クラスター#32

氏名:船田智子(ふなだ・ともこ)
年代:五十代
性別:女性
同居人:あり
職業:飲食店経営
日時:二〇二〇年六月二日


同情される人がいれば、そうでない人もいる。当たり前のこと。医療従事者のほうが私たちの何倍も苦労していることも当然分かっている。

この前代未聞のコロナ禍で必要な人から順番に救っていくとする。私たちはかなり後ろの方みたいだ。

そもそも最初の人たちも未だに救えていない。常に専門家は医療崩壊の危機を叫んでいる。現在進行形で先頭の人たちの優先順位はコロコロと変わり続けている。私たちのことを考えてくれるのはまだまだ先になりそうだ。

もう仕方のないことなんだ。旦那が亡くなったのは、必要な犠牲だった。私たちを見捨ててでも救わなければいけない人たちがいる。それだけのこと。

そんなことを思うと悲しむ気にもなれなかった。

感染防止のために遺体はすぐに隔離された。最後に顔を見ることも出来ずに、私は旦那を見送った。

通夜と葬式も簡易的に行った。友人や常連客など、参列を希望する人はいっぱいいたが、この状況で大人数が集まることは不可能だった。近い親族のみを集めて、最低限の儀式だけをする。「パパっと」終わらせた。そんな言葉が一番近かった。

そして私の旦那が亡くなった出来事は世間では何一つ取り上げられなかった。不思議なくらい報道されなかった。

少しくらいニュースになれば、飲食店の現状を知ってもらう機会になったかもしれない。それで全国の同業者への支援の声があがれば、多少は私の気持ちも救われたと思う。

それが全く無かった。わたしは普段あまり見ないネットも見たが「船田一徹」のニュースは一つも無かった。テレビも取り上げていない。

そうか。やっぱり見捨てられてるんだ。

船田屋でクラスターが発生した直後は、店の電話もクレームが殺到していた。あのクレームをいれていた人たちも、今はまた別の人にクレームをいれているのだろう。

そうやって「怒り」の声も届かなくなり、私たちは忘れ去られていくんだ。

 
あなたへ

守ってあげられなくてごめんなさい。最後は痛い思いをしたことでしょう。大丈夫ですか?

私はあなたの分を一生懸命生きます。

お店はもう続けられないと思います。私一人でお店を続けられるとは思えません。

パートか何かで仕事をしながら、息子を大学まで行かせます。

あなたのことは忘れません。あなたがいたから、私はここまで楽しく生きることができました。

また一緒に料理作りましょうね。


自分の気持ちに整理をするために、そんな手紙を書く。ここで私までくじけてはいけない。コロナだろうがなんだろうが、私は私で生きていかなきゃいけない。それに息子という守らないといけない人もいる。

