クラスター#12

氏名:黒木結芽(くろき・ゆめ)
年代:十代
性別:女性
同居人:あり
職業:中学生
日時:二〇二〇年四月二十二日
 

私のパパはお笑い芸人をしている。売れっ子とまではいかないけれど、そこそこテレビにも出ている。

パパのことはそこまで好きではなかった。お笑い芸人だからとか、そんなんじゃなくて、普通に人間としてだらしがない。

私が小学四年生のときにパパとママは離婚した。これと言った原因はあんまりわかんないけど、ママがパパにいつも怒っているのをそばで見てきた。ずっと仲が悪かったから、愛想を尽かされたんだと思う。

私は小さい頃からママっこで、喧嘩したときもママの味方になっていた。「離婚する」って聞いたとき、私はすぐに「ママに着いていく」と言った。だけど、ママはそれを許さなかった。

「パパのほうがちゃんとお給料多いし、これからの結芽のことを考えたら絶対にパパに着いていったほうがいい」

泣きじゃくる私にママは優しく言い聞かせた。

「ママとならいつでも会えるから」

その言葉を信じて、私はパパに着いていった。

ママのあの言葉は嘘だった。次第に連絡をしても返してくれなくなり、今はどこで何をしているのか分からない。パパとは違って一般人だから、何の情報も無い。

小学生のときは「なんで?」って思っていた。ただもうすぐ十五になる私には分かる。もうママにとって私たちは家族でもなんでもないんだって。関わりたくないんだって。そんな悲しみがちょっとずつちょっとずつ大きくなっていった。

パパとの二人暮らし。お笑い芸人って不安定な職業だと思われるかもしれないが、パパは芸能界をしぶとく生き残っている。実際に私の学費やおこづかいもちゃんとくれる。仕事に関しては立派にこなす人だった。

だけど、家のことは何一つしてくれない。小学生のときは一生懸命ご飯を作って、パパと一緒に食べていた。それも次第に無くなった。

「仕事の人と飲み会に行ってくるから」

そう言って五千円札を置いて出ていく。それが当たり前となり、私とパパが一緒にご飯を食べる機会は無くなった。小学校を卒業する前は「たまには外食でも行くか!」って連れてってくれたけど、それも無くなった。

洗濯や掃除は私が担当している。それ以外はもう同じ家族とは思えない生活だった。一週間くらいパパの顔を見ないときもある。

別にパパは私を嫌っているわけではないみたい。会ったら元気に話すし、連絡もこまめにくれる。だけど、家族とか父親としての愛情は何一つ感じなかった。

お金をくれるから一緒にいるだけ。最近はそんな感じ。高校生になったらアルバイトして自分のお金で生活をしよう。もう一人で生きられるって思っていた。家を出ていったママの気持ちが今になってやっと分かった気がする。

そんなときに、この事件が起きる。パパからの着信は新型コロナに感染したという報告だった。

はじめは仕事かなんかで感染したのかと思った。だけどパパはぶつぶつと話を続ける。

「こないだ飲み会に行って、そこで感染してしまったみたい……」

あとからネットニュースになっているのを見た。あの緊急事態宣言で自粛ムードのなか、パパは合コンをしていたらしい。

「仕事、大丈夫?」

「リモートで収録とかがあるから大丈夫」

そんな会話をして、朝も夜も出かけていた。それも嘘だったみたい。仕事に行くフリをして、モデルや女優と飲み会に行ってたらしい。

「それで、結芽が濃厚……」

私はパパの言葉の途中で電話を切る。

もう我慢できなかった。こんなやつの声を聞きたくなかった。

私が学校に行けない原因がこんなにすぐそばにいたなんて。許せないと思っていた人が、私のパパだったなんて。

スマホは再び震える。もちろんパパからの着信。私は無視をする。いや、そもそもこんなやつ「パパ」じゃない。

私はこの人のLINEアカウントをブロックする。電話番号やメアドも拒否設定をする。

そのあとすぐにクローゼットの奥からキャリーケースを取り出した。その中に私物を詰めれるだけ詰める。入らなかったものはリュックサックに入れる。

もうこの家にはいてられない。お金をくれるから一緒に生活をしていたけれど、もうこんなやつの顔も見たくない。このニュースでタレントとしてのイメージも下がるだろうから、もうお金も期待できないかもしれない。一緒にいる理由が無かった。

私の部活の引退試合を返せ。私の修学旅行を返せ。

一人で生きてやる。絶対に。私は怒りに任せて玄関のドアを開けた。


つづく


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もうちょっとだけ書き続けてみようと思います

まだ書いてる途中で、この先どんな展開になるかわかりません

書いてはすぐに公開してを繰り返すと思います

それでも良ければ、読んでください

目標は毎日更新

頻度はあまり期待しないでほしい

ただおもろいことをしたいだけです


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