明日何しようかな?#137

「むかブロ?」140日連続更新企画

自作小説を連載しています

温かい目で読んでください

第一~六章(#1~#116)のまとめ読みはこちら

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景子


事件のこと、タイムカプセルのこと、目まぐるしい日々がやっと落ち着いた頃。私の一番の悩みの種は彼女になった。そうすみれさんだ。

まずはちゃんと話さないといけないことがたくさんあったので直接会った。事件が解決したことはすみれさんも連日の報道で知っていた。

「大丈夫ですか?」

「私は大丈夫」

すみれさんは優しく何度も何度も「大丈夫ですか?」と私を心配してくれた。過度なくらいに。事件のニュースが流れた次の日からLINEや電話でも心配してくれていた。そのたびに私は「大丈夫だよ」と返していた。

事件のいざこざを私から話し終えたあとは、すみれさんの近況を聞く。

「なんか似顔絵とか描いてみたら?」

「ああ、なるほど」

そんな会話をしたのは、だいぶ前。

「景子さん。似顔絵はじめました」

そんな報告を受けたのは、ちょっと前。

「で、似顔絵は順調?」

「はい!」

近況報告で会ったときに元気よくそう答えてくれた。

本当は人物を描くのは、そこまで得意ではなかったらしい。すみれさんと一緒に色々と調べたが、ああいう似顔絵は時間も売りの一つ。ものの数分で描ける技術が必要らしい。

あとはイラストレーターによっては、過度にデフォルメするなどのユーモアも必要らしい。とんでもなく目が大きかったり、歯が出てたりする絵を見たことある気がする。

「私、あんなの描けないです」

まあすみれさんの性格なら、たしかに無理かもしれない。

「じゃあ一回私描いてみてよ。思ったままに」

私は被写体になる。すみれさんはササっと手を走らせる。

「出来ました」

そこには繊細なタッチで描かれた私がいた。絵のことは何一つ分からないけれど、すみれさんにしか描けないような優しさがある。

「私、こんなに笑ってた?」

「そこは私が付けたしました」

絵の中の私は笑顔が「はじける」ような表情だった。なるほど、そういうデフォルメもありかもしれない。

うん。これなら商売になるんじゃないか。そう思った私はアトリエで似顔絵の仕事もするように薦めた。すみれさんも描く時間を短縮できるように努力し続けているみたいだ。

「お客さん、どのくらい来てる?」

「週に二人くらいは来てます」

「そんなに!?」

思っていたより多い数字が出てきて、思わず声が出てしまう。圧倒的な成長としか言いようがない。食っていくには厳しいのかもしれないけれど。

ただ、お金の心配はもうしていなかった。

林さんからも連絡があった。グッバイぐっちーの代表の憧れの女性。私の事件のことを心配してくれて、電話をもらった。

「すみれさん?あの子とんでもないことになってるよ」

なんでもお客さんからの指名が絶えないらしく、数多の聞き手のなかでぶっちぎりの指名率らしい。林さんはそれを受けて、新しく「グッバイぐっちープレミアム」を設けて、ワンランク上のサービスも始めた。プレミアムサービスの聞き手の第一号がすみれさんらしい。

「愚痴の方は順調みたいね」

「はい……」

すみれさんは照れながら答える。いやらしいので深くは聞かなかったが、生活できるくらいには儲けているみたいだ。

そんな長い長い話を終えて、やっと本題に入る。右腕のタトゥー。これをどうするかを決めないといけない。

タトゥーを除去してくれるはずだった早見はこんなことになってしまったので、当然無理。じゃあどうするか?それの話し合いが会う一番の目的だった。

「消したいです。消します」

すみれさんは迷うことなく、きっぱりとそう言い切った。

まあそう言うだろうなとは予想していたので、知り合いのつてを使って新しい美容整形外科医を探した。早見のトラウマがあるので、全員が胡散臭く見えて苦しかった。それでもなんとか探し当てた人物。

「岸さん。この人なら頼りに出来そう」

女性のお医者さんで、タトゥー除去もよく受けているらしい。すみれさんの意思も確認できたので、私はすぐに連絡を取った。

とんとん拍子に話は進んだ。岸さんと直接会って、タトゥーを入れた経緯や早見の手術を受ける予定だったことなど、全てを話した。岸さんも快諾し、あっという間に手術となった。はじめからこのくらい簡単に決まれば苦労しなかったのにと思うくらい。