それを確かめるのに一か月かかった。絶望で何も出来なかったけれど、少しずつ元気も出てきた気がする。

この一か月は喜怒哀楽の感情が湧かなかった。それがじわじわと旦那がいなくなった悲しみを実感するようになった。

テレビを見て少し怒る気持ちも出てきた。テレビは不倫した芸能人のニュースをやっている。日本の片隅で自殺した人のことは一切触れない。

何をどうあがいても、旦那の自殺に世間は気づいてくれない。それはもう諦めないといけないみたいだ。

だって船田一徹が死んでも、世間は何も困らないんだから。


つづく


~~~~~~~~~~~~~~~

進行形で連載するの向いてないですわ!!!

ごめんなさい、ちゃんと更新します

 

もうちょっとだけ書き続けてみようと思います

まだ書いてる途中で、この先どんな展開になるかわかりません

書いてはすぐに公開してを繰り返すと思います

それでも良ければ、読んでください

目標は毎日更新

頻度はあまり期待しないでほしい

ただおもろいことをしたいだけです


感想など、何かありましたら

https://peing.net/ja/mukatsubu

質問箱まで

本来は匿名で質問を送ることの出来るツールですが、僕は一方通行のメッセージを送るツールとしても使っています

これを使えば、どんなメッセージでも完全に匿名で送ることが出来ます

むかいに認識されたくない、だけど感想は送りつけたい

そんなあなたは質問箱に投稿してください

ただし返信は出来ません(誰か分からないので)

特に断りがない限り「これは向井だけに送りたい感想だな」と思ったらTwitterやブログで公開するのは控えます

向井に認識されたい方は各種SNS

Twitter(@mukatsubu)でリプライ・DM、仲の知れたあなたならLINEでも嬉しいです

現在閲覧しているはてなブログ「むかブロ?」はコメント欄を封鎖しています(気づくのが遅くなると思うので)

クラスター#31

氏名:船田智子(ふなだ・ともこ)
年代:五十代
性別:女性
同居人:あり
職業:飲食店経営
日時:二〇二〇年六月二日

旦那が亡くなってから一か月が経った。

感染者数はピークを超えて、少しずつ収束の兆しを見せている。緊急事態宣言も解けて、自粛は少し緩和された。息子の高校も再開した。

それでもまだまだ気を抜くことは出来ない。マスク着用は常識になり、宴会は控えろと偉い人たちが言っている。芸能人が感染したら叩かれるのも相変わらずだ。

私はこの一か月何もしていない。

これから先どうすればいいのか。それを考える気力が湧かなかった。

旦那は入院していた病棟から投身自殺をした。遺書には「感染を拡大させたこと」への自責の言葉が綴られていた。

では、あのときお店を休業することが正しかったのだろうか。現状を見ていると、そうは思えない点がたくさん出てくる。

例えば「緊急事態宣言」。最初に発令されたときは四月七日から五月六日までだった。その通りであれば、店を一か月休業すればよかったのかもしれない。

しかし実際は五月二十五日まで延長された。しかも延長することは五月四日に発表。世間の空気から延長されることは大いに予想できたが、解除まであと二日になるまで延長が発表されなかった。これでは休業したところで、苦しい現実が待ち受けていたのは想像できる。

今、苦しいのは日本人全員、いや、世界の人全員なのかもしれない。だけど、その中で私たちのような個人経営の飲食店はかなり下に見られている気がした。

悪いのはコロナウイルス。ウイルスのせいで全員が苦しめられている。この苦境を乗り越えるためには、絶対に「犠牲」が必要だ。こんなことを口に出すと怒られるのかもしれないが、多少の犠牲はもう仕方のないことだと思う。

その「犠牲」は誰か。最初に犠牲にされたのが私たちだった。そう思うしかなかった。

お医者さんも苦しい日々を送っている。それは世間的にも知られていて、テレビでも「医療従事者に感謝を」とタレントが言っている。この苦難の最前線で戦っている人たちを労ったり、励ましたりするのは当然のことだろう。

国会議員や知事も毎日対応に迫られている。やり方の良し悪しは抜きにして、毎日会見を開き、自分の言葉で感染防止をうたっている。批難の声も多いけれど、それだけ注目されていると言える。

アスリートは活躍の場を失った。これには同情の声が多く上がっている。

学生たちは学びの場が奪われた。九月始まりにしよう、なんて声がちらほらとあがっている。

「この人たちはこうしてあげたらいいのに」

「なんでこうしないんだ」

「彼らがかわいそうじゃないか」

職業に貴賤は無い。人間にカーストは無い。それはやはり幻想みたいだ。


つづく


~~~~~~~~~~~~~~~

【ごめん】やっぱり俺、めんどくさがりやわ……

明日は23時!


もうちょっとだけ書き続けてみようと思います

まだ書いてる途中で、この先どんな展開になるかわかりません

書いてはすぐに公開してを繰り返すと思います

それでも良ければ、読んでください

目標は毎日更新

頻度はあまり期待しないでほしい

ただおもろいことをしたいだけです


感想など、何かありましたら

https://peing.net/ja/mukatsubu

質問箱まで

本来は匿名で質問を送ることの出来るツールですが、僕は一方通行のメッセージを送るツールとしても使っています

これを使えば、どんなメッセージでも完全に匿名で送ることが出来ます

むかいに認識されたくない、だけど感想は送りつけたい

そんなあなたは質問箱に投稿してください

ただし返信は出来ません(誰か分からないので)

特に断りがない限り「これは向井だけに送りたい感想だな」と思ったらTwitterやブログで公開するのは控えます

向井に認識されたい方は各種SNS

Twitter(@mukatsubu)でリプライ・DM、仲の知れたあなたならLINEでも嬉しいです

現在閲覧しているはてなブログ「むかブロ?」はコメント欄を封鎖しています(気づくのが遅くなると思うので)

クラスター#30

氏名:谷太郎(たに・たろう)
年代:三十代
性別:男性
同居人:なし
職業:芸能事務所社員・飲食店経営
日時:二〇二〇年五月十五日


コロナが流行し始めた。タレントの仕事は次々にキャンセルとなった。飲食店も休業を促された。俺の大きな収入が二つとも窮地に追いやられた。

名前も知らない「幹部」を名乗る人と電話で連絡を取ることがある。緊急事態宣言が出るか出ないかってときに、一度連絡を取った。

「テレビのほうは仕方がない。ホストはやれるだけやれ」

「何か対策とかって取ったほうがいいですかね?」

俺の質問は返事をしてくれなかった。このときすごくイヤな予感がした。久しぶりに恐怖を感じた。

「幹部」の言うことを無視するわけにはいかない。店を休業するなんて絶対に無理だ。やるしかない。

俺は従業員に圧をかける。開店前に集会をして、意思を確認した。中には「やっていいんですか?」「客に何か言われたらどうすればいいですか?」と聞いてくるやつもいた。やはり、みんな不安はあるみたいだ。

俺だってこんなときに店をやっていいものか分からない。ただそんなところを従業員に悟られてはいけない。なんて返したか分からないが、やるしかないと強く言った。

結果、クラブ内で集団感染が発生した。

「どうしたらいいですか?」

「揉み消せ。自分で消すんや」

「幹部」からの電話。俺はまず現時点でまだ病院に行ってない従業員には「病院に行くな」と命令。病院で陽性判定を受けたやつは現在三人。

彼ら三人には別で口止めの命令をする。万事に備えて、きちんと法に則ったホストクラブも経営している。そこの従業員と偽装するように処置を取った。

正直、後手後手の対応だ。絶対にどこかでボロが出る。それでもやるしかない。

思っていた通りに自体は悪化する。タレントの原田久美がホストクラブの出入りを証言した。もちろん彼女にも箝口令は敷いた。徐々に外堀を固められ正直に言うしかなくなったみたいだ。

