「むかブロ?」140日連続更新企画
自作小説を連載しています
温かい目で読んでください
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景子
私は今「転職人を探せ!」のコーナーを担当している。「転職」して成功した「職人」を探して取材しインタビュー。その模様を月一で配信する。そのライターをしている。
この人生に私は満足している。給料は安いがやりがいがあればいいと思っている。
だけど、人に話すのはなんだかイヤだった。ウェブ上では「ネオン」の名前でライターをしている。「佐々木景子」とは別人のつもりだ。
もし、光輔と心菜が今の私を見たらなんて言うだろうか。別になんとも言わないだろう。でも、勉強しかしてなかったあの時の私のイメージとズレてしまうのは目に見える。そのときの気まずさとかを考えると、あの二人と込み入った話をするのは若干ためらいがあった。
「転職人」をたくさん取材していると色々な人生を覗き見することが出来る。そして、色々な人柄と出会う。それは取材していて楽しいと思えるときもあったし、そうでないときもあった。
そして、今は後者だ。
早見徹は元々は医者をやっていたそうだ。美容整形が専門。なんでも日本で一番美容整形の腕があるとその界隈では噂があったそうだ。
『見た目が変われば、人生も変わる』
それが早見のキャッチフレーズ。
早見の整形技術の特徴はとにかく仕上がりが自然なこと。たまに「明らかに整形しただろ」なんて人を見かけるが、早見の手にかかるとそういった心配は無用らしい。
二重手術もタトゥーの消去も自然な仕上がりになる。その評判で名を馳せたらしい。芸能人にも早見の手にかかった人がたくさんいるとかいないとか。
そんな彼が医者を辞めるというのがニュースになった。なんの前触れもなく、ラーメン屋さんに転身するとの一報が流れた。
それを聞きつけた編集長が「どこよりも早くうちが取材するんだ」と鶴の一声で今日の取材が決まった。私も休みだったはずの日が「この日しかない」と説得され、渋々早見と会うことになった。
そして、一番の質問「どうしてラーメン屋さんに転身されたのでしょうか」。この答えを聞きにやってきたと言っても過言ではない。それは私も気になりはした。
質問の答えはかなりあっさりとしていた。
「飽きたからです」
「はあああぁぁ!?」と言いかけたがギリギリで耐えた。
「病院を開いて、患者さんの理想の見た目に手術して、で、満足させて帰ってもらう。それの繰り返しでしょ?それがなんかイヤになっちゃって」
早見は笑いながら答えた。
別に人の人生にああだこうだ言うつもりはない。だけど、この答えだけは本当に気に食わなかった。
初対面で「はじめまして」と言ったときから(この人、私苦手なタイプだ……)という危険察知はずっとしていた。それがこの答えを聞いて確信に変わった。
そのあとは今のラーメン屋さんを開いた経緯なんかを聞いた。
仕事のクセで聞いたことをきちんと目の前のパソコンに打つことはしていた。でも、彼の言葉は私の脳内に留まることはなかった。録音もしているし、まあいっかって。この人の言葉を聞くことを私自身が反射的に嫌がっていた。
「どうです?是非今度ラーメン屋さんに来てみませんか?ごちそうしますよ」
「ああ、ありがとうございます!是非!」
憎い。無理矢理笑顔で返す自分が憎い。
「あと、ここだけの話なんだけど……」
「はい」
「これは記事には書かないでね」
私はパソコンの手を止める。
「もし周りに整形手術を受けたいって人がいたら、こっそり僕が担当してあげる」
「どういうことですか?」
「いや、今度からは親しい人とか限られた人とかだけ特別に手術をしようと思ってるんだ。何年も先まで予約でいっぱいとかはイヤだけど、少人数ならいいかなって」
「でもなんで私なんですか」
「実は私、ネオンさんのファンなんですよ。一度お会いしてみたくて」
「はあ」
たぶんこのとき私は営業スマイルをやめたと思う。
「実際お会いしてみたら、お綺麗な方で。こうして自分が取材を受けられたのもすごい幸せなことだなと思いまして」
「…………」
早見は名刺を胸ポケットから取り出す。
「あ、名刺ならさっきいただきましたよ」
「さっきのはラーメン屋さんの名刺。こっちはお医者さんの名刺」
受け取った名刺を見ると、さっきもらった名刺とは違う連絡先が書いてある。
「ネオンさんも美しいですけど、人知れず隠している体の悩みなんかもあると思うんです。もちろん、ネオンさんの周りにも悩んでいる人はいるかもしれない。そういうときは是非僕に声をかけてほしいなと思いまして」
こうやって洗脳される人もいるんだろうな。逆に感心する。
「こうしてネオンさんと今日出会えたのも運命だと思うんです」
「…………」
「ね?また良かったら連絡くださいね」
「はい」
消え入りそうな小さな声で返事をした。
早く帰りたい、ただそれだけだった。
つづく
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【「明日何しようかな」あらすじ】
大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」
学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった
二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める
卒業式当日
景子の姉である莉子の失踪事件が起こる
光輔らが不審な車を目撃していたことなど手がかりはあるものの、結局莉子は見つからず
事件の混乱で卒業式は中止が決定
タイムカプセルを埋めたときを最後に光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう
【登場人物】
・福山光輔(ふくやま・こうすけ)
男性。百白中学校出身。頼りがいのあるしっかりもの。
・佐々木景子(ささき・けいこ)
女性。百白中学校出身。さばさばした性格。
・泉心菜(いずみ・ここな)
女性。百白中学校出身。寂しがりやの甘えん坊。
・佐々木莉子(ささき・りこ)
女性。景子の姉。2010年3月に失踪する。
・上杉史也(うえすぎ・ふみや)
男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」
・益川正義(ますかわ・せいぎ)
男性。莉子失踪事件を担当する刑事。
・早見徹(はやみ・とおる)
男性。元天才美容整形外科医。現在はラーメン屋を営む。
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ややこしくて申し訳ないのですが、正式には「むか」はひらがなで「ブロ」はカタカナです
#明日何しようかな もつけてもらえると大変喜びます
このブログへのリンクが貼ってあるツイートを引用リツイートしてもらえると感無量です
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