明日何しようかな?#136

「むかブロ?」140日連続更新企画

自作小説を連載しています

温かい目で読んでください

第一~六章(#1~#116)のまとめ読みはこちら

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光輔


「こういう似顔絵のお客さんっていっぱい来るんですか?」

「はじめてばっかりのときは全然だったんですけど、ちょっとずつお客さんも増えてて、最近は週に二人とかですね」

それって多いのかな?多い気もするし、少ない気もする。

「でも「似顔絵とか描いてみたら」ってアドバイスしてもらえて、お客さんも増えたんです」

「誰に?」

「師匠です」

「…………」

「師匠に「看板出してみたら?」とか「似顔絵描いてみたら?」とか言ってもらって、私アトリエを続けることが出来たんです」

「ふーん」

芸術家ってやっぱり師匠がいるものなのかな?なんかテレビとかで書道とか華道の達人を見たことがあるけれど、長谷川さんにもそういう師匠がいるんだろう。

「良かったら、名前も入れられますけど」

「あ、お願いします」

「じゃあ、こちらに入れて欲しい表記で名前をお願いします」

俺は差し出された紙に「福山光輔・渚」と書く。

「福山様……」

「はい」

長谷川さんの表情が固まる。

「どうかされました?」

長谷川さんは答えない。

「長谷川さん?」

「あっ」

「どうかされましたか?」

「いえ、なんでも!」

同姓同名の友達でもいたのかな?長谷川さんは少し固まっていたが、すぐにさっきまでの笑顔に戻る。

お会計を済ませ、アトリエを出る。

「ありがとうございました」

深く深くお辞儀をする長谷川さんにお礼を返して、俺は店を出た。

ついに出発の日。大きなトランクケースを転がし、空港へやって来た。

似顔絵の色紙は手荷物のかばんに忍ばせてある。あれだけ素敵な絵だから、最後のサプライズにしようと思ったからだ。

搭乗手続きを済ませ、あとは飛行機に乗り込むだけ。休みに帰ってくることも出来るだろうが、しばらく向こうでの生活が続く。

渚はもちろんお見送りに来てくれた。羽田部長や松尾など、会社の人たちも何人かいる。俺はその全員と握手を交わす。

「福山君、よろしく頼んだぞ」

羽田部長の言葉。

「ありがとうございます」

そして松尾。みんな「頑張れ」とか「元気で」とか一言ずつかけてくれるのだが、松尾は何も言わない。いや、言えない。信じられないくらい泣きじゃくっているからだ。

「松尾、やめろって。恥ずかしいだろ」

「※÷ΔΛΦ〇ΨΣ……」

渚も泣いてないのに。他に誰も泣いてないのに。

「松尾!」

「はい……」

「泣くな!」

「…………」

松尾は口をギュッと閉め、俺の顔を見る。

「日本に帰ってきたとき、お前がどんだけ成長してるか確かめるから、覚えとけよ」

「はい!」

松尾が俺の手を握る強さが強くなる。

「元気でな」

「はい!」

かなり強く松尾の肩を叩く。

会社の人と挨拶を交わし終えて、最後に渚が残る。

「ありがとうな、俺のワガママ聞いてくれて」

