「むかブロ?」140日連続更新企画
自作小説を連載しています
温かい目で読んでください
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心菜
午後六時。まだ肌寒い四月。
中三なって最初の暗号がタッチから出題された。
中二の終わりはずっと私がすぐに暗号を解いた。
「くそ~、もうちょっと時間かかると思ったんだけどな……」
そう言うタッチの顔を見たときが一番スカッとする瞬間だった。
「今日は俺の出番なしか」
光輔が教室に戻ってくると、いつも馬鹿にしたような顔で私に言ってきた。それを私は得意な顔で出迎える。タッチにも光輔にも勝ち誇った気分になれる。だから私は一生懸命暗号を解いた。
私たちは中三になった。
新学年、新学期。とは言ってもクラスメートは変わらない。光輔と景子。先生も変わらない。
光輔は最後の大会に向けて、練習により一層力を入れている。窓から眺めると今日も走っている光輔が見える。
景子は受験勉強が本格的に始まって、塾に通いつめている。模試が毎月のようにあるらしく、成績を落とすとお母さんに怒られるらしい。
私は特に何も変わらない。受験のことも考えなきゃいけないけれど、考える気にはならなかった。勉強もほどほどにしていたけど、そこまでやる気も起きなかった。
中二と変わらず放課後は教室で何か暇を潰す日々。今日は暗号部の日。だから、タッチがいつものニヤニヤ顔で必死に暗号を解く私を見ている。
タッチとこうして教室でグダグダ過ごせるのもあと一年か。来年の今頃はたぶん高校生。こんなにもゆっくりとした空気が流れている教室で過ごせるのも中学校までだろう。もちろん暗号部なんて遊びが出来るのも。
「確定……除湿……大……冬季……」
四つの熟語の下には矢印がある。
……ダメだ。分からない。
「ありがとうございました!」
太い声が窓の方から聞こえてくる。陸上部が練習終わりに顧問の先生に挨拶をする声だ。つまり、光輔はもう少ししたらこの教室に戻ってくる。そうなると、私の負けだ。
それだけはイヤだ。久々に光輔に解かれるのは悔しい。焦りが生まれる。
全神経を集中させて暗号を見つめる。
「あれ?その感じは俺の出番か?」
集中していたせいか十分も経ったことに気が付かなかった。
教室の入り口には練習着姿の光輔がいた。
私は負けた。
「ちょっと待って!もうちょっとで解けそうなの!」
「うそつけ。どうせ何も分かってないんだろ?」
どうして分かるの?と聞くまでもなく光輔は私のもとへ近づいてきた。
「確定、除湿、大、冬季……」
光輔はそう発してからしばらく黙り込む。即答とはいかないみたいだ。
「お?」
光輔が黙るとタッチはいつも嬉しそうだ。頭のいい光輔を唸らせる暗号を作れたのが快感なんだろう。
きっと光輔は暗号を解く。私も光輔も解けずにタッチが完全勝利したことはない。まあそのあたりはタッチがちょうどいい難易度で出してくれている。
「…………」
黙っている光輔の顔をじっと見る。他の学年の人からはイケメンだなんて評判らしい。たしかにカッコいい顔はしているとは思う。でも、カッコいいなんて本人には絶対に言いたくない。こんなに口が悪いことは他の学年の子たちは知らないんだろう。きっと知ったら幻滅する。
景子のせいで私は完全に光輔のことを意識するようになってしまった。それからと言うものの、光輔の嫌いなところを出来るだけ探そうとしていた。自分を否定するために。
暴言をときどき言う、がきんちょみたいなことを言う、上から目線、自慢するのが好き。
だけど、結局最後は自分を否定出来ずに……
「分かった」
光輔の顔がパッと明るくなる。
つづく
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【「明日何しようかな」あらすじ】
大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」
学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった
二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める
卒業式当日
景子の姉である莉子の失踪事件が起こる
光輔らが不審な車を目撃していたことなど手がかりはあるものの、結局莉子は見つからず
事件の混乱で卒業式は中止が決定
タイムカプセルを埋めたときを最後に光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう
【登場人物】
・福山光輔(ふくやま・こうすけ)
男性。百白中学校出身。頼りがいのあるしっかりもの。
・佐々木景子(ささき・けいこ)
女性。百白中学校出身。さばさばした性格。
・泉心菜(いずみ・ここな)
女性。百白中学校出身。寂しがりやの甘えん坊。
・佐々木莉子(ささき・りこ)
女性。景子の姉。2010年3月に失踪する。
・上杉史也(うえすぎ・ふみや)
男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」
・益川正義(ますかわ・せいぎ)
男性。莉子失踪事件を担当する刑事。
・早見徹(はやみ・とおる)
男性。元天才美容整形外科医。現在はラーメン屋を営む。
・片寄渚(かたよせ・なぎさ)
女性。心菜の味方をする。
・長谷川すみれ(はせがわ・すみれ)
女性。東京の小さなアトリエで絵を描いている
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