「もしもし、お世話になっております。山下です」

原田のことを報道するなと全テレビ局に念押しする。あとで数百万払うのを条件にテレビ局員は許可した。このテレビ局員ももちろん半グレ。

「原田か?お前余計なことこれ以上言うなよ」

「でも……」

「芸能界から消されないように僕がうまくやるから。そのかわりこれ以上余計なこと言うな」

ホストのことで精一杯ではあったが、芸能事務所の社員としてもうまく立ち回らないといけない。万が一、原田が芸能界から干されたら、また収入が減る。そりゃまた一人タレントを見つければいいのかもしれないけれど、原田を逃がすのは惜しい。

五月に入って、少し原田の話題が減ってきたときにまたネットがざわつく。

原田が合コンをした飲食店の店主が自殺したらしい。その一報が出るとまた原田へのバッシングが熱を帯びた。

「船田さんが自殺したことは事実か?」

「はい。間違いないかと」

テレビ局関係者に聞く限り、間違いないみたいだ。

「いくらでもやる。全マスコミに自殺のニュースを取り上げるなと言え」

なんであんな女一人のためにここまでしなきゃいけないんだ。イライラが募るが、もう火を一個一個消していくしか手段が無い。

「人気モデル 闇ホスト出入りか!? 緊急事態宣言下で」

週刊誌がそんな記事をあげた。それを最初に知ったのは、従業員からのLINEだった。

「こんなん出てますけど、大丈夫ですか?」

大丈夫なわけが無い。誰だ、誰が漏らした。原田か?記事の続きに答えはあった。

「十代の男性が告発。未成年時からホストクラブに勤務し、飲酒を伴う接待をしたことを……」

……ライだ。間違いない。

慌ててライに電話をかける。しかし出ない。

どうする。まずはこの週刊誌に電話をかけるか?いや、もうすでにこの記事が載った雑誌は発売されているんだ。そんなことしても……

八方塞がりで思考が停止しそうな瞬間だった。家のインターホンが鳴る。

「はい」

「今すぐ出ろ」

家のドアを開けると、全身を黒のスーツに身を包んだ男がいた。マスクをし、深く帽子をかぶっている。

「稲田拓について聞きたいことがある」

荷物を持つ余裕すら与えなかった。そのまま家から出され、マンション前につけられた車に乗り込む。

警察であって欲しかった。こんな警察がいるわけない。裏社会の深い深い闇にいる人たちだ。

「稲田が全部吐いた。店のある場所まで全部。あのビルはもう使えない。稲田は警察に保護されてる」

稲田。ライの本名だ。あいつが裏切った。俺と店の仲間を裏切った。

車は全部の窓が覆われている。運転席と後部座席の間もびっしりと覆われていて前も見えない。どこに連れてかれるんだろうか。

「えらいことになってしまったわ。お前だけじゃ済みそうにないな」

父親と母親も最後はこんな感じだったんだろうか。この世界は少しのミスで簡単に消されてしまう。自分の寿命のカウントダウンがいつの間にか始まっていた。

あのとき幹部に歯向かって店を休業すれば良かったのか?ライに金を積めば良かったのか?いや、何をどうやってもこれは避けられなかった。「俺は悪くない」そんな命乞いをする隙も時間も無さそうだ。

憎むべきはコロナ。コロナが無ければ、こんなことにはならなかったはずなのに。

今まで自分は悪銭を手にして生きてきた。山下だとか中尾だとか、自分が誰なのか、自分も分からない。あるときは素人の女を褒めちぎって、あるときは従業員に怒鳴りつける。振り返ってもろくな人生じゃない。

