明日何しようかな?#35

「むかブロ?」140日連続更新企画

自作小説を連載しています

温かい目で読んでください

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景子


暗い階段を上ると、扉があった。あとは三階へ続く階段だけ。扉には下で見た看板と同じものが貼られていた。

すみれさんは扉を開ける。中は明るかった。少し眩しい。

「すみません、散らかってて」

十畳くらいの部屋の奥側半分を見ると、たしかに彼女の言う通り散らかっている。だけど、手前半分は綺麗に片付いている。まるで境界線が引かれているみたいだ。

手前の綺麗な半分は中央に小さなテーブルと椅子があった。その周りには壁一面に作品が飾られている。額縁に飾られているものや、キャンバスのまま置いてあるもの、彫刻みたいなものもある。

散らかっている奥半分はすみれさんの作品を作るスペースのようだ。人一人がすっぽり収まるスペースに椅子が置いてある。その周りは描きかけの絵やら絵の具やらバケツやらがとにかく取っ散らかっている。

「こちらへどうぞ」

すみれさんは手前の綺麗なゾーン中央にある椅子を引いた。

「ありがとうございます」

私は座る。座るや否やすみれさんは次の質問を私にする。

「コーヒーと紅茶、どちらがいいですか?」

「え?……いや、そんな!雨宿りしただけですから!」

「でも……」

「本当に大丈夫です。本当に。雨が止んだらすぐに帰りますんで」

「そうですか」

すみれさんはどこか寂しそうに答える。私は何か悪いことをした気になる。悪いことは何もしていないはずだけど。

今度は私が聞く。

「これ全部あなたの作品なんですか?」

「あ!はい!」

花の絵。海の絵。人の絵。何がモチーフなのか、どこの景色なのか分からない。だけど、すみれさんの描く絵を見ると不思議と懐かしい気持ちになった。

「素敵な絵ですね」

「……ありがとうございます!」

「全部、ここで描いてるんですか?」

「はい、そうです」

そのあとも色々と質問した。すみれさんはここを格安で借りているらしく、ここが仕事場だそう。毎日、ここで絵を描く生活をしている。

「でも、こんなこと言ったらあれだけど、こんなとこお客さん来るの?」

「四人目ですね。佐々木さんで」

ほう。こんな暗いアトリエに今日四人も来ているらしい。世の中色んな人がいるもんだ。

「今日来たお客さんは何か買っていってくれたの?」

私の質問にすみれさんは答えない。私の言っていることが理解出来ていないような顔をしている。

「あれ?」

「はい」

「だから、今日来たお客さんは何か買っていってくれたの?って」

「今日?」

ん?会話が噛み合わない。

「え、だって四人目のお客さんって言ってたじゃない」

「……ああ、あれは今年です。『今年』四人目って意味です」

今度は私が理解するのに時間がかかる。

「今年って、二〇一八年?」

「はい」

「今年って、もう十二月よね?」

「はい」

「それで四人目なの?」

「はい」

すみれさんは間髪入れず返してくる。間髪入れて欲しいところなのに。

「え?あなた大丈夫?」

思わず本音がこぼれてしまった。

だってそうだ。今年ももう終わりというのに、まだ四人しかお客さんが来ていないという意味でしょ?だとしたら、絶対に食っていけるわけがない。それとも、この作品本当は、めちゃくちゃ高価なのか?たしかに値段は書いていない。というか、そもそも私はお客さんではないぞ?

「まあ、貯金を切り崩してなんとか生きてます」

「…………」

そのあと私は時間を忘れて根掘り葉掘り聞いてしまった。

まずすみれさんは三つ年下の二十一歳。高校を卒業したあとすぐに一般企業に就職したらしい。だけど、ワケありで三か月で辞めることとなり、そのあとはフリーターとしてアルバイトを点々としたらしい。

そして、生活を切り詰めてなんとか貯めたお金で、ここのアトリエを開設。二十歳からここでこの生活をしているらしい。今はアルバイトはしておらず、収入はゼロ。

「……え、なんで会社辞めちゃったの?」

この質問にはさすがに答えにくそうにしていた。

「あ、ごめん。言えないなら、言わなくていいよ」

すみれさんは無言で長袖をめくった。隠れていた右腕があらわになる。そこには

Tomoyuki

筆記体で描かれていた。いや、彫られていた。見た瞬間に分かる。タトゥーだ。


つづく


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【「明日何しようかな」あらすじ】

大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」

学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった

二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める

卒業式当日

景子の姉である莉子の失踪事件が起こる

光輔らが不審な車を目撃していたことなど手がかりはあるものの、結局莉子は見つからず

事件の混乱で卒業式は中止が決定

タイムカプセルを埋めたときを最後に光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう

 

 

【登場人物】

・福山光輔(ふくやま・こうすけ

男性。百白中学校出身。頼りがいのあるしっかりもの。


・佐々木景子(ささき・けいこ)

女性。百白中学校出身。さばさばした性格。


・泉心菜(いずみ・ここな)

女性。百白中学校出身。寂しがりやの甘えん坊。


・佐々木莉子(ささき・りこ)

女性。景子の姉。2010年3月に失踪する。


・上杉史也(うえすぎ・ふみや)

男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」


・益川正義(ますかわ・せいぎ)

男性。莉子失踪事件を担当する刑事。


・早見徹(はやみ・とおる)

男性。元天才美容整形外科医。現在はラーメン屋を営む。


・片寄渚(かたよせ・なぎさ)

女性。心菜の味方をする。


・長谷川すみれ(はせがわ・すみれ)

女性。東京の小さなアトリエで絵を描いている

 

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