クラスター#25

氏名:斎藤知奈美
年代:二十代
性別:女性
同居人:あり
職業:女優
日時:二〇二〇年六月五日


「結婚してください」

去年の夏。プロポーズされた。

寺島建。私と同じ俳優。ドラマの共演で知り合った。

付き合い始めたのは三年くらい前。相手から「お付き合いしてください」と言われた。このときは正直かなり迷った。私は仕事を優先したかったから。

十八歳のときに女優デビュー。高校卒業後は女優業に専念した。ライバルはいくらでもいる。私に恋愛なんてしてる暇あるだろうか。そこが心配だった。

正直にそう言った。すると彼はこう返した。

「俺のことは優先してくれなくてもいいから。俺は知奈美を一番に優先する」

建はいわゆる「イケメン俳優」。甘いルックスで女性ファンも多い。そんな彼が言った、このセリフ。自分に自信がある人にしか言えないセリフだなって思った。

結局、私は建と付き合うことにした。人生でこんなイケメンと付き合える機会なんて無いって下心が勝ってしまった。

建は宣言通り、私に尽くしてくれた。どんなに仕事が忙しくても、こまめに連絡をくれた。お互いまだまだ端くれだけど芸能人。世間に交際がバレないようにも配慮してくれた。

建も私も仕事は順風満帆とはいかなかった。お互い食っていくお金はあるけれど、なかなか役のランクが上がらない。同期や年下が主演を務めているのを見て、私はかなり焦っていた。

そんなときに建は大役が決まった。民放の連ドラの三番手の役。ドラマはゴールデンタイムの放送。もしこのドラマがはねれば、一気に人気俳優になれる。千載一遇のチャンスだった。

それが決まってから数日後。彼はプロポーズした。

いや……。女性として、建の彼女として、プロポーズは嬉しかった。結婚願望はあったし、建とならこれからもやっていける気はしていた。

だけど、今じゃないでしょ。まだ役が決まっただけ。視聴率が伸びずに大コケする可能性だってある。彼にとっては一世一代のプロポーズかもしれない。でも私には浮足立っているようにしか見えなかった。

「まだ早いんじゃない?」

告白されたときと同じように、私は正直に自分の気持ちを伝える。

すると彼は通帳を取り出した。そこには五百万円の貯金があった。

「知奈美との結婚ために貯金した」

そうか。彼は本気なんだ。

お金で「うん」と言うのも悪い感じだけど、彼の本気を知ることが出来た。私は彼との結婚を決めた。

そこからすぐに同棲を始めた。二人で不動産屋を周り、部屋を決めた。

両親への挨拶や事務所への報告、そして世間への発表。しっかり一つ一つをこなし、正式に籍を入れた。

不思議なことに、籍を入れると建の仕事も私の仕事も順調になる。

以前受けた劇団のオーディションに合格。主演の座を射止めた。ダブルキャストでの上演だったが、私は別にそこまで気にしなかった。初めて「主演」というものになれただけでも、感激だった。

「結婚式したいよね?」

「うん」

二〇二〇年四月十九日。私たちの結婚式の予定が入った。日にちに特に意味は無かった。たまたま二人の予定が空いていただけ。

人生に一回であろう晴れの舞台。この日がとにかく待ち遠しく、いいモチベーションとなって仕事にも熱が入った。

お互い忙しく、同棲している家で二人で過ごす時間も少なかった。けれど、全然平気。彼となら永遠に一緒にいられると信じていたし、結婚することへのネガティブな気持ちは一切なかった。

コロナになるまでは。

三月。日本で感染者が出たというニュースが出た。その一週間後には、日本で感染者が増えた。人が集まるイベントは次々に中止になった。

はじめに影響が出たのは仕事。

建が三番手を務めるドラマが撮影中止となった。本来なら四月から始まる予定だったが、無期限の延期が決まった。その他、全ての仕事がストップ。ドラマの開始に合わせて、番宣でバラエティに出る予定も全て白紙となった。

私の主演も延期。舞台なんて出来るはずも無かった。稽古はしばらく続いたけれど、収入となる仕事はまるで無くなった。

仕事の影響がどんどん広がると同時に、私たちは大きな問題に直面する。そう結婚式だ。

友達への招待もすでに完了していた。あとは本番をやるだけ。全ての準備は出来ているのに。

私は当然やりたかった。また友達を招待からやり直さなきゃいけないのはかなり手間がかかる。それにもう結婚式をしたい気持ちが抑えられなかった。この日のためにダイエットもしたのに。

そんな個人のワガママは通用するわけがなかった。


つづく


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もうちょっとだけ書き続けてみようと思います

まだ書いてる途中で、この先どんな展開になるかわかりません

書いてはすぐに公開してを繰り返すと思います

それでも良ければ、読んでください

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ただおもろいことをしたいだけです


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