氏名:浜田瞬(はまだ・しゅん)
年代:二十代
性別:男性
同居人:あり
職業:社長
日時:二〇二〇年四月二十八日
私の勝ち組人生が崩れ始めたのは四月二十七日。久美からの着信だった。
「瞬、ごめん。本当にごめん」
新型コロナ陽性の報告だった。テレワークで自宅にいた私は驚いた。今朝までかなり元気そうだったのに。
久美の仕事中に保健所から連絡があり、そのまま病院へ直行。検査の結果、陽性が確認されたらしい。
この疫病が流行っているのは、当然知っている。かかる人はいつかはかかる。仕方のないことだ。
「体、大丈夫?」
私は体調を気遣う。そのあとも、そんなに気に病まないように励ました。
だけど、彼女の返事はどこかぎこちなかった。
「瞬のこと、黙っておくから」
私と久美が交際していることは世間には知られていない。久美は私のために黙秘をしてくれるらしい。悪いことをしている自覚はあったが、自分に症状は無かったので、彼女のやり方に従った。
今思えば無駄なやり取りだった。すぐに久美の行動は明らかになる。同時にさっきの電話の久実がぎこちなかった理由も分かった。
久美を含む四人の男女が会食をしていたことが明らかになった。ネットでその一報が流れると、テレビでも各局取り上げ始めた。
何をどう考えても合コン。私との交際を公にしていないのをいいことに、久美は私の知らないところで合コンしていたということだ。
ここまではまだ許せた。もちろんショックとか怒りは多少はあった。だけど、彼女のテレビでのキャラクター的に仕事上の付き合いは仕方のないことだろう。いわゆる「不倫」よりも、どちらかと言えば、あの緊急事態宣言下で会食をしたことの方に怒っていた。
「起こってしまったことは仕方ないから」
今私が怒鳴っても彼女を余計に悲しませてしまうだけ。私は冷静に励まし続けた。それでも、彼女の返事は歯切れが悪かった。
翌日、二十八日。
私は朝早くから病院に向かった。久美との同棲が世間に知られるのも時間の問題だろう。いずれ私にも新型コロナ感染の疑いがかかる。同じベッドで寝たんだから、私も陽性の可能性が極めて高い。
私はそわそわしながらスマホを定期的にチェックした。いつ私の名前が出るのか……。
そんな私をあざ笑うかのような記事がネットニュースに出た。
原田久美がホストクラブに出入りしていたという内容だった。
目を疑った。別の人かと思った。何度読んでも、私と一緒に生活をしている「原田久美」だ。
その記事は久美の行動履歴を詳細に書いている。当然、私の家にいたことも書かれていた。だけど、世間はそれには目もくれない。それ以上にホストクラブに出入りしていたことのほうが、インパクトが大きかったからだ。
久美ははじめ合コンの事実を隠していた。それが表とか言う野球選手によって、暴露されてしまった。それでも私のことを含め黙秘を続けていたが、それを見かねた保健所がスマホなどを押収。観念した久美は全てを告白した。
そしてホストクラブの出入りが明るみになった。記事が正しければ、久美は常連客で四月二十二日にも訪問。朝方まで飲み明かし、クラブ内で仮眠を取って帰宅した。
「月に一回、事務所の飲み会がある。社長も来るから、断れない」
私にはそう言っていた。この日も事務所の飲み会のはず。朝帰りしても「ごめんね、ごはん作れなくて」と言い残して、私を見送っていた。あれも全部嘘だったのか。
ちょっと待て。息が荒くなるほど動転している。
あいつ。騙したな。
私はスマホで久美に電話をかける。
「ただいまおかけになった電話番号は……」
LINEもダメ。今すぐに連絡できなくなっていた。
電話が繋がらないということは……。
私は思い当たる銀行に電話をかける。残高照会するためだ。久美は私の金を使って、ホストで遊んでいたのではなかろうか。
二つ目の銀行で悪い予感は的中する。
数億はあったはずの口座が数百万に減っていた。しばらく使っていない口座をあたったが、二つ目でビンゴ。私が持っている口座に数百万しか入ってないものなど無い。
電話は相変わらず繋がらない。こいつ馬鹿か?逃げ切れるとでも思っているのか?立派な犯罪だぞ?
そんなことより、自分の情けなさの気持ちが大きくなる。
この私がこんな簡単なハニートラップに引っかかるとはな。目の前の幸せに目がくらんでしまった。
「浜田様」
防備を施した医師が入ってくる。検査結果を知らせに来てくれたみたいだ。
「陽性でした」
……許さねえ。金奪い取って、病気まで押し付けてきやがった。
完璧だったのに。誰もが羨む勝ち組人生だったのに。私としたことがこんな凡ミスをするなんて。
覚えてろよ、あのクソ女。
つづく
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もうちょっとだけ書き続けてみようと思います
まだ書いてる途中で、この先どんな展開になるかわかりません
書いてはすぐに公開してを繰り返すと思います
それでも良ければ、読んでください
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