「むかブロ?」140日連続更新企画
自作小説を連載しています
温かい目で読んでください
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心菜
卒業式二日前。
「これで俺も泉も暗号部引退だ」
「え?」
「これが暗号部最後の暗号」
タッチがあの日のように暗号を紙に書いて渡してくれた。だけど、こうして宝探しごっこが出来るのもこれが最後らしい。
暗号部を始めた最初の方は私だけの力で解けないことが多かった。そういうときは結局教室に戻ってきた光輔に見てもらう。
光輔はしばらくじっと眺めたあと、だいたい数分で暗号を解く。私が何時間もかけて考えていたのに。
それが悔しくて悔しくてたまらなかったので、私はいつも光輔が部活終わりに教室に来るまでに解くのが目標になっていた。
中三になったあたりから、私の解くスピードもあがった。光輔が来る前に暗号を解き切ることも多くなった。
でも、最近は受験勉強をしなくちゃいけなかったからタッチも暗号を出してくれなかった。その代わりに私が苦手なところをマンツーマンで教えてくれたりした。
「タッチ、暗号は?」
「受験が終わるまで我慢」
何度も何度もねだったがタッチは受験が終わるまでは勉強モードだった。仕方がない。私も暗号なんかで遊んでいる暇なんてなくて勉強しなきゃいけないことは分かっていた。
そして、やっと受験が終わり、学校も卒業式を残すのみとなった今日。タッチは約束通り暗号を出してくれた。
紙を開くといつものタッチのお世辞にもうまいとは言えないイラストが描かれている。
数式のようなものとさかさまに描かれた牛。
私は黙り込む。考えるときはいつもこうだ。
「最後だからめちゃくちゃ難しくしといた」
「え~~~?もし分かんなかったらどうするの?」
「まあ福山なら解けるだろ?」
なんとなくだけど、タッチは私が光輔のことが好きなのが分かっているみたいだった。直接は言わないけどやんわりと光輔の名前を出す。そして、ほんのちょっとにんまり笑う。そのたびに恥ずかしいような嬉しいような複雑な気持ちになる。ちょっとだけ怒りもある。かといって言いがかることも出来ない。それで余計に腹が立った。
いつもなら部活終わりの光輔が教室にやってきて暗号を解く。だけど、今日はそれはない。光輔はとっくの昔に陸上部を引退している。高校でも陸上を続けるから、たまに校庭で走っているのを見かける。けど前みたいに練習終わりに光輔が教室に戻ってくるなんてことはもうなかった。
つまり、もし私がこの暗号を解くことが出来ず光輔の力を借りるとなったら、私が直接光輔に暗号を見せにいかなきゃいけない。
……それはイヤだ。
別に普通に見せればいいんだけど、やっぱり悔しい。光輔はきっとものの数分で簡単に解くだろう。最後の最後でそれはイヤだ。
私はいつも以上に力を入れて、最後の暗号と向き合った。
「まあもし福山も解けなかったら……」
「解けなかったら?」
「卒業式に答え言うよ」
タッチはニコっと笑う。
それはもっとイヤだ。絶対にイヤだ。完全に敗北になる。
自分の力だけで解く。私はタッチのその言葉をもらった瞬間からひたすら暗号解読に集中した。
数時間経過しただろうか。……分からなかった。
「また明日」
タッチと別れるときはとにかく憎い顔に見えた。だけどちょっと久しぶりにこの感じを味わえたのはまんざらでもなかった。
卒業式前日。昼も夜も暗号をぼんやり眺めていたけど、なんにも分からない。
タッチに答えを教わるのだけは避けたかった。散々悩んで、暗号は解けなくて、もがいてもがいて……。出た結論はこうだった。
明日光輔の力を借りよう。
そう思い、暗号の紙をカバンにしまって私は眠りについた。
次の日。結局、卒業式は中止になった。
つづく
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【「明日何しようかな」あらすじ】
大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」
学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった
二○一○年三月
中学卒業を間近に控えた三人は記念にタイムカプセルを埋めようと企画する……
【登場人物】
・福山光輔(ふくやま・こうすけ)
男性
百白中学校三年生
・佐々木景子(ささき・けいこ)
女性
百白中学校三年生
・泉心菜(いずみ・ここな)
女性
百白中学校三年生
・佐々木莉子(ささき・りこ)
景子の姉
・上杉史也(うえすぎ・ふみや)
男性
百白中学校の先生。通称「タッチ」
・益川正義(ますかわ・せいぎ)
男性
刑事
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#明日何しようかな もつけてもらえると大変喜びます
このブログへのリンクが貼ってあるツイートを引用リツイートしてもらえると感無量です
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