明日何しようかな?#40

「むかブロ?」140日連続更新企画

自作小説を連載しています

温かい目で読んでください

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光輔


「福山くん、この書類誤字脱字多すぎ!」

「すみません」

俺は頭を下げる。

この上司は正直嫌いだ。羽田部長は些細なミスで永遠と愚痴を言ってくる。

自分だって、こないだの会議の資料、誤字脱字だらけだったけどな。なんて、言えたら楽なんだろうな。

自分のデスクに戻って改めて書類を見直す。たしかに思っていたより、誤字だらけだった。これなら怒られても文句は言えない。まあ、あの上司が嫌いなことには変わりはないけど。

「福山さん、最近なんかミス多いっすね」

隣の松尾が言う。たぶん本人は慰めているというか、心配しているのだろうが、茶化しているとしか思えない。

松尾は今年入った新入社員。俺の後輩だ。

俺は正直、こいつが苦手だった。おじさんたちはよく「近頃の若者」と俺たちを一括りにする。俺たちはゆとり世代でもあるからなおさらだ。その「近頃の若者」の悪いところを集約したようなやつが松尾だった。

まず敬語が使えない。いや、本人は使えているつもりなんだろうけど「それは敬語じゃないよ」と言いたくなる。

「~~っす」「~~っすね」これが彼の敬語だ。

電話口でも「~~と言ってました」とか「~~は見ましたか?」とか平気で言う。「申す」とか「ご覧になる」なんて日本語は彼の辞書にない。

もちろんそれは羽田部長にも怒られていて、少しずつ治ってきてはいるのだが、もう一つ気に食わないのがだいたいの上司が松尾には甘いところだ。

松尾は全ての先輩に〝太鼓持ち〟をする。機嫌を取るのがうまい。何個も年上の女性の先輩上司に「そのスマホケース可愛いっすね」ってケロっと言う。これがまた、その上司もまんざらでもなさそうに喜ぶ。

羽田部長にも気にいられている。羽田部長にお子さんが生まれたとき、松尾はパジャマをプレゼントした。しかも、お子さん用と羽田部長とその奥さん用の三点セットで。

「家族でお揃いにしてくださいね~」

俺はそんなの羽田部長が喜ぶわけないだろうと内心鼻で笑っていた。が、後日羽田部長は家族お揃いでそれを着た写真をLINEのアイコンにしたのだ。

これに関してはただの嫉妬かもしれないけれど、なんでこいつが羽田部長に気に入られるのかが本当に分からない。そして、なんで俺は永遠と愚痴を言われるのだろうか。

「先輩、ファイトっす。誤字なんて誰でもありますから」

「ありがと」

心のない「ありがと」を言って、俺はパソコンの画面を見つめる。

誰にも聞こえないようにため息をつく。

小さな頃、自分は何になりたかったんだっけ。特にこれといった夢は無かった気がする。まあ学校の作文には「オリンピックに出たい」とか書いたっけ。

足が速いのだけが取り柄で、それを生かすために陸上部に入った。はじめはただただ走ることが楽しくて、部活をしに中学校に行っていた。

高校、大学と意地で陸上を続けた結果、大して何も出来ない無能な大人になって社会に放り投げられた。

どこからだ。どこから俺の人生は楽しくなくなった?

いや、楽しくないわけではない。家に帰れば奥さんがいる。

いやいや、奥さんも最近は冷たいんだった。やっぱり楽しくない。

中学生のときの俺が今の俺を見てなんて言うだろうか。朝から晩まで走っていた俺が一日中パソコンに向かってカタカタしているのって、本当にそれでいいのだろうか。

この会社も窮屈でイヤになってくる。そもそもパソコンでタイピングすらろくに出来なかった俺でも就職出来ている時点で大したことない企業なのは明らかだ。

隣にいるやつは敬語が使えない。あっちの部署には平気で「頭が痛い」で当日に休む女がいる。ラブ&メロディーが好きすぎてCDを大量に買って握手券だけ抜いて「CD良かったら聞いてください」ってタダで配りまくっているやつもいたっけ。

そんなやつらと俺はおんなじレベルってことだ。


つづく


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【「明日何しようかな」あらすじ】

大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」

学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった

二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める

卒業式当日

景子の姉である莉子の失踪事件が起こる

事件の混乱で卒業式は中止が決定

心菜が光輔に告白することや、心菜が所属していた暗号部の最後の暗号を解くこと

それらを整理することが出来ずに、光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう

ニ〇一八年、舞台は東京へ

事件は解決せず、心菜とは光輔、景子ともに音信不通となってしまう

景子は自宅の近くで雨宿りをしたのをきっかけに雑居ビルでアトリエを開いているすみれと出会う

すみれは腕に元カレのタトゥーが入っており、まともな職につくことが出来ないでいた

光輔は会社の帰り道、車窓からたまたまアパートの廊下にいた心菜を見かける

驚いた光輔は電車を飛び降り、心菜を探す

結局、心菜は見つからなかったが、心菜を見つけたアパートを確認することに

すると、アパートの一室にはあの日失踪したはずの莉子がいた

 

【登場人物】

・福山光輔(ふくやま・こうすけ

男性。百白中学校出身。頼りがいのあるしっかりもの。


・佐々木景子(ささき・けいこ)

女性。百白中学校出身。さばさばした性格。


・泉心菜(いずみ・ここな)

女性。百白中学校出身。寂しがりやの甘えん坊。


・佐々木莉子(ささき・りこ)

女性。景子の姉。2010年3月に失踪する。


・上杉史也(うえすぎ・ふみや)

男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」。


・益川正義(ますかわ・せいぎ)

男性。莉子失踪事件を担当する刑事。


・早見徹(はやみ・とおる)

男性。元天才美容整形外科医。現在はラーメン屋を営む。


・片寄渚(かたよせ・なぎさ)

女性。心菜の味方をする。


・長谷川すみれ(はせがわ・すみれ)

女性。東京の小さなアトリエで絵を描いている。


・羽田部長(はねだ)

男性。光輔の上司。


・松尾(まつお)

男性。光輔の部下。

 

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