〇年五月十五日


暴力団」「やくざ」「裏社会」……

世間ではそう言われる世界に俺はいる。

この世界に入ったきっかけなど無い。気づいたら入っていた。

父親も母親も裏社会の住人。俺に流れる血は完全に汚れている。

よく言われる。暴力団って一体どうやって稼いでいるの?資金はどこにあるの?

資金源は話すとキリが無い。ただ日常のありとあらゆる場所に我々の影はある。

俺がやっているのは二つ。一つは芸能人事務所で働いている。

いわゆるマネージャー。タレントのスケジュール管理を行い、仕事を見つけてくる。

テレビ局の知り合いに同じ社会の人間が山ほどいる。その人たちに言えば、テレビに出る仕事なんていくらでも手に入る。あとは俺がテレビ受けする「タレント」を用意する。

昔は自らスカウトをやっていた。とにかくたくさんの若い人に声をかける。特に女の子。多少可愛くて目立ちたがりな子であれば、食いつきはする。あとは才能があるかどうか見極めるだけ。

自分で言うのもなんだが、俺のスカウトの技術はかなり良かった。一目見た瞬間にこの子は売れると感じる。そういう子に仕事を当てると必ずはねる。テレビには俺が見つけて育てたタレントがたくさんいる。

テレビの仕事はギャラがいい。一般の企業に勤めている人が聞いたら驚くと思う。その甘い蜜を我々は資金にしている。

タレントがテレビに出てもらえるギャラ。その六割は事務所、四割はタレントでうちはやっている。四割でもなかなかの額だから、素人あがりのタレントは喜ぶ。人気者になって浮かれているやつを横目に俺たちはたんまりと稼いでいる。

二つ目の仕事は飲食店。飲食店と言っても、ただのホストクラブだ。

俺が経営しているホストクラブは全部で三件ある。

特にとあるビルの最上階にある店は一番の売り上げがある。会員制で店名も無く、隠れ家のような店。そこにVIPのお客さんが集う。

VIPのお客さんとは誰か。ずばり芸能人だ。

浮かれた芸能人が羽振りよく大金を落としてくれる。一晩でうん千万の売り上げがあった日もあった。俺は開店前に店を覗き、あとはホストたちが騒ぐだけ。目が覚めれば、あっという間に大金が手に入った。

昼間に勤めている芸能事務所のタレントたち。彼女たちにこの店をそれとなく勧める。これがまあ面白いくらいにまんまとハマる。

つまりタレントのギャラの六割を事務所のものとして受け取っているが、残り四割すらも我々の手に収まるように仕組まれている。ちゃんと計算をしたことはないが、テレビのギャラの八割は最終的に裏社会へ吸い込まれているんじゃないだろうか。

昼間は山下守。芸能事務所職員。夜は中尾克己。ホストクラブ経営。二つの顔で私は生活をしている。

本名は谷太郎、と思う。はっきり言って自分のこれが本名なのかも怪しい。

よく社会の歯車なんて表現があると思う。一般企業の社会人は、あまりいい意味合いで無く「歯車」と表現されている気がする。

ならば俺は裏社会の歯車だ。

父親も母親も幼い頃に亡くなった。亡くなった原因も知らない。きっとこの社会の幹部のような立場の人に潰されたんだろう。

この人が父親だよ、母親だよと言われた写真を一応持ってはいる。だけどそれが本当かどうか証拠も無い。似てはいるから、さすがに本当だろうとは思っているけれど。

この世界の住人はある日突然消える。きっと何か下手なことをしたら、いとも簡単に消されるんだろう。俺みたいに世間では別名で過ごしている人ばかり。消えたところで表の世界は何一つ問題無く時間が流れる。

一般人の常識なんて通用しない世界に俺はいるんだ。だから、芸能事務所で働いていることもホストクラブを経営していることも、もう何も感じない。辞めるなんて選択肢も無い。俺みたいなやつが一日中、身を粉にして働いて資金を集める。これがいわば常識なんだ。

だから罪悪感も無い。恐怖も感じなくなってしまった。誰かのために頑張るなんてものもなければ、自分のために頑張るわけでもない。ただ毎日大金を生み出して、一部を自分の生活費にしてもらっている。一般の人からしたら考えられないほどのお金を持っているけれど、それが嬉しいと思う感情ももう無かった。

それがある日突然変わる。


つづく


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もうちょっとだけ書き続けてみようと思います

まだ書いてる途中で、この先どんな展開になるかわかりません

書いてはすぐに公開してを繰り返すと思います

それでも良ければ、読んでください

目標は毎日更新

頻度はあまり期待しないでほしい

ただおもろいことをしたいだけです


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