明日何しようかな?#22

「むかブロ?」140日連続更新企画

自作小説を連載しています

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光輔


ニュースも四月くらいまでは連日取り上げていたが、少しずつ事件の報道は減った。

俺も高校生のときは益川さんと頻繁に連絡をとっていたが、それも減っていった。高校生のときはまだ陸上にかなり熱があったので、学年が進むにつれて少しずつ中学生までの思い出や事件の記憶が薄れていった。

景子とは高校一年生の夏休みあたりに初めて連絡することが出来た。事件のことを話すのは少し気が引けた。最初は他愛もない会話をしたと思う。そのとき景子自身は予定通り東京の高校へ進学し、勉強に励んでいると聞いた。

お互い高校生活が忙しく、ろくに連絡は取っていなかった。

今はそのまま横浜の大学に進学したらしい。合格したときに電話はした。だけど、そのときも「おめでとう」くらいしか言えず、詳しい生活の状況なんかは聞けなかった。今どこに住んでいるのかも知らない。

成人式も景子はいなかった。無理もない、地元に戻るのは辛いところがあるだろう。

心菜はというと、もっとひどい。完全に音信不通になった。

メールアドレスも変えたらしく、電話番号も繋がらない。成人式もいなかった。今どこで何をしているのかすら分からない。

再来年、俺と景子と心菜はタイムカプセルを掘り返す予定だ。だけど、このままだとそれすら出来そうにない。

まあこんなものなのかもしれない。寂しい気持ちはあるけれど、でも俺は俺で高校や大学で新しい友達をそれなりに作ったし、二人もたぶん何かしら新しい環境で暮らしているはずだ。日々を過ごせば、中学校の思い出なんて忘れていくに決まっている。

事件も解決の糸口も見つからない。そうなると、事件はただただ「イヤな思い出」となる。それを忘れていくのは自然なことだろう。

でも、でも何か心に引っかかるものがある。

満員電車に揺られているときとか、トイレで個室にいるときとか、ふとした瞬間にその「引っかかり」は思い出す。事件のことなのか、三人との思い出なのかは分からないけど、何かが引っかかるのだ。

そして、今がそのときだ。

何でもない会社からの帰り道。空いてはいないが混んでもいない電車。俺はドアにもたれかかってぼんやり町の風景を眺めていた。

「学校無くなっちゃうんだって」

久々のお母さんからの電話で報告された。

正直、そうなる日が自分が生きている間には来るだろうなとは思っていた。ただでさえ俺たちのときも少なかった百白中学校の全校生徒は、今は指で数えられるほどになったらしい。

中学校が廃校になるのも、あの村が無くなるのも、そう遠くない未来の話だと思う。

廃校って言っても校舎を取り壊したりするのだろうか。親に電話越しに聞いたが「分からない」とだけ返ってきた。

タイムカプセルは学校の裏の空き地に埋めてあるから、たぶん大丈夫だろう。

廃校になるからと言って、自分の生活にはなんら影響がない。ただ寂しいだけ。

でも、その報告を受けてから、また事件のことや中学生の思い出が心から離れなくなってしまった。

たまたまなのかもしれないが、母親から電話があった翌日、益川さんからも電話があった。

「やっぱり次の三月で辞めることにしたよ」

益川さんも定年だ。

事件が発生したあの日、初めてみた益川さんはまだまだ若さがあった。

あれから八年以上の月日が流れている。そりゃ益川さんも歳を取るに決まっている。

もう警察には益川さんしか頼れる人がいない。その頼れる人が警察からいなくなる。だから焦っていた。

ほぼ止まっている事件の捜査の針が完全に止まってしまう。俺たちは莉子ちゃんの行方を知ることが出来ずにこの事件に負けてしまう。

絶対にそれだけはあってはならない。

でも、どうすればいい?俺は何をすればいい?

それの繰り返し。特にお母さんと益川さんの電話があったときからはずっとこれの繰り返しだった。

頼むから何か事件解決の糸口が見つかってほしい。

俺は心の中で毎日祈っていた。

その成果が出たのだろうか。俺は信じられない光景を目の当たりにする。

ぼんやり眺めていた電車からの風景。駅が近いからかなり減速している。

ボロボロの二階建てのアパート。その廊下に黄色いリュックサックを背負った女性がいる。

「心菜?」

周りのお客さんは突然俺が声を出したからびっくりしただろう。でも、声が勝手に漏れるほど驚いた。

間違いない。アパートの廊下を歩いていた人は心菜だ。

電車が駅に停車するやいなや俺は電車を飛び降りた。


つづく


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【「明日何しようかな」あらすじ】

大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」

学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった

二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める

卒業式当日

景子の姉である莉子の失踪事件が起こる

光輔らが不審な車を目撃していたことなど手がかりはあるものの、結局莉子は見つからず

事件の混乱で卒業式は中止が決定

タイムカプセルを埋めたときを最後に光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう

 

 

【登場人物】

・福山光輔(ふくやま・こうすけ

男性。百白中学校出身。頼りがいのあるしっかりもの。


・佐々木景子(ささき・けいこ)

女性。百白中学校出身。さばさばした性格。


・泉心菜(いずみ・ここな)

女性。百白中学校出身。寂しがりやの甘えん坊。


・佐々木莉子(ささき・りこ)

女性。景子の姉。2010年3月に失踪する。


・上杉史也(うえすぎ・ふみや)

男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」


・益川正義(ますかわ・せいぎ)

男性。莉子失踪事件を担当する刑事。

 

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