「ううん。全然」

「寂しい思いさせるかもしれないけど、許してほしい」

ダメだ。こんなこと言ってると、俺が泣きそうだ。松尾も見てるから泣けないけど。

俺はカバンから例の色紙を取り出す。

「これ」

「なにこれ?」

「開けて」

渚は袋から色紙を取り出す。中身を見て驚く。

「え、すごい!似顔絵?」

「うん、描いてもらった」

多くはしゃべらないが、温かい絵を見て、渚もいい表情をしている。

「ありがとう」

渚は色紙を袋に戻し、大事に持ち抱える。

「寂しくなったら電話するね」

「うん」

もう行かなきゃ、時間だ。

「心菜のこと、よろしく頼んだぞ」

俺は渚にだけ聞こえる声で言う。

「うん」

心強い返事が返ってくる。

「皆さん、お見送りありがとうございます。行ってきます」

会社のみんなが手を振る。

「行ってくる」

渚にだけ改めて言う。

「行ってらっしゃい」

渚も手を振る。

俺はみんなに背を向け、飛行機へと歩きだした。

寂しくないわけがない。不安がないわけがない。これからの生活は何が起きるか全くもって予想がつかないし、何度も何度も日本が恋しくなるだろう。

だけど会社の人が俺に期待してくれている。俺にしか出来ない仕事がある。それを無視することは出来なかった。

「渚、ごめんな」

一番申し訳ないのが渚。俺は自分がどうしてもこの仕事を受けたいこと、だけど渚には一番迷惑をかけてしまうのが辛いこと、全部を本音で言った。

渚の返事はこうだった。

「私は誰かのために一生懸命頑張ってる光輔が好き。たぶん、私だけじゃなくてみんなそうだと思う。私は光輔が誰かのために頑張るのなら応援する」

「…………」

「光輔ならどこに行っても大丈夫だと思う。離れてても私のこと心配してくれるだろうし、浮気もしないだろうし」

渚はフフっと笑う。冗談なのは分かったけれど、俺には笑う余裕はなかった。

「行ってきなよ。私は大丈夫。私は光輔の妻だけど、光輔の応援団でもあるから、頑張る光輔を応援しない選択肢はないよ」

「……寂しくない?」

「光輔がいないのは寂しいけど、光輔がやりたいことやれない方がもっと寂しい」

飛行機は離陸し、あっという間に日本の海岸線が見えるところまで来た。

もし妻が渚じゃなかったら俺は今ここにいないかもしれない。申し訳ない気持ちはもちろん今もあるし、これからもずっとあるだろうけど、でもあんな言葉を言えるのは渚くらいだと思う。

恵まれてるんだな、俺は。家族も友達も恵まれている。そんなたくさんの大事な人のためにも、中途半端なことは出来ない。

俺は頭は良くない。口も悪い。足は昔は速いつもりだったけど、そうでもなかった。

自分のいいところってなんだろう。自分の自慢できることってなんだろう。

そんなこと考えると不安で不安でたまらなくなる。たぶんみんなそうなんだろうけど、でもその「みんな」より自分の方が劣ってるんじゃないかって不安になる。

俺はその不安を無くせるように目の前の「明日」を頑張ろう。誰かのためでいい。誰かのため〝だけ〟でいい。渚、景子、心菜、その他みんなみんな。あの人たちのために必死に頑張ろう。

