氏名:表玲音(おもて・れお)
年代:二十代
性別:男性
同居人:あり
職業:プロ野球選手
日時:二〇二〇年四月二十七日
「今度の合コンどうしましょうか?」
黒木さんがLINEのグループで発言する。
結局未だにプロ野球は開幕の見通しが立っていない。何もやることはない。だけど、周りに感染者なんていない。一回くらい飲みに行ったっていいだろう。くーみんに会いたい気持ちももちろんあるが、もう「自粛」っていう風潮がうんざりだった。なんでもかんでも我慢すりゃいいってもんじゃないだろう。
俺はなんとか開催に持っていけるようにグループで発言した。「開幕したら忙しい」とか、何かしらの理由も添えて。そして他の三人も同意してくれた。
これでいい。どうせ若者は感染しない。若者がちょっとでも経済を回さなければいけないんだ。
……と思っていた。「なんで合コンなんて行ったんだ」ともう何十回も聞かれた。それに対する本音を心の中で考えた。長くなったけれど、これが俺の言い訳だ。
「陽性でした」
俺は球団関係者に片っ端から電話をする。新型コロナ陽性を報告するためだった。
反応は人それぞれだった。だいたいは俺の体調を心配してくれる。だけど、中には「危機管理が甘い」と怒鳴ってくる人もいた。
でも、まあ怒鳴られても仕方ないかなと思う。
スマホのニュースアプリを開く。自分が陽性となったことがトップニュースで取り上げられていた。中身を読むと、会食が原因と書かれていた。
ここ二週間の行動履歴を医師に求められた。俺は全身から汗が噴き出た。思い当たる節がありすぎる。練習だろうか、外食だろうか……。
だけど一番思い当たりがあるのは、あの合コンだった。医師が指摘した感染したと予想される期間とも合致する。それを裏付けるかのように、あの日のメンバー全員が陽性になったとニュースが出る。
嘘をついたところで逃れることは出来ない。全ての行動履歴を白状し、球団にもそう報告した。原因は恐らくあの日の合コンです、と。
世間のバッシングは想像を絶するものだった。これはもう受け止めるしかない。何をどう考えても俺が悪い。俺の行動が軽率だった。
それも辛かったが、それ以上に辛いことがある。くーみんが激怒している。グループで長文で三人を責め立てた。
「犯人は誰?誰がウイルスを持っていたの?私は絶対に違う」
要約するとこんな感じ。くーみんは自身が元気であったことから、他の三人が実は感染していたんだと決めつけていた。
それに対して小野寺さんも言い返す。
「私はこの合コンに数合わせで呼ばれました。この日以外に外食はしていません。あなたが持っていたんじゃないの?」
こんな風に言い返す。二人とも怒っているのは間違いなかった。
それもそのはず。どこからかぎつけたのか分からないが、俺たち四人があの日に合コンしていたことを週刊誌が報道した。それと同時にバッシングの標的は自分だけではなく、四人全員に変わった。
くーみんと小野寺さんは「自分は悪くないのに、なんでこんなに叩かれないといけないんだ」とお互い責任をなすりつけあった。黒木さんは謝っているが、あくまで自分がウイルスを持っていたわけではないと釈明している。
俺も元気だったと主張はする。本音は俺が原因ではないとは言い切れない。だけど、そんなこと言えなかった。
しびれを切らしたくーみんが直接俺に電話をかけてくる。
くーみんは合コンしたことを保健所に報告しなかった。当初は感染経路不明とされていた。それが週刊誌の報道を機に一転した。
「あんたのせいでこんなことになったんだからね」
合コンが週刊誌に漏れたことが、俺のせいだと責められた。四人が黙秘すれば、合コンしていた事実が世間にバレずに済んだのにと怒っている。
「あとうちはあんたがウイルスを持ってたって疑ってるから」
何もかもを俺の責任にするつもりらしい。俺はくーみんの気が済むまで謝って、なんとか電話を切った。
地獄だ。たった今も地獄だし。これからも地獄。世間からのバッシングも収まらないし、あの日の四人からはずっと恨まれ続ける。こんな大の大人が醜い喧嘩をしているのが耐えられない。
野球のことは考えられなかった。人生が終わった気分だった。
つづく
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【ごめんね】昨日ミスって#7と一緒に#8も公開しちゃってました
昨日「あれ一話読み飛ばした?」ってなったり、今「これ昨日も読んだくね?」ってなった人ごめんなさい、許してね
昨日の#8はなかったことにしてください
もうちょっとだけ書き続けてみようと思います
まだ書いてる途中で、この先どんな展開になるかわかりません
書いてはすぐに公開してを繰り返すと思います
それでも良ければ、読んでください
目標は毎日更新
頻度はあまり期待しないでほしい
ただおもろいことをしたいだけです
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