明日何しようかな?#131

「むかブロ?」140日連続更新企画

自作小説を連載しています

温かい目で読んでください

第一~六章(#1~#116)のまとめ読みはこちら

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景子


海を背景に二人の背中を見つめる。

「渚さん、お願いです。席を外してください」

光輔と心菜の目を盗んで、私はスマホのメモ帳に入力する。その画面をさりげなく、渚さんに見せる。渚さんはすぐに理解してくれた。

「ありがとうございます」

二人の声が聞こえなくなるくらい離れた場所で、私は渚さんに小声でお礼を言う。

「いえいえ」

全く打ち合わせなんかしていなかった。心菜が光輔のことが好きなことは覚えていた。でも現実は光輔は幸せな家庭を築いていて、心菜が告白する意味なんてまったく無い。

だけど、さっき三人でタイムカプセルを開けたとき、九年前の会話を思い出した。

「明日、卒業式終わったら告白しよう。決まりね?」

そう決めたのは私。あの日の私は確実にお節介で言った。もちろん、心菜の気持ちを馬鹿にするつもりなんてないし、告白する状況を作ることは本気だった。ただあの日の私は「私がこうでもしないと告白しないでしょ?」って、心菜の背中を強引に押した感じだった。

なぜそんなことをしたか。それはどちらかと言えば光輔のためだった。

中学生のとき、心菜は誰が見ても分かるくらい光輔にデレデレだった。見てるこっちが恥ずかしくなるくらい。それを心菜に指摘すると顔を真っ赤にして否定する。他の学年の友達も「まだ付き合ってないんすか」って、聞こえないところで冷やかしていたのを覚えている。

それが光輔ときたら、心菜の好意に全く気付いていなかった。私もはじめは無視してるんだと思った。他に好きな人でもいるのかなって思っていた。

「光輔、好きな人とかいないの?」

ある日、二人のときに聞いてみた。光輔は心菜とは違って顔色一つ変えなかった。

「うーん。たぶんいない」

「たぶん」ってなんだよ。そう言いたかったけれど、言える空気でも無かった。本当に光輔は「恋愛」に興味が無くて、誰かが好きなんていう感情も無いみたいだった。

悔しいけれど、光輔はわりと顔はイケている方だ。あの田舎中学だとなおさらカッコよく見える。要するにモテた。

光輔に惚れた女子たちは、なぜか必ず私に情報を求めにやってくる。

「福山先輩って、彼女とかいないんですか?」

「泉さんとは出来てるんですか?」

同じ質問を何度もされた。何度も「いない」「付き合ってない」、そして「光輔はやめときな」と返した。

それでも、心菜に先を越されないように、何人かの女子たちが光輔にアタックした。

「光輔って、心菜ちゃんに告白されたって本当?」

地元の年上の男の先輩に中三の秋くらいに言われたことがある。

「え?してないと思いますよ?なんでですか?」

「光輔本人が男とつるんでるとき「俺はまだ人生で一回しか告白されたことない」って言ってたから、てっきり心菜ちゃんなのかと思って」

私は驚いて言葉が出なかった。まず、心菜が告白しているはずがない。そして「光輔に告白して振られた」って言っている女子は私が知っているだけで三人はいる。どんな告白をしたのかは知らないが、どうやら光輔はそれすら気づいていないらしい。

さすがにどうなのって思った私は心菜がいないときに、光輔とじっくり話した。光輔の恋愛観について。

「本当に好きな人いないの?」

「うん」

「でもさ、小学校の卒業文集に将来は結婚して幸せな家庭を築きたいですって書いてたじゃん」

「ああ」

光輔は照れ笑いをしながら、こう答えた。

「結婚って今できないじゃん。日本だと男は十八にならないと結婚できないでしょ?出来るようになったらしたいなって話」

……まあ理には叶っている。

「じゃあさ、光輔、こないだ告白されたんだよね」

「なんで知ってんだよ?」

「噂で聞いた」

光輔は秘密が漏れていることに不満そうな顔をしている。気にせず私は質問し続ける。

「なんで振ったの?」

「なんで……って」

光輔は少し考えたあとに、ゆっくり答えた。

「何言ってるか分かんなかったんだよね。もぞもぞしゃべってるから「何?」って強めに聞いたら「好きです」って。それで「ありがとうね」って、手を振ったの」

「その話、光輔から聞いたことあります」

心菜と光輔が二人きりの間、私と渚さんは光輔について話していた。いじわるかなと思ったけれど「光輔って昔からあんなんですか?」と聞かれたから、まあ渚さんなら大丈夫かなと思ってべらべらと余計なことまで話してしまった。

「光輔いわく、高校生になってからちゃんとそういうのに向き合うようになったらしいです」

「そういうのって」

「男の子の友達にあることないこと吹きこまれて「ああ、高校生でも恋愛ってするんだ」って思い直すようになったって」

言いそう。光輔は言う。

「なんかちゃんと「好き」って言われないと分からないって言うでしょ?」

「言う言う」

「そういう子が周りにはいなかったんですって、光輔いわく」

好意を持ってる子はいっぱいいたんだけどな。

「それでね、さっきびっくりしたんですよ。あいつ、タイムカプセルの手紙に「結婚してますか?」って書いてたんですよ」

「聞こえてましたよ」

「ええ?中学校のときの光輔がそんなこと言うかな?って」

まあ結婚願望はあったらしいし、言ってもおかしくないけれど。

渚さんは光輔をまっすぐ見つめながら答えた。

「それ、たぶん、景子さんが結婚してるって思ったんだと思いますよ」


つづく


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【「明日何しようかな」あらすじ】

大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」

学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった

二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める

卒業式当日

景子の姉である莉子の失踪事件が起こる

事件の混乱で卒業式は中止が決定

心菜が光輔に告白することや、心菜が所属していた暗号部の最後の暗号を解くこと

それらを整理することが出来ずに、光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう

ニ〇一八年、舞台は東京へ

事件は解決せず、心菜とは光輔、景子ともに音信不通となってしまう

景子は自宅の近くで雨宿りをしたのをきっかけに雑居ビルでアトリエを開いているすみれと出会う

すみれは腕に元カレのタトゥーが入っており、まともな職につくことが出来ないでいた

光輔は会社の帰り道、車窓