人間失格。生きる価値無し。元々あってないような命。消えたところで悲しむ人なんて一人もいない。

そんなやつは「悔しい」と思う資格も無い。だけど、今は少しだけ悔しかった。


つづく


~~~~~~~~~~~~~~~


もうちょっとだけ書き続けてみようと思います

まだ書いてる途中で、この先どんな展開になるかわかりません

書いてはすぐに公開してを繰り返すと思います

それでも良ければ、読んでください

目標は毎日更新

頻度はあまり期待しないでほしい

ただおもろいことをしたいだけです


感想など、何かありましたら

https://peing.net/ja/mukatsubu

質問箱まで

本来は匿名で質問を送ることの出来るツールですが、僕は一方通行のメッセージを送るツールとしても使っています

これを使えば、どんなメッセージでも完全に匿名で送ることが出来ます

むかいに認識されたくない、だけど感想は送りつけたい

そんなあなたは質問箱に投稿してください

ただし返信は出来ません(誰か分からないので)

特に断りがない限り「これは向井だけに送りたい感想だな」と思ったらTwitterやブログで公開するのは控えます

向井に認識されたい方は各種SNS

Twitter(@mukatsubu)でリプライ・DM、仲の知れたあなたならLINEでも嬉しいです

現在閲覧しているはてなブログ「むかブロ?」はコメント欄を封鎖しています(気づくのが遅くなると思うので)

クラスター#29

氏名:谷太郎(たに・たろう)
年代:三十代
性別:男性
同居人:なし
職業:芸能事務所社員・飲食店経営
日時:二〇二〇年五月十五日


暴力団」「やくざ」「裏社会」……

世間ではそう言われる世界に俺はいる。

この世界に入ったきっかけなど無い。気づいたら入っていた。

父親も母親も裏社会の住人。俺に流れる血は完全に汚れている。

よく言われる。暴力団って一体どうやって稼いでいるの?資金はどこにあるの?

資金源は話すとキリが無い。ただ日常のありとあらゆる場所に我々の影はある。

俺がやっているのは二つ。一つは芸能人事務所で働いている。

いわゆるマネージャー。タレントのスケジュール管理を行い、仕事を見つけてくる。

テレビ局の知り合いに同じ社会の人間が山ほどいる。その人たちに言えば、テレビに出る仕事なんていくらでも手に入る。あとは俺がテレビ受けする「タレント」を用意する。

昔は自らスカウトをやっていた。とにかくたくさんの若い人に声をかける。特に女の子。多少可愛くて目立ちたがりな子であれば、食いつきはする。あとは才能があるかどうか見極めるだけ。

自分で言うのもなんだが、俺のスカウトの技術はかなり良かった。一目見た瞬間にこの子は売れると感じる。そういう子に仕事を当てると必ずはねる。テレビには俺が見つけて育てたタレントがたくさんいる。

テレビの仕事はギャラがいい。一般の企業に勤めている人が聞いたら驚くと思う。その甘い蜜を我々は資金にしている。

タレントがテレビに出てもらえるギャラ。その六割は事務所、四割はタレントでうちはやっている。四割でもなかなかの額だから、素人あがりのタレントは喜ぶ。人気者になって浮かれているやつを横目に俺たちはたんまりと稼いでいる。

二つ目の仕事は飲食店。飲食店と言っても、ただのホストクラブだ。

俺が経営しているホストクラブは全部で三件ある。

特にとあるビルの最上階にある店は一番の売り上げがある。会員制で店名も無く、隠れ家のような店。そこにVIPのお客さんが集う。

VIPのお客さんとは誰か。ずばり芸能人だ。

浮かれた芸能人が羽振りよく大金を落としてくれる。一晩でうん千万の売り上げがあった日もあった。俺は開店前に店を覗き、あとはホストたちが騒ぐだけ。目が覚めれば、あっという間に大金が手に入った。

昼間に勤めている芸能事務所のタレントたち。彼女たちにこの店をそれとなく勧める。これがまあ面白いくらいにまんまとハマる。

つまりタレントのギャラの六割を事務所のものとして受け取っているが、残り四割すらも我々の手に収まるように仕組まれている。ちゃんと計算をしたことはないが、テレビのギャラの八割は最終的に裏社会へ吸い込まれているんじゃないだろうか。

昼間は山下守。芸能事務所職員。夜は中尾克己。ホストクラブ経営。二つの顔で私は生活をしている。

本名は谷太郎、と思う。はっきり言って自分のこれが本名なのかも怪しい。

よく社会の歯車なんて表現があると思う。一般企業の社会人は、あまりいい意味合いで無く「歯車」と表現されている気がする。

ならば俺は裏社会の歯車だ。

父親も母親も幼い頃に亡くなった。亡くなった原因も知らない。きっとこの社会の幹部のような立場の人に潰されたんだろう。

この人が父親だよ、母親だよと言われた写真を一応持ってはいる。だけどそれが本当かどうか証拠も無い。似てはいるから、さすがに本当だろうとは思っているけれど。

この世界の住人はある日突然消える。きっと何か下手なことをしたら、いとも簡単に消されるんだろう。俺みたいに世間では別名で過ごしている人ばかり。消えたところで表の世界は何一つ問題無く時間が流れる。

一般人の常識なんて通用しない世界に俺はいるんだ。だから、芸能事務所で働いていることもホストクラブを経営していることも、もう何も感じない。辞めるなんて選択肢も無い。俺みたいなやつが一日中、身を粉にして働いて資金を集める。これがいわば常識なんだ。

だから罪悪感も無い。恐怖も感じなくなってしまった。誰かのために頑張るなんてものもなければ、自分のために頑張るわけでもない。ただ毎日大金を生み出して、一部を自分の生活費にしてもらっている。一般の人からしたら考えられないほどのお金を持っているけれど、それが嬉しいと思う感情ももう無かった。

それがある日突然変わる。


つづく


~~~~~~~~~~~~~~~


もうちょっとだけ書き続けてみようと思います

まだ書いてる途中で、この先どんな展開になるかわかりません

書いてはすぐに公開してを繰り返すと思います

それでも良ければ、読んでください

目標は毎日更新

頻度はあまり期待しないでほしい

ただおもろいことをしたいだけです


感想など、何かありましたら

https://peing.net/ja/mukatsubu

質問箱まで

本来は匿名で質問を送ることの出来るツールですが、僕は一方通行のメッセージを送るツールとしても使っています

これを使えば、どんなメッセージでも完全に匿名で送ることが出来ます

むかいに認識されたくない、だけど感想は送りつけたい

そんなあなたは質問箱に投稿してください

ただし返信は出来ません(誰か分からないので)