「このタトゥーの大きさだと……」

岸さんが叩いた電卓には、ゼロがずらっと並ぶ。……うん、三百万。何回見ても、三百万が示されていた。すみれさんも何度も指を折り数えている。

しかし、すみれさんはすぐにこう言った。

「はい、わかりました」

そしてまた違う日。この日は手術直前の説明を受ける日だった。

「お金の方は用意していただけましたか?」

岸さんは恐る恐る聞く。まあ岸さんからしたら、この人が三百万を用意できるなんてのは信用しにくいだろう。

すみれさんは手提げのバックから現金で一万円の束を取り出した。厚さは三センチくらい。すごい、本当に三百万円だ。


つづく


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【「明日何しようかな」あらすじ】

大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」

学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった

二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める

卒業式当日

景子の姉である莉子の失踪事件が起こる

事件の混乱で卒業式は中止が決定

心菜が光輔に告白することや、心菜が所属していた暗号部の最後の暗号を解くこと

それらを整理することが出来ずに、光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう

ニ〇一八年、舞台は東京へ

事件は解決せず、心菜とは光輔、景子ともに音信不通となってしまう

景子は自宅の近くで雨宿りをしたのをきっかけに雑居ビルでアトリエを開いているすみれと出会う

すみれは腕に元カレのタトゥーが入っており、まともな職につくことが出来ないでいた

光輔は会社の帰り道、車窓からたまたまアパートの廊下にいた心菜を見かける

驚いた光輔は電車を飛び降り、心菜を探す

結局、心菜は見つからなかったが、心菜を見つけたアパートを確認することに

すると、アパートの一室にはあの日失踪したはずの莉子がいた

光輔は莉子の目撃を確信にするために、頻繁に偵察を続けることにした

一方、景子は自身の人脈を使い、すみれ救済計画を進める

まずは「愚痴聞き」サービスのオペレーターの職につき、安定した収入を得られるようにする

そして、元美容整形外科医の早見の力を借り、腕のタトゥー除去も企てる

すみれの生活は徐々に明るくなっていった

そんなさなか、公園にいた心菜と偶然再会する

心菜はガンを患っており余命宣告もされている状況で、治療のために東京に来ていた

一緒にいた看護師の渚にそのことを聞いた景子は、もう一度三人で会おうと誓う

光輔は事件解決の糸口が見つからず、自身の転勤の話もあり、かなり焦っていた

失踪事件の担当であった益川の力を借り、莉子がいたアパートに突入する

しかし、そこにいたのは莉子そっくりの人物だった

事件は振り出しに戻り、消沈する光輔

そんな光輔も景子の助けもあり、心菜とは電話越しではあるが再会する

事件が起きたあの日、心菜は不審な音を聞いていたことを告白する

事件解決、そして三人揃ってタイムカプセルを開けるためにそれぞれが動き出す

 

 

【登場人物】

・福山光輔(ふくやま・こうすけ

男性。百白中学校出身。言葉使いが荒かったりと乱暴な一面もあるが、体育会系のしっかり者でもある。
中学の頃から陸上にのめり込み、大学まで続けたが思うような結果は残せず。
大学進学を機に上京したことをきっかけに東京の一般企業に就職する。


・佐々木景子(ささき・けいこ)

女性。百白中学校出身。思いやりや優しさもあるが、ときに周りに冷たくあたってしまうサバサバした性格でもある。
厳しい家庭で育ち、大学進学まで親の言いなりで生きてきたが、もっと自分らしい生き方をしようとウェブライターに就職。
光輔や益川ともたまに連絡を取るが、姉の失踪事件は半ば諦めているというのが本音。


・泉心菜(いずみ・ここな)

女性。百白中学校出身。幼馴染三人の中では一番ワガママで寂しがりやで甘えん坊。
事件が原因で光輔と景子と離れ離れになったことがあまりにショックで、人間不信になっていた。
誰にも心を開かず大人になったが、病院で出会った渚には徐々に心を開くようになる。


・佐々木莉子(ささき・りこ)

女性。景子の姉。2010年3月に謎の失踪を起こす。
失踪の前触れのような行動は見られず、ある日突然いなくなった。


・上杉史也(うえすぎ・ふみや)

男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」。学校中の生徒から愛されており、光輔、景子、心菜の三人も親しい仲だった。
心菜以外の二人とは中学卒業後も連絡をたまに取っている。


・益川正義(ますかわ・せいぎ)

男性。莉子失踪事件を担当する刑事。事件発生当時はベテランながら若々しい見た目。まだ中学生だった光輔らにも丁寧に接し、すぐに信頼を得る。
刑事人生で唯一莉子失踪事件のみが解決できておらず、なんとしてでも解決しようと情熱を注いでいる。
しかし、自身の定年も近付いていた。


・早見徹(はやみ・とおる)

男性。元天才美容整形外科医。現在はラーメン屋を営む。
記事を書くために取材したことをきっかけに、ウェブライターの景子(ネオン)と親しくなる。
景子はこの男が苦手であるが、すみれのタトゥー除去のために話しているうちに少しずつ打ち解け合っていく。


・片寄渚(かたよせ・なぎさ)

女性。心菜を担当する看護師。
おてんばで明るい性格で、周りからも愛されるキャラクター。
患者思いの性格で、なかなか心を開かない心菜にも何度もアタックし少しずつ信頼を得ていった。


・長谷川すみれ(はせがわ・すみれ)

女性。東京の小さなアトリエで絵を描いている。景子いわく「かなりの馬鹿」
猟奇的な彼氏の束縛にあい、右腕に大きな彼氏の名前のタトゥーをいれてしまう。
それが原因で就職も出来ず、アトリエで絵を描きつつギリギリの生活をしていたところで景子と出会った。


・羽田部長(はねだ)

男性。光輔の上司。
光輔はあまり好きではないが、羽田は光輔のことを一目置いている。


・松尾(まつお)

男性。光輔の部下。
彼もまた光輔はあまり好きではない。光輔いわく「近頃の若者」の悪いところ全てを集約したような奴。


・林さん(はやし)

女性。「グッバイぐっちー」を運営する。
実業家として成功を収めており、景子は数少ない友達であり、憧れでもある。

 

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