氏名:小野寺もも(おのでら・もも)
年代:二十代
性別:女性
同居人:なし
職業:女優
日時:二〇二〇年四月二十三日
劇団青息吐息。ここならもし出演できれば大きな話題になるだろう。
私の狙いは的中し、オーディションはあれよあれよと合格。新作舞台に主演として出演することになった。
が、またここで一つ問題が発生する。新作舞台のタイトル「いつもの夜」とともに、主演はダブルキャストで上演されることが発表された。
「ダブルキャスト」とは一つの役を二人の俳優が務めること。公演によって演じる役者が変わる。劇団青息吐息は今回はA公演とB公演に分けて上演する。私はB公演の主演を務めることになった。
A公演は斎藤知奈美が主演。彼女もまた売り出し中の若手女優だった。
劇団側が何を意図しているかは分からない。だけど、私は内心何も納得していなかった。どうして私一人に主演を任せられないのか。そこまで信頼されていないのか。次から次へと不満は湧く。
そして行きつく答えは一つ。斎藤をつぶす。ダブルキャストは確実に比較対象となる。だったら私が圧倒的な演技でひねりつぶしてやろう。私はいまだかつてないほど燃えていた。
そんな闘志をむき出しにして稽古を続けていた私に最悪のニュースが飛び込む。「いつもの夜」は公演延期となった。
理由はテレビを見れば明らか。新型コロナが流行し、イベントは何もかも中止。劇団四季や宝塚といった全国的な知名度を誇る劇団も公演中止に追い込まれた。
その余波は当然小さな劇団も受ける。劇団青息吐息もギリギリまで公演決行を検討したが、この状況でやるのは無理と判断。公演延期が発表された。
唯一の救いは「延期」であること。代表で演出家の道重は劇団員やスタッフにこう話してくれた。
「絶対にやる。得体のしれないウイルスなんかに負けてたまるか。今本番をやるのは、世間的に厳しい。だけど、いつそのときが来てもいいように準備は続ける」
道重さんがそう言うんであれば、私たちも着いていくしかない。先が見えない状況が苦しくはあったが、私は本番が出来る日を信じて稽古を続けた。
今日は六時から稽古。それの支度をする。
ダブルキャストの不満はずっとずっと心にある。時折稽古場で斎藤と会うが、目も合わせてくれない。相手もその気なんだ。だったらこっちだってぶつかってやろうじゃないの。
休む。そんな選択肢は私には無い。家を出る前にジュースを飲んだけれど、ちゃんと味がする。大丈夫、これはコロナではなく風邪だ。風邪なら休むわけにはいかない。
仮にコロナだったとしよう。私は最近は稽古場と自宅しか行き来していない。唯一心当たりがあるのはこないだの合コン。
「ねえ、ももちゃん。お願い」
くーみんが直接電話でそう言って来た。オブラートに包んで色々言ってくれたが、まあ数合わせでしかなかった。相手のお笑い芸人も野球選手も名前は聞いたことある程度。
「本当に本当にお願い」
しつこい。私は「表 プロ野球選手」でグーグル検索をかける。
ふーん、そっか。三流の選手かと思ったがわりと活躍してるみたいだ。「期待の若手」とあちこちで書かれている。年俸は三千万か。
「……分かったよ、今回だけね」
結局押されて参加はしたけれど、はっきり言って大して盛り上がらなかった。芸人も野球選手もつまらなかった。くーみんはあの野球選手ともう一軒行ってたけれど、私は一次会で帰った。
お酒を飲んだのは二時間ちょっと。もし誰かがウイルスを持っていたとしても、二時間じゃかからないでしょ。
私はマスクをして、稽古場へ出発した。
つづく
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もうちょっとだけ書き続けてみようと思います
まだ書いてる途中で、この先どんな展開になるかわかりません
書いてはすぐに公開してを繰り返すと思います
それでも良ければ、読んでください
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