特に断りがない限り「これは向井だけに送りたい感想だな」と思ったらTwitterやブログで公開するのは控えます

向井に認識されたい方は各種SNS

Twitter(@mukatsubu)でリプライ・DM、仲の知れたあなたならLINEでも嬉しいです

現在閲覧しているはてなブログ「むかブロ?」はコメント欄を封鎖しています(気づくのが遅くなると思うので)

クラスター#28

氏名:高田良信(たかだ・よしのぶ)
年代:六十代
性別:男性
同居人:あり
職業:スポーツ施設管理人
日時:二〇二〇年五月二十五日


原因は冷戦。ソ連からアフガニスタンへの軍事侵攻に抗議したアメリカ大統領が、ソ連・モスクワで開かれるオリンピックへのボイコットを提唱した。日本はそれに従った。

当然、私を含めた選手団は強く反発した。だけど、そんな声は何一つ聞いてもらえなかった。

私は幻のオリンピック代表となった。

その後も次の大会を目指し練習に励んだが、周りにどんどん追い抜かされた。大会でも結果を出せず、次のロサンゼルスオリンピックのときには、私は過去の選手となっていた。

現役を引退したあとは指導者に転身。未来の水泳選手の育成に励んだ。

そのときに必ずあの経験を忘れないようにしている。

この子たちがスポーツをやれる時間や場所を奪ってはいけない。もう二度とあのときの私のような苦しい思いをさせない。

あのとき勝手にボイコットを決めたのは、大人たちだった。あんな大人にはならない。それが私のスポーツに携わり続けるモチベーションだった。

そんな私が世間でいう定年の年齢になったとき、この施設のことを知った。この施設は私が守らなければ、跡形も無く消える。

スポーツを守る。アスリートを守る。運命を感じた私は、指導者を辞職。持っている財産を全てはたいて、この施設を買い取った。

内装、外装、全てをリフォームし古びたイメージを刷新。知り合いのつてを辿って、最新のトレーニング機器を導入。そして、この施設の隣に自宅まで作った。

この先、五十年くらい営業を続ければ、元は取れるかな?当然、大赤字だった。それでもいい。スポーツをしたい純粋な少年少女が練習できる場所を守り続けたかった。

その思いは伝わり、部活の合宿などで利用者は絶えなかった。思っていた以上に収入は増えた。プロの選手も来るようになった。

野球のことは分からない。体もそこまでピンピン動かない。だから、私は空間を作るだけ。そこに情熱を注いだ。

「面白い話、ありがとうございます」

「いや、たいした話じゃないよ」

安田くんはしっかりと報酬を払った。私はそんなお金になるような話ではないと思っていたから断った。だけど、あちらも「記者としての決まりなんで」と引かなかったので、結局受け取った。

後日、郵便が届いた。中身は私のインタビューが掲載された新聞であった。私の半生、施設のこと、私の思い。全てをありのまま、かつ面白く書かれていた。

「マスコミ」を毛嫌いしていた部分はあった。新聞記者なんて注目さえされれば、何を記事にしてもいい。そんなイメージ。

あのオリンピックのときだって、大会に向けて盛り上げて、ボイコットを煽って、マスコミは騒ぐだけだった。

だけど、彼は違うのかもしれない。世の中の「人」にスポットを当てて、良い記事を書く。そんな当たり前のことを素直にし続けている。

首都スポーツ新聞はかなり経営が悪化しており、他のスポーツ紙に追いやられているらしい。その中でも、ただただ「いい記事」「おもしろい記事」を書こうとしている彼の気持ちに惹かれた。

この日以降も時折、私の施設で練習をする選手に会いに取材に来てくれた。そのたびに私にも挨拶をしてくれた。

そんな彼が今、渦中の私の家まで来てくれたのである。

「安田くん。どうしたんだい?」

「電話にも出てくれないんで、心配したんです」

電話も同じ。だいたいどっかのマスコミがこのコロナの騒ぎについて聞きたいと電話をかけてくる。無視し続けていた。

「私なら元気だよ」

「良かったです」

「……それで?」

わざわざ心配のために来たのか?