やるしかない。やってやろう。あいつのために。

明日、何しようかな。


光輔編、おわり


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【「明日何しようかな」あらすじ】

大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」

学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった

二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める

卒業式当日

景子の姉である莉子の失踪事件が起こる

事件の混乱で卒業式は中止が決定

心菜が光輔に告白することや、心菜が所属していた暗号部の最後の暗号を解くこと

それらを整理することが出来ずに、光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう

ニ〇一八年、舞台は東京へ

事件は解決せず、心菜とは光輔、景子ともに音信不通となってしまう

景子は自宅の近くで雨宿りをしたのをきっかけに雑居ビルでアトリエを開いているすみれと出会う

すみれは腕に元カレのタトゥーが入っており、まともな職につくことが出来ないでいた

光輔は会社の帰り道、車窓からたまたまアパートの廊下にいた心菜を見かける

驚いた光輔は電車を飛び降り、心菜を探す

結局、心菜は見つからなかったが、心菜を見つけたアパートを確認することに

すると、アパートの一室にはあの日失踪したはずの莉子がいた

光輔は莉子の目撃を確信にするために、頻繁に偵察を続けることにした

一方、景子は自身の人脈を使い、すみれ救済計画を進める

まずは「愚痴聞き」サービスのオペレーターの職につき、安定した収入を得られるようにする

そして、元美容整形外科医の早見の力を借り、腕のタトゥー除去も企てる

すみれの生活は徐々に明るくなっていった

そんなさなか、公園にいた心菜と偶然再会する

心菜はガンを患っており余命宣告もされている状況で、治療のために東京に来ていた

一緒にいた看護師の渚にそのことを聞いた景子は、もう一度三人で会おうと誓う

光輔は事件解決の糸口が見つからず、自身の転勤の話もあり、かなり焦っていた

失踪事件の担当であった益川の力を借り、莉子がいたアパートに突入する

しかし、そこにいたのは莉子そっくりの人物だった

事件は振り出しに戻り、消沈する光輔

そんな光輔も景子の助けもあり、心菜とは電話越しではあるが再会する

事件が起きたあの日、心菜は不審な音を聞いていたことを告白する

事件解決、そして三人揃ってタイムカプセルを開けるためにそれぞれが動き出す

 

 

【登場人物】

・福山光輔(ふくやま・こうすけ

男性。百白中学校出身。言葉使いが荒かったりと乱暴な一面もあるが、体育会系のしっかり者でもある。
中学の頃から陸上にのめり込み、大学まで続けたが思うような結果は残せず。
大学進学を機に上京したことをきっかけに東京の一般企業に就職する。


・佐々木景子(ささき・けいこ)

女性。百白中学校出身。思いやりや優しさもあるが、ときに周りに冷たくあたってしまうサバサバした性格でもある。
厳しい家庭で育ち、大学進学まで親の言いなりで生きてきたが、もっと自分らしい生き方をしようとウェブライターに就職。
光輔や益川ともたまに連絡を取るが、姉の失踪事件は半ば諦めているというのが本音。


・泉心菜(いずみ・ここな)

女性。百白中学校出身。幼馴染三人の中では一番ワガママで寂しがりやで甘えん坊。
事件が原因で光輔と景子と離れ離れになったことがあまりにショックで、人間不信になっていた。
誰にも心を開かず大人になったが、病院で出会った渚には徐々に心を開くようになる。


・佐々木莉子(ささき・りこ)

女性。景子の姉。2010年3月に謎の失踪を起こす。
失踪の前触れのような行動は見られず、ある日突然いなくなった。


・上杉史也(うえすぎ・ふみや)

男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」。学校中の生徒から愛されており、光輔、景子、心菜の三人も親しい仲だった。
心菜以外の二人とは中学卒業後も連絡をたまに取っている。


・益川正義(ますかわ・せいぎ)

男性。莉子失踪事件を担当する刑事。事件発生当時はベテランながら若々しい見た目。まだ中学生だった光輔らにも丁寧に接し、すぐに信頼を得る。
刑事人生で唯一莉子失踪事件のみが解決できておらず、なんとしてでも解決しようと情熱を注いでいる。
しかし、自身の定年も近付いていた。


・早見徹(はやみ・とおる)

男性。元天才美容整形外科医。現在はラーメン屋を営む。
記事を書くために取材したことをきっかけに、ウェブライターの景子(ネオン)と親しくなる。
景子はこの男が苦手であるが、すみれのタトゥー除去のために話しているうちに少しずつ打ち解け合っていく。


・片寄渚(かたよせ・なぎさ)

女性。心菜を担当する看護師。
おてんばで明るい性格で、周りからも愛されるキャラクター。
患者思いの性格で、なかなか心を開かない心菜にも何度もアタックし少しずつ信頼を得ていった。


・長谷川すみれ(はせがわ・すみれ)

女性。東京の小さなアトリエで絵を描いている。景子いわく「かなりの馬鹿」
猟奇的な彼氏の束縛にあい、右腕に大きな彼氏の名前のタトゥーをいれてしまう。
それが原因で就職も出来ず、アトリエで絵を描きつつギリギリの生活をしていたところで景子と出会った。


・羽田部長(はねだ)

男性。光輔の上司。
光輔はあまり好きではないが、羽田は光輔のことを一目置いている。


・松尾(まつお)

男性。光輔の部下。
彼もまた光輔はあまり好きではない。光輔いわく「近頃の若者」の悪いところ全てを集約したような奴。


・林さん(はやし)

女性。「グッバイぐっちー」を運営する。
実業家として成功を収めており、景子は数少ない友達であり、憧れでもある。

 

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