明日何しようかな?#23

「むかブロ?」140日連続更新企画

自作小説を連載しています

温かい目で読んでください

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景子


「どうしてラーメン屋さんに転身されたのでしょうか」

高級ブランドで全身固められた服。高そうな腕時計。そして、なにより自信がみなぎっている顔。

早見徹という、ギラギラとした男と私はカフェにいた。

ダメだ。この人は苦手だ。早く帰りたい。

だけど、そういうわけにはいかない。なぜなら今は仕事中だからだ。

物心がついたときからずっと勉強ばかりしてきた。親の影響だ。

お母さんが決めた塾に通い、お母さんが決めた高校に合格し、お母さんが決めた予備校に通い、お母さんが決めた大学に合格した。

もちろん感謝はしている。人生のレールを大体敷いてくれたのは紛れもなく両親だ。

だけど、同時に憎んでもいる。十代の青春の時期を、塾に長時間かけて通わされたり、高校生で寮生活を強いられたりと色々苦労したからだ。

高校生になったときくらいから、親からのプレッシャーはさらに大きくなった。

お姉ちゃんが失踪した。いつも通り「行ってきます」と朝家を出ていってから二度と帰ってこなかった。

自宅から無くなったのは携帯電話だけ。その携帯電話も自宅近くで最後のGPS信号を受信したっきり見つかっていない。遺書や書き置きの手紙も見つかっていない。

そのせいで私の中学校の卒業式は中止になった。

私は友達が少ない。口もそんなに良いほうじゃないし、周りからは冷たい人、怖い人とよく言われる。そんな私といつも一緒にいてくれた友達が二人だけいた。

光輔と心菜。この二人と過ごす最後の日が卒業式になるはずだった。

結局、最後に「さよなら」も言えず、光輔は村を出た。心菜とも話したかったけど、タイミングが合わず、今度は私が上京するために村を出た。

光輔はたまに連絡をくれる。けど、決まって私が忙しいときに電話をかけてくる。だから落ち着いて話をしたのは卒業以来全くない。

でも、実際落ち着いて話をしたところで何話せばいいんだろう。今更会うのも気まずい気がするのは私だけなんだろうか。電話がかかってきたとき、なぜか冷たく返してしまう。本当は今どこに住んでいるのかとか聞きたいのに。

心菜は完全に音信不通になってしまった。なんとも言えないが心菜が私たちに会うのを拒んでいるのはなんとなく分かる。

心菜が光輔のことが好きなのは一目瞭然だった。卒業式にそのケリをつけるはずだった。だけど、こうなってしまった。

心菜はあの日のまま何も整理が出来ずにずっと今も生きているんだと思う。整理するのは怖い。でも、ちゃんと光輔と私と「さよなら」がしたい。でも、私にはお姉ちゃんがいなくなったことを思い出してほしくない。そうやって、迷いに迷って私たちともう会わないことを決めたんだと思う。心菜なりに無理矢理整理したんだろう。

私はお姉ちゃんがいなくなって、卒業式が無くなって、大混乱のまま東京に来た。

最初はテレビでずっとあの事件のことが取り上げられていた。私はそれを極力見ないようにした。

東京でも関係の薄い友達は何人か出来た。だけど、この事件で失踪した人の妹であることは黙っている。言ったところで私にメリットが何一つないからだ。

村とはまるで違う環境で暮らしていくなかで、私は徐々に過去のことで悩むことは少なくなった。もちろん、事件はどうにか解決してほしいと思っている。

でも本音はもう諦めていた。

お姉ちゃんはもう帰ってこない。それが答えだ。そう信じるのが一番楽だ。

大丈夫だよ、解決するよって言っている自分も心の中にいる。でも、事件のことを考えれば考えるほど苦しむ自分がいた。だったら諦めたほうが楽。

その気持ちに追い打ちをかけるような出来事が立て続けに起こった。

まずはお母さんからの着信。私たちの中学校が廃校になるらしい。

光輔と心菜と過ごしたあの校舎や教室がなくなる。寂しいものは寂しい。

じゃあ、あの二人となんとか連絡を取って最後にもう一回学校へ行くか?

私は行きたい。でも、現実は難しいだろう。

学校の裏の空き地に埋めたタイムカプセル。もちろん私は覚えている。あれも本当に掘り起こす日が来るのだろうか。二人は覚えているんだろうか。

たぶん、無かったことになるんだろうなって、そんな気がしていた。

もう一つ、先日着信があった。益川さんからだ。

益川さんは私たちに親身になって接してくれた。時折、私のことを心配してくれた。今、日本で唯一あの事件の解決を本気で考えてくれている人だと思う。

その益川さんが定年を迎えて次の三月で刑事を辞めるとのことだった。

最後の灯が消えたような気持ちだった。

「ネオンさん?大丈夫ですか?」

「え?ああ、すみません」

「何か悩みでも?」

「いえ」

今、私はウェブライターの仕事をしている。大学生のときに自分の研究していることがとある新聞社の取材を受けた。それがきっかけで新聞を読むようになった。

新聞は短い記事の中で的確に物事を教えてくれる。毎日読んでいると少しずつ新聞のちょっとしたコラムを読むのが楽しみになったりした。今まで勉強しかしてこなかった私にとって初めて「面白い」と思えるものと出会った瞬間だった。

私は大学での専攻や研究内容とはまるきっり違う新聞記者を目指した。親には反対された。でも、もう言いなりなるのは辞めた。

新聞社の面接を片っ端から受けた。でも、箸にも棒にも掛からなかった。

仕方なく妥協案ではあったが雑誌などのライターでもいいやと思いなおすことに。そして、流れ着いた先がウェブ上でエンタメからゴシップ、ドキュメンタリーまでなんでも配信するサイトのライターだった。


つづく


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【「明日何しようかな」あらすじ】

大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」

学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった

二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める

卒業式当日

景子の姉である莉子の失踪事件が起こる

光輔らが不審な車を目撃していたことなど手がかりはあるものの、結局莉子は見つからず

事件の混乱で卒業式は中止が決定

タイムカプセルを埋めたときを最後に光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう

 

 

【登場人物】

・福山光輔(ふくやま・こうすけ

男性。百白中学校出身。頼りがいのあるしっかりもの。


・佐々木景子(ささき・けいこ)

女性。百白中学校出身。さばさばした性格。


・泉心菜(いずみ・ここな)

女性。百白中学校出身。寂しがりやの甘えん坊。


・佐々木莉子(ささき・りこ)

女性。景子の姉。2010年3月に失踪する。


・上杉史也(うえすぎ・ふみや)

男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」


・益川正義(ますかわ・せいぎ)

男性。莉子失踪事件を担当する刑事。

 

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