「いえ、世間の高田さんのバッシングを少しでも減らしたくて……。お願いです、取材を受けてくれませんか?」

「…………」

「高田さんはスポーツの火を絶やしたくないって、その一心だったと思うんです。悪気なんて無かったと思うし、きっと高田さんが本音で語れば世間も分かってくれると思うんです」

「馬鹿なことを言うな」

私は抑えめの声でたしなめる。しかし彼は聞かない。

「僕は悔しいんですよ。下田選手だって表選手だって、きっと高田さんのことを悪いなんて思ってないはずです。それなのに……」

「安田くん」

「…………」

「じゃあ私の話を聞いて、それを記事にするのかい?」

「はい。ネットニュースにすれば、若い人にも読んでもらえるかと思って……」

「そんなことしたら、君たちの新聞社がつぶれてしまうじゃないか」

「でも……」

安田くんは今のこの世間の情勢を見たうえで、私のところまで来てくれた。彼は私を擁護しようとしてくれているのだ。だけど不思議と「嬉しい」と思えなかった。

コロナウイルスが猛威を奮っている。スポーツイベントは軒並み中止。部活の大会も消えて、東京オリンピックも延期が決まった。

私はあのときの気持ちを思い出す。

まただ。またあのときみたいに、今一生懸命頑張っている人たちの努力が消えてしまう。

「うちの施設なら使ってもいいよ」

連絡が取れる人たちに、そんなメールを送った。公には営業は出来ない。それでも、ちょっとでも体を動かす場所さえあれば、気持ちは楽になるはず。これが私が出来る最低限のこと。スポーツを頑張る人を守ること。

断る人も多かったが、来てくれる人もいた。あの緊急事態宣言で世間が自粛している中で唯一、私の練習場が体を動かせる場所だった。

その自惚れが大きな過ちであることを後に知る。

私のことをかくまってくれるのは、あのインタビューをしてくれた安田くんだけだろう。安田くんなら、なぜ私がわざわざあの状況で練習場の利用を許可したか理解してくれる。それは私にも分かる。

「安田くん」

「はい」

「ありがたいけれど、ダメなものはダメなんだ。私のやったことは間違いだった。これはもう明らかなんだよ」

インターホンごしだから表情は分からない。私も安田くんも、きっと同じ表情をしているだろう。

「……分かりました」

安田くんは再度私の体調を確認して、帰った。

すまない、安田くん。君みたいに私のことを肯定してくれる人は、もしかしたらちょっとだけいるかもしれない。

それでもこうなってしまった以上、私の行いは間違いだったんだ。


つづく


~~~~~~~~~~~~~~~


もうちょっとだけ書き続けてみようと思います

まだ書いてる途中で、この先どんな展開になるかわかりません

書いてはすぐに公開してを繰り返すと思います

それでも良ければ、読んでください

目標は毎日更新

頻度はあまり期待しないでほしい

ただおもろいことをしたいだけです


感想など、何かありましたら

https://peing.net/ja/mukatsubu

質問箱まで

本来は匿名で質問を送ることの出来るツールですが、僕は一方通行のメッセージを送るツールとしても使っています

これを使えば、どんなメッセージでも完全に匿名で送ることが出来ます

むかいに認識されたくない、だけど感想は送りつけたい

そんなあなたは質問箱に投稿してください

ただし返信は出来ません(誰か分からないので)

特に断りがない限り「これは向井だけに送りたい感想だな」と思ったらTwitterやブログで公開するのは控えます

向井に認識されたい方は各種SNS

Twitter(@mukatsubu)でリプライ・DM、仲の知れたあなたならLINEでも嬉しいです

現在閲覧しているはてなブログ「むかブロ?」はコメント欄を封鎖しています(気づくのが遅くなると思うので)

クラスター#27

氏名:高田良信(たかだ・よしのぶ)
年代:六十代
性別:男性
同居人:あり
職業:スポーツ施設管理人
日時:二〇二〇年五月二十五日


女子ソフトボール日本代表、下田美知子。彼女が新型コロナ陽性というニュースが流れたのは昨日だった。そして今日、マスコミは私のところへ押しかけて来ている。

突然、インターホンが鳴る。出ると「○○テレビ」とテレビ局の報道関係者を名乗った。

「なんの用でしょうか」

「下田選手の新型コロナ陽性についてお伺いしたいことがあるんですけど」

「何も話すことはありません」

こんなやり取りを今日だけで五回もした。

理由は明確で、彼女が感染した場所が私の管理している室内練習場ではないかとされているからだ。

テレビでは下田の名前とともに、室内練習場が映し出されている。

「緊急事態宣言が出ているにも関わらず、彼女は練習を続けていた模様です」

ニュースは誰かを戦犯にしないと気が済まないみたいで、私や下田はどこぞのコメンテーターに激しく非難されている。

彼女だけが感染したなら、ここまでの騒ぎにはならなかったかもしれない。だが、私の練習場を利用していた人物が次々に陽性反応が出た。

私の管理や感染防止対策が杜撰だった。これは言い逃れが出来ない。

またインターホンが鳴る。

「なんでしょうか」

「首都スポーツ新聞の安田です」

安田くんか。

彼は私との付き合いはそれなりに長い。いつだったか、この練習場で自主トレーニングをしている野球選手を彼は取材しに来ていた。

「はじめまして、安田と申します」

別に私なんて放っておけばいいのに、わざわざ名刺を渡して挨拶をしてくれた。

「高田さんって、水泳の選手ですよね」

「ええ?はい」

「どうして、今はこの施設の管理をされているのでしょう」

私は答えるのが面倒くさかった。答えたところで面白くもならない。こいつは世間話でもしたいのかもしれないけれど、私はそんな社交的では無い。

「それを聞いて何かあるんですか?」

かなり不機嫌に返してしまう。

「……あ。いえ、別に。少し気になっただけで」

彼も私の機嫌を察して一歩下がる。少しきつく言い過ぎただろうか。

「じゃあ今度正式にインタビューさせてもらってもいいでしょうか?」

しかし彼は諦めない。今度は仕事として私に話が聞きたいと言う。

「別に好きにしてくれたらいいよ」

まあどうせすぐに忘れるだろうと思った。しかし、彼は本当にインタビューの依頼をくれた。

後日、改めて私のところへ来てくれた。

「面白いこと何も無いよ」

「私が気になるだけなんで」

二時間くらいインタビューされた。彼は無礼な態度を一切見せずに誠実に私と話をしてくれた。

彼が私に聞きたいこと。それはかつて水泳の選手だった私がなぜ今、野球の練習をする施設の管理人をしているのか。

これの答えは簡単で、たまたまこの施設が潰れる話を聞いたから。

都心から車でないと来れない立地。施設の老朽化。野球人口の減少。そんな世間の煽りを受けて、この室内練習場はひっそりと閉業していた。

もうすぐ取り壊す。そんなときに私はこの施設のことを知った。

このとき私は水泳の指導者をしていた。しかし、もう六十を過ぎた。一般の人ならば定年の歳になる。私の代わりの若い人はいくらでもいる。いつまでも指導者としてやっていけるとは思っていなかった。

そんな私には小さな夢があった。水泳だけじゃなく、スポーツ界全体のためになるような活動がしたい。

私はかつてオリンピック日本代表にまでなるくらい、アスリートとしての人生を全うしてきた。大して勉強もしていないし、出来ることは「水泳」だけ。だから、私はスポーツ以外のことは出来ない。

それに私にはかつての“苦い経験”がある。あの経験を語り継いでいくことも自分の使命だと思っていた。

モスクワオリンピックのことですか?」

安田くんは聞く。私は驚いた。

「知っていたのか。君は」

「はい」

安田くんは兼ねてから私のことが気になっていたらしい。それで私の過去も調べてくれていた。

私は中学、高校時代は水泳に明け暮れていた。その頃は全国大会でも入賞を重ねていたが、まだまだ日本を代表する水泳選手とは言えなかった。

大学に進学。大学のコーチが自分を覚醒させてくれた。大会に出るたびに当時の日本新記録を打ち出す。向かうところ敵無しだった。

一九八〇年。モスクワでオリンピックが開かれる。その前年も私は絶好調で、日本選手権は学生ながら優勝した。

成績から見て文句無し。私は日本代表に選ばれた。合宿などにも参加し、世界で戦う選手を目指しひたすら泳いだ。

が、しかし。一九八〇年五月二十四日。モスクワオリンピック開会式まであと二ヶ月というときに、日本政府は日本選手団のボイコットを決定した。


つづく


