クラスター#6

氏名:原田久美(はらだ・くみ)
年代:二十代
性別:女性
同居人:あり
職業:モデル
日時:二〇二〇年四月二十二日


「え、マジっすか……」

「なに?怖がってんの?」

顔が引きつっている私を見て、先輩はケラケラ笑っている。

ホストクラブ。イケイケな女子が夜に派手に遊んでるイメージ。そんな世界に足を踏み入れて大丈夫だろうか?私、そんなキャラじゃないはずだったのに。いや、もうそんなことないか……。

「ここは会員制でね、芸能人もよく来るの」

ビルの小さなエレベータに乗り込む。どの階もホストクラブかキャバクラ、そんなビル。そこの最上階に連れてってくれるみたいだ。

エレベータのドアが開くと、ホストクラブとは思えない質素な空間が広がっていた。大きな扉が一枚あって、横には機械みたいなのがついている。

先輩は財布を取り出し、機会にかざす。「カチャ」と鍵が開く音がした。

先輩が扉を開けると、そこはイメージ通りの「ホスト」の世界だった。暗いけれどギラギラしていて、香水っぽいきつい匂いがする。扉を開けた瞬間、大きな音が耳に入ってきた。マジか、ここ防音なんだ。

「いらっしゃいませ」

「連れて来たよ」

「え?マジすか?」

たぶんホストと思われる男が何人か近寄ってくる。

「この子初めてだから優しくしてね」

「オーケーです」

「いつものコースで」

手慣れたセリフを店員にゆって先輩は奥のテーブルへ座る。「こっち」と私を手招きをしながら。

ふかふかのソファーに先輩と座る。それと同時に男たちも何人か座る。そこでやっと先輩があれこれ事情を教えてくれた。

まず先輩はここの常連客。私と同じで事務所の先輩に連れられて、このお店でホストデビューしたらしい。初めてのときに一瞬で心を掴まれて、あっという間にハマった。多いときは週一回は来るらしい。

ホストも芸能人が相手だとテンションがあがるらしく、逆指名とゆっていいぐらい先輩に着きたいホストは多い。先輩も色んな男と話せるから、まんざらでもない。来るたんびにお気に入りのホストと新入りのホストが入り混じった大勢の男に囲まれて、上機嫌に酒を飲んでいる。それが先輩流のストレス発散だと教えてくれた。

で、お気に入りのホストが私のファンとのこと。「くーみんに会いたい」とせがまれたらしく、今日のお代をチャラにする代わりにくーみんを連れてくる約束をしたんだとか。

「はじめまして、稲妻ライです」

「ライくん。私のお気に入りで、こいつのお気に入りはあんたってわけ」

私は軽く会釈する。ライくんはそんな堅い態度はよしなとグラスを渡してくる。

「ほんとに、今日タダにしてくれるんでしょうね」

「もちろん!くーみんに会えたんで俺が持ちます」

「よし、じゃあ一番高い酒持ってきて~」

「ちょ、冗談きついっすよ~」

このときはこんなやりとりも苦笑いしていた。むしろ寒いって思うくらい。

二時間後。私は手に持っているグラスがお酒かお水か分からないくらい酔っていた。立つとクラクラする。

「トイレどっち?」

「一緒に行こっか」

ライくんがさらっと手を握り、さらっと肩を抱く。

最初にソファーに座ったときは全然カッコいいなんて思わなかったのにな。今は肩を抱かれても全然嬉しかった。

私、何しゃべったんだっけ。何食べたんだっけ。何飲んだんだっけ。全然覚えてないけど、はっきりと分かることは今がとにかく楽しい。なんでかは分からないけど、もう家に帰りたくない。ここにいたい。

私のホスト初体験はここで記憶が途切れている。ライくんと一緒にトイレに行ったのまでは微かに覚えている。その次に気づいたら、家の玄関で寝ていた。手には見たことのないカードを握っていた。

先輩いわく、タクシーに無理矢理乗せて帰らせてくれたらしい。手に持っているカードは、あのホストクラブの会員になった証。先輩が最初にピッとしていたやつみたいだ。これで私もあのお店に出入りすることが出来る。

だんだん目が覚めてくる。スマホを見ると、見たことのない量の通知が来ていた。全部、昨日のお店のホストたち。「昨日はありがとう」「また来てね」だいたいそんな感じ。LINEを交換したことも覚えてなかったけど、結構な人数と交換したみたいだ。

あの日を境に私は先輩と同じルートを歩いてしまった。あの独特のホストの世界がたまらない。完全にとりことなって常連客の一人になった。

「なんか今日多くない?」

いつからか平気で一人でもお店に行くようになった。一人で行っても、ずらっとお気に入りのホストが私を囲んでくれる。それが気持ちいい。

「やっぱなんちゃら宣言が出たせいで、お客さんも全然こないんすよ」

「店やってもいいの?」

来ている私がゆうのもなんだけど。

「うちは会員制なんで、へっちゃらっす」

「じゃあ全員うちに付き合ってくれるってわけね?」

「もちろんっす!」

私はグラスのお酒をグイっと一気飲みした。


つづく


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もうちょっとだけ書き続けてみようと思います

まだ書いてる途中で、この先どんな展開になるかわかりません

書いてはすぐに公開してを繰り返すと思います

それでも良ければ、読んでください

目標は毎日更新

頻度はあまり期待しないでほしい

ただおもろいことをしたいだけです


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