氏名:表玲音(おもて・れお)
年代:二十代
性別:男性
同居人:あり
職業:プロ野球選手
日時:二〇二〇年四月二十七日
俺は自暴自棄になっていた。
去年はローテーション守って九勝。今年が勝負の年。「チームのエースとなって戦うんだ」という強い気持ちを持って、去年のシーズンオフから体を作り続けてきた。練習の手を止めるとプレッシャーに押しつぶされそうになる。俺は時間がある限りトレーニングをした。
キャンプを順調に過ごし、オープン戦も始まった。余力を残すなどあとのことは全く考えずに全力で挑んだ。体力ならこのオフでついたはず。結果として、オープン戦は絶好調で監督は開幕投手に抜擢することも示唆してくれた。
それが一瞬で水の泡となる。なんとなくニュースで国内に感染者が出たと聞いた。それがあれよあれよと広がり、日本は自粛ムードが広がった。プロ野球は開幕の目途が立たないまま、自粛を促された。
ありえない。一週間でも体を動かさなかったら、またゼロから作り直さないといけない。開幕を意識して、日本一を意識して、何か月もやってきたというのに、その全てが無駄になった。
球団は練習はおろか、無期限で自宅待機を命じた。俺は実家に帰ることにした。
仕方ないことだとは分かっている。辛いのは自分だけではない。プロ野球選手全員がボールを握ることも許されない。日本人全員が我慢している。だけど、だけど家でじっとなんてしていられなかった。
「表さん、一緒に練習しましょうよ」
チームの後輩からLINEが来た。
「今は無理だろ」
「それがいけるんですよ。極秘スポット見つけました」
球団の施設は使用禁止。だけど、後輩はとある室内練習場を使わせてもらえるように手配してくれた。個人で管理されていて、高校野球の名門校などが合宿に使うような場所らしい。管理人もこのコロナ禍で利用者がおらず困っているとのこと。利用したことは公表しないし、長時間の滞在もOKとのこと。
「分かった。行く」
俺は仲のいいチームメイト三人でその練習場に行くことにした。だけど、三人だと都合が悪い。キャッチボールは偶数人のほうが効率がいい。
「弟、連れてってもいい?」
「いいですよ!」
弟の玲人は高校で野球部に所属している。メディアでは兄弟でプロ野球での共演を期待されている。
アマチュアがプロの練習に着いていくのは普通はありえない。だけど、この状況下ならチームメイトも許してくれるだろうし、室内で出来る練習程度なら玲人も着いてこれるだろう。
怜人も「行きたい」と即答し、チームメイトも思った通りに許してくれた。四人での極秘練習が決まった。
車で練習場に行き、一日汗を流す。満足のいく練習ではないが、家でじっとしているよりかは数倍マシ。三月は週二回以上のペースで極秘練習を進めた。
「周りで感染者でた?」
「ううん。出てない」
世間の状況とは裏腹に、身の周りで感染者が出たという報告は無かった。家族に聞いても会社とか周りでそういった報告はないらしい。
三月の終わり、ニュースでは「日本の累計患者数が千人を超えました」と報道した。
千人?日本の人口は一億二千万人。これって何パーセントにあたるんだ?一億人だとして……。俺はあまり計算は得意ではないので、スマホで電卓を叩く。俺の計算が間違っていなければ0.001%。十万人に一人は感染しているということか?あってるかな?
自粛が言い渡されたとき、はじめの感情は「絶望」だった。次第に「不安」となった。だけどこうして極秘で練習をして、少しずつ元気を取り戻した今、一番大きな感情は「怒り」だった。
ここまでしなければいけないのか?俺たちの仕事でもあり命でもある野球を取り上げられるほどのことなのか?練習も飲み会も我慢しなければいけないほどのことなのか?
何かがおかしい。かかったところで日本人はそこまで死なないらしい。こんなにも大袈裟に自粛自粛となる必要はあるのだろうか?調べても感染例は高齢者が多いらしい。じゃあ十万人に一人の計算ももっと分母が大きくなる。
「ちょっとだけ飯でもいかない?」
ある日の極秘練習終わり、俺は恐る恐る提案してみた。
「行きましょう!」
どうも全員同じことを思っていたらしい。この自粛ムードはやってられないと。良かった。俺だけじゃなかった。
久しぶりに外食をする。この状況でお店もどこも閉まっていたが、個人経営の小さなラーメン屋はやっていた。
「うめえ……」
ラーメン屋さんはお客さんは全くいない。これだと営業すればするほど赤字だろう。店主の顔もかなり曇っている。
久々のラーメンのスープを飲み干し、俺は確信した。
やり過ぎだ。世の中おかしい。そりゃ高齢者の命は守らないといけないかもしれないし、医療従事者も命がけかもしれない。だけど、ちゃんと人混みでマスクをするなり、手を消毒すれば十分。ここまで自粛していたら、経済への打撃とか圧倒的にデメリットが多いだろう。
つづく
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もうちょっとだけ書き続けてみようと思います
まだ書いてる途中で、この先どんな展開になるかわかりません
書いてはすぐに公開してを繰り返すと思います
それでも良ければ、読んでください
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