~~~~~~~~~~~~~~~

【ごめんね】今週、ちょっと忙しかった

明日はちゃんと23時に更新します

 

もうちょっとだけ書き続けてみようと思います

まだ書いてる途中で、この先どんな展開になるかわかりません

書いてはすぐに公開してを繰り返すと思います

それでも良ければ、読んでください

目標は毎日更新

頻度はあまり期待しないでほしい

ただおもろいことをしたいだけです


感想など、何かありましたら

https://peing.net/ja/mukatsubu

質問箱まで

本来は匿名で質問を送ることの出来るツールですが、僕は一方通行のメッセージを送るツールとしても使っています

これを使えば、どんなメッセージでも完全に匿名で送ることが出来ます

むかいに認識されたくない、だけど感想は送りつけたい

そんなあなたは質問箱に投稿してください

ただし返信は出来ません(誰か分からないので)

特に断りがない限り「これは向井だけに送りたい感想だな」と思ったらTwitterやブログで公開するのは控えます

向井に認識されたい方は各種SNS

Twitter(@mukatsubu)でリプライ・DM、仲の知れたあなたならLINEでも嬉しいです

現在閲覧しているはてなブログ「むかブロ?」はコメント欄を封鎖しています(気づくのが遅くなると思うので)

クラスター#26

氏名:斎藤知奈美
年代:二十代
性別:女性
同居人:あり
職業:女優
日時:二〇二〇年六月五日


感染は拡大する一方。政府は緊急事態宣言を発令。結婚式を開催できる理由は何一つ無かった。結婚式の中止が決まった。

心にぽっかりと穴が空く。仕事も無い、結婚式も無い。旦那も同じ。

こんな状況が続いたら、私たちどうなるんだろう。そりゃ貯金はあるかもしれないけれど、このままだといつか生活が破綻してしまう。

そんな私に追い打ちをかけるかのように、彼の態度も豹変した。

二人で家にずっといるなんて、これが初めてだったかもしれない。家にいても、台本を読む時間など仕事の時間が多い。何もすることなく、二人で同じ空間に毎日いるのが、新鮮だった。

最初は二人で録り溜めていた映画やドラマを観て、まったり過ごした。手作りのご飯を一緒に食べ、新婚らしい生活を送った。

それが徐々に崩れていく。

建は毎日夕方になると、コンビニに行ってお酒を買ってくる。相当な量。それを一晩で開ける。

「飲みすぎだよ」

「飲まないとやってられないだろ」

その気持ちは分かる。私も一緒にお酒に付き合ったりして、最初はやりすごしていた。

次第にお酒はエスカレートする。飲む量が増える。朝になっても起きない。言葉遣いが荒くなる。

「ねえ、建くん。そんなに飲んだら体に悪いって」

「うるせえ」

あれ?ちょっとずつ建が離れていく。私の好きだった建じゃなくなっていく。

「建くんってば!」

「黙れ!」

平手が私の頬に飛んでくる。うそ、ほんとに?信じられなかった。私、殴られた?

