クラスター#21

氏名:浜田瞬(はまだ・しゅん)
年代:二十代
性別:男性
同居人:あり
職業:社長
日時:二〇二〇年四月二十八日


ほんの数日前まで、私は最高の人生を送っていた。

中学受験で第一志望校に合格。中高一貫校でエリート教育。大学も私立大学では最高峰の大学に合格した。

四年生のときに就職活動を開始。だけど、すぐに馬鹿馬鹿しくてやめた。私には向いてない。社会の歯車なんて私には役不足だ。

結局、大学卒業後すぐに起業した。健康器具を販売する会社だった。

私の自信は間違っていなかった。会社はすぐに軌道に乗り、利益は右肩上がりに増えた。

二十代にしてこの成功。周りは誰もが羨んだ。

大学のとき散々馬鹿にしてきたあいつが「お前はやると思ったよ」って手のひらを返す。そして甘い蜜を吸おうと「何か手伝おうか?」とかほざきやがる。私はそれを既読無視する。すると必ず「なんで無視するんだよ」と連投してくる。それが愉快でたまらなかった。

メディアの取材にも引っ張りだこだった。テレビ、雑誌、新聞……。もうこの世の媒体全てに出尽くしたと思う。

乗りに乗った私はオンラインサロンを開設。今では日本四位の会員数。みんな同じような質問をしてくる。私は同じような解答をする。「さすがです」と褒められる。それで月九百八十円。

これだよこれ。私ほどのカリスマ性があれば、この程度の仕事で一般市民の年収を一時間で稼げる。これが私の思い描いてた人生そのものだった。

富と名誉。これをこの若さで手に入れた。

それでも上には上がいる。自分の人生のランクが上がるにつれて、周りの人物のランクもあがる。あのSNSでお金をばらまいている社長なんかとも知り合いになった。

まだまだこれからだ。夢は野球かサッカーのチームを経営すること。そのためにやらなきゃいけないことは山ほどある。

そんな自分を愛してくれる女性がいた。

原田久美。くーみんの愛称で親しまれているモデルだ。

私は彼女と同棲している。二年ほど前にテレビ局で知り合った。本当に人懐っこい人柄で私にも丁寧にあいさつをしてくれた。

このときの私は最低そのものだった。私はそこまで本気の恋愛に興味が無く、いわゆる遊び人だった。

直感でこの子も「いける」と感じた。

「良かったらご飯でも行きませんか?」

「是非!」

ホイホイついてきた久美を高級レストランに連れていく。あっという間に酔っぱらい自分のペースに持ち込めた。こうなれば、もう私のものだ。

結局、芸能人御用達のホテルに連れ込み、一晩を共にした。翌朝「ありがとね」と別れた。

相手もそれだけの関係と分かっている、そう思っていた。モデルとは何人か夜を共にしたが、だいたい一回こっきり。久美もどっかで私のあることないことしゃべるんだろう。

ところが、久美は「もう一度会いたい」としつこくせがんできた。めんどくせえ。週刊誌にでも売るんだろうか。全く会いたいと思わない。

だけどあまりにもしつこかったので、私は再び食事をした。

そのときに久美の方から告白された。

驚いた。告白なんていつぶりだろうか。はっきり言ってモテる人生ではあった。だけど昔から「尖ってるやつ」と思われて、恋愛は長続きしなかった。誰と付き合ったか覚えていないが、一年も続いたことが無い。いや半年も無いかもしれない。学生時代は最初はすぐに女性にたかられたが、次第に恋愛に持ち込む女性は消えていった。悪い噂が流れていたんだろう。

会社を立ち上げてからも、私はいい噂は流れていないはず。公には「結婚は考えてない」「恋愛する暇がない」と半分本気半分冗談で答えている。だから、私に寄ってくる女性は全員自慢話の種にしたいだけ。私と本気で恋愛しようなんて人はいないと思っていた。

それがどうだ。久美は私の目を見て、本気で告白をしてきた。「好きです」とシンプルにはっきりと言い切った。

おもしろい。私はオッケーした。断る理由も無かったし、どうせすぐに相手が飽きるだろうと思ったからだ。

好みのタイプではないが、世間的に見ればかなりの美女。これが彼女となれば、もう私に不足しているものは無い。勝ち組だ。圧倒的に勝ち組だ。

その日から久美は毎日のように連絡をしてきた。

「いつ空いてる?」

「ごはんだけでもいいよ?」

二割「可愛い」八割「面倒くさい」の気持ちで、返したり返さなかったりした。時間が空いたときにたまに会う。

久美は私の気持ちも知らずに、かなり尽くしてくれた。いつ作ったのか分からない弁当をくれたり、私が手荒れで悩んでいると知ったらハンドクリームをくれたりと、何から何まで私を思ってくれた。

「ねえ、私、瞬と一緒に暮らしたい」

ある日、どこかのホテルで言われた。これだけ彼女に尽くしてもらっている。もう引けなかった。

私の住むタワーマンションで彼女と生活するようになった。彼女もモデルの仕事は忙しい。それでも作れるときは必ずご飯を作ってくれる。家事は全てやってくれる。

次第に私も愛情が湧いた。過去の自分が最低だと反省した。私には彼女しかいないんだ。そして、彼女も私しかいない。彼女がいれば、私の未来は明るい。

隣で眠る久美を抱きしめる。

「なによ」

久美は恥ずかしがりながらも、そっと私の手を受け入れる。

「愛してるよ」

「私も」

そっとキスをした。

このキスが、のちに惨劇を起こすとも知らずに。


つづく


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もうちょっとだけ書き続けてみようと思います

まだ書いてる途中で、この先どんな展開になるかわかりません

書いてはすぐに公開してを繰り返すと思います

それでも良ければ、読んでください

目標は毎日更新

頻度はあまり期待しないでほしい

ただおもろいことをしたいだけです


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