「むかブロ？」140日連続更新企画
自作小説を連載しています
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光輔
バルコニーにいた女性はキョロキョロと何度も辺りを見渡したあと部屋に戻っていった。そのあと、厚いカーテンを閉めた。中の様子は全く見えない。
俺は信じられなかった。
あのアパートに莉子ちゃんがいる……？でも、なぜ？
もし莉子ちゃんがあの部屋に住んでいるとしたら、心菜はそれを知っているということか？俺が電車から見た心菜が本物だとしたら心菜はこのアパートを知っているということになる。そして、莉子ちゃんと何かしらの接点を持っているということになる。
分からない。まだ何も分からない。だけど、自分の中で少しだけ時計の針が動いた気がした。あの日で止まっていた時計の針が。
俺はイートインの椅子に座り直す。大きく深呼吸をする。落ち着こう、一旦落ち着こう。
あの事件が起きた日を思い出す。山に登ろうと心菜を誘ったとき、心菜は断った。「これが最後だろ」と言っても、頑なに拒否した。
つまり、莉子ちゃんが失踪したであろう時間帯に俺と景子は心菜が何をしていたか分からないということだ。
もちろん、益川さんだって心菜のところには行っただろうし、アリバイなどは調べただろう。
心菜があの日事件に関与していたら、なんて考えたこともなかった。でも、今目の前で起きた出来事を見て、そう考えざるを得なくなった。
心菜は悪い奴ではない。それは信じている。
だけど、何か、何かあるんじゃないか？
俺たちと山に登るのを断ってまで、あの時間帯に何をしていたかさえ分かれば、事件を解決する手がかりになるかもしれない。
俺はスマホを取り出す。
『益川正義』
電話帳であと一回タッチをすれば電話がかけられる画面にしたところで指が止まる。
今、益川さんになんて伝えればいいんだ？「莉子ちゃんらしき人物を見つけました」と言って、信じてもらえるだろうか。
今日は十二月二十二日。益川さんの定年まであと三か月ある。
それに益川さんは半年に一回くらい連絡をくれる。俺と景子とは定期的に連絡を取っているらしい。
「光輔くん、元気？」
益川さんはまるで親のように親しく接してくれる。最初に会ったときに感じた印象そのままに優しい言葉をかけてくれる。
「ごめんね、結局何も進展はないよ」
そして事件の現状を伝えてくれる。現状と言っても「特に進展なし」としか言われない。決まって益川さんは「ごめんね」と謝ってくれる。それは正直かえって辛かったりする。
俺も現状報告をする。東京で就職しましたとか、そんな程度。他愛のない会話をする。
実際に莉子ちゃんの失踪事件を追い続けているわけではないだろう。益川さんだって他の事件や仕事はある。だけど、こうして定期的に俺たちと電話をすることで、風化させないでおこうとしているのだろう。それだけに俺はなんとしてでも解決しようと心に誓っていた。
この微かな情報でもちゃんと益川さんに言うべきだろうか？迷う。
しばらく考えたあと〝まだ〟連絡しなくてもいいかという結論に落ち着いた。今は焦らず、もう少し情報を集めよう。俺はスマホを切った。
つづく
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【「明日何しようかな」あらすじ】
大阪にあるド田舎な村「百白（ひゃくしろ）村」
学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった
二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める
卒業式当日
景子の姉である莉子の失踪事件が起こる
光輔らが不審な車を目撃していたことなど手がかりはあるものの、結局莉子は見つからず
事件の混乱で卒業式は中止が決定
タイムカプセルを埋めたときを最後に光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう
【登場人物】
・福山光輔（ふくやま・こうすけ）
男性。百白中学校出身。頼りがいのあるしっかりもの。
・佐々木景子（ささき・けいこ）
女性。百白中学校出身。さばさばした性格。
・泉心菜（いずみ・ここな）
女性。百白中学校出身。寂しがりやの甘えん坊。
・佐々木莉子（ささき・りこ）
女性。景子の姉。2010年3月に失踪する。
・上杉史也（うえすぎ・ふみや）
男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」
・益川正義（ますかわ・せいぎ）
男性。莉子失踪事件を担当する刑事。
・早見徹（はやみ・とおる）
男性。元天才美容整形外科医。現在はラーメン屋を営む。
・片寄渚（かたよせ・なぎさ）
女性。心菜の味方をする。
・長谷川すみれ（はせがわ・すみれ）
女性。東京の小さなアトリエで絵を描いている
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