建もさすがに殴ったあとに我に返る。

「ごめん、知奈美。やりすぎた」

建は土下座をして謝った。

仕事が無い不安、コロナがまだ続きそうな不安、それに毎日押しつぶされそうだと泣いて言い訳をした。

許す、許さないを考える余裕も無かった。仮に許さなかったところで、これからどこに行けばいい?別れたところで、このコロナ禍じゃ行くあてがない。お金も無い。

私はこれからずっとこの人と一緒にいなきゃいけないのか?お酒に酔ったら人を殴る人と一緒にいなきゃいけないのか?

このときは「いいよ」と言った。だけど、建は次の日も同じようにお酒を大量に飲み続けた。

聞いたことがある。お酒で人が変わるんじゃなくて、お酒がその人の本性を暴くんだって。

今まで仕事に夢中で、建のいいところしか見てこなかった。それが一緒にいる時間が増えて、最悪な一面を見てしまった。

もしかして私、人生ミスってる?

だってこの先ずっといつ殴られるかと怯えながら生きていかなきゃいけないんだよね?そりゃ人間一つや二つダメな部分は持っている。それを受け入れてこそ最大のパートナーなのかもしれない。

だけど、それが「暴力」だと話は別。常に殴られるかもしれないという恐怖に怯えて暮らさないといけない。襲われて死ぬかもしれない。

無理だ。私、無理かもしれない。考えれば考えるほど、無理になる。

こういうとき、今までどうしてた?そうだ私は正直に気持ちを伝えてたんだっけ。

「建くん。私、別れたい」

こないだの暴力の件の恐怖が未だに離れないことを正直に話す。このときの私はまだほんの少し希望を捨ててなかったかもしれない。

「もう二度と暴力はしません。お酒も飲みません」

そう言ってくれる建が見たかった。それを受け入れるかどうかは別として、本気で反省している建が見たかった。

私の話を聞き終えると、建は私の髪の毛を掴んだ。

「ふざけるなよ。全部俺が悪いとでも思ってんのか?」

六月五日。今、私は友達の家にいます。

公演延期が決まってからも稽古を続けた劇団内で新型コロナに感染してしまいました。結果、一か月ほど入院。最終的に陰性の判定が出て、やっと退院できました。

帰る家がありませんでした。あの日、建は謝るどころか見事な逆ギレ。私は前回よりも強く暴力を振るわれました。

命からがら家を飛び出し、警察に保護。そのまま彼は逮捕されました。

保護されているときに、保健所から連絡があり、陽性が判明。結局、私が原因で警察内でもクラスターを起こし、散々な目に遭いました。

「コロナじゃなかったら、何年もあとにDV受けてたかもよ。あんなやつと早く別れられたんだからまだ良かったじゃん。ね?」

友達はこうやって励ましてくれます。その通りかもしれない。あいつと別れることが出来たのは幸いかもしれない。

だけど、たまに思う。

もしコロナが無ければ、今頃どうなってたかな?

彼の心が荒むこともなかったかもしれない。彼はずっと優しい男だったかもしれない。

建だってあれだけのお金を貯金していたんだから、本気だったのは間違いない。暴力を許せるわけないけれど、でも建だって……。

コロナが無ければ結婚式を挙げられたのに。コロナが無ければ幸せな夫婦生活を送れていたのに。

コロナが無ければ。強く握られてついた左腕のあざも無かったはずなのにな。


つづく


~~~~~~~~~~~~~~~


もうちょっとだけ書き続けてみようと思います

まだ書いてる途中で、この先どんな展開になるかわかりません

書いてはすぐに公開してを繰り返すと思います

それでも良ければ、読んでください

目標は毎日更新

頻度はあまり期待しないでほしい

ただおもろいことをしたいだけです


感想など、何かありましたら

https://peing.net/ja/mukatsubu

質問箱まで

本来は匿名で質問を送ることの出来るツールですが、僕は一方通行のメッセージを送るツールとしても使っています

これを使えば、どんなメッセージでも完全に匿名で送ることが出来ます

むかいに認識されたくない、だけど感想は送りつけたい

そんなあなたは質問箱に投稿してください

ただし返信は出来ません(誰か分からないので)

特に断りがない限り「これは向井だけに送りたい感想だな」と思ったらTwitterやブログで公開するのは控えます

向井に認識されたい方は各種SNS

Twitter(@mukatsubu)でリプライ・DM、仲の知れたあなたならLINEでも嬉しいです

現在閲覧しているはてなブログ「むかブロ?」はコメント欄を封鎖しています(気づくのが遅くなると思うので)