明日何しようかな?#64

「むかブロ?」140日連続更新企画

自作小説を連載しています

温かい目で読んでください

第一~三章(#1~#58)のまとめ読みはこちら

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心菜


「え?」

景子の表情がとたんに変わる。

「肝臓ガン。かなり進行していて、余命宣告も受けています」

「そんな……」

私はうつむいたまま、二人の会話を耳で聞く。

「余命は……」

「半年ほどと去年の十月の終わりに言われています」

「…………」

「家族の意向で東京にある名医にかかりたいとのことだったんで、東京の病院に転院したんです」

それから渚さんは私との出会いやこれまでのことを話してくれた。分かりやすく、丁寧に、時折私の様子を見ながら。

「病状は?」

景子の質問に渚さんは答えに詰まる。

東京まで来て、聞いたこともない治療を受けた。試せることは全部やってきた。それでも、私の体が良くなることはなかった。

「心菜……」

景子の声が震えている。

「なんで?なんで言ってくれなかったの?ねえ!」

景子は怒っている。そりゃそうだ。

「なんでもっと早く言ってくれなかったの?せめて、こないだの電話のときでも言ってくれたらよかったじゃん!」

「…………」

「答えてよ」

渚さんも口をつぐむ。ここは私が口を開くしか選択肢がなかった。

「私、一人で死のうと思ってたの」

私が本当に友達と思っているのは、景子と光輔だけだった。他にも知り合いはいたけれど、でも一緒にいて心から楽しいと思えるのは二人だけだった。

そんな二人ともあの事件を機に連絡をとるのをやめた。それは私のせい。ただ、もうこの二人には会えないような気がしていた。

景子も光輔も私とは違う。二人は色んな人と仲良く出来るし、明るいし、友達も多い。私とは違う。高校や大学に進んで、どうせ私のことなんて忘れちゃうんだろう。そう思っていた。

「拗ねてたの」

「はあ?」

「私、どうせ二人みたいに楽しい人生送れないし、どうせ友達も出来ないし。二人に会ってもみじめになるだけだろうし」

「…………」

そんな私をある日当然病気が襲う。

大阪の実家である日突然目の前が真っ暗になった。急に前触れも無く倒れたらしい。

急いで病院に救急車で向かった。そして、告げられたのがガンだった。

「でもね、あんまりショックじゃなかったの」

「心菜ちゃん」

渚さんは初めて口を挟む。そんなことを言わないで欲しかったんだろう。

でも、本当だった。もうそういう運命なんだ。私、死んじゃうんだって、なんかすんなり受け止められた。

もちろん家族は泣きながら、私が生きる道を探してくれた。それで家族全員で東京行きを決断したのだった。

私はどうでもよかった。死ぬ場所が変わるくらいだと思っていた。

そんな私に優しく手を伸ばしてくれたのが、渚さんだった。

渚さんと出会って私は少しずつ中学生だった頃の楽しい時間を思い出していった。人生で三人目の「一緒にいて楽しいと思える人」に出会った。

「やっぱり、ちゃんと自分と向き合わなきゃ」

渚さんのおかげでそう思えるようになった。だけど、今さら景子や光輔になんて言えばいいか分かんなかった。余計な心配もかけたくないし、病気であることが隠せるなら隠したかった。

「馬鹿!!!」

景子が突然叫ぶ。

「心菜の馬鹿!中学から何も変わってないじゃない!」

景子は立ち上がる。

「全部、正直にちゃんと言えばいいじゃない!それだけなのに!なのに……」

景子は膝から崩れ落ちる。顔を伏せ、大粒の涙をこぼしていた。

「私のせいか。私のお姉ちゃんの事件のせいだよね」

「景子……」

「ごめん……」

私は「そんなことないよ」と言えなかった。代わりに涙があふれた。


つづく


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【「明日何しようかな」あらすじ】

大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」

学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった

二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める

卒業式当日

景子の姉である莉子の失踪事件が起こる

事件の混乱で卒業式は中止が決定

心菜が光輔に告白することや、心菜が所属していた暗号部の最後の暗号を解くこと

それらを整理することが出来ずに、光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう

ニ〇一八年、舞台は東京へ

事件は解決せず、心菜とは光輔、景子ともに音信不通となってしまう

景子は自宅の近くで雨宿りをしたのをきっかけに雑居ビルでアトリエを開いているすみれと出会う

すみれは腕に元カレのタトゥーが入っており、まともな職につくことが出来ないでいた

光輔は会社の帰り道、車窓からたまたまアパートの廊下にいた心菜を見かける

驚いた光輔は電車を飛び降り、心菜を探す

結局、心菜は見つからなかったが、心菜を見つけたアパートを確認することに

すると、アパートの一室にはあの日失踪したはずの莉子がいた

 

【登場人物】

・福山光輔(ふくやま・こうすけ

男性。百白中学校出身。頼りがいのあるしっかりもの。


・佐々木景子(ささき・けいこ)

女性。百白中学校出身。さばさばした性格。


・泉心菜(いずみ・ここな)

女性。百白中学校出身。寂しがりやの甘えん坊。


・佐々木莉子(ささき・りこ)

女性。景子の姉。2010年3月に失踪する。


・上杉史也(うえすぎ・ふみや)

男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」。


・益川正義(ますかわ・せいぎ)

男性。莉子失踪事件を担当する刑事。


・早見徹(はやみ・とおる)

男性。元天才美容整形外科医。現在はラーメン屋を営む。


・片寄渚(かたよせ・なぎさ)

女性。心菜の味方をする。


・長谷川すみれ(はせがわ・すみれ)

女性。東京の小さなアトリエで絵を描いている。


・羽田部長(はねだ)

男性。光輔の上司。


・松尾(まつお)

男性。光輔の部下。


・林さん(はやし)

女性。「グッバイぐっちー」を運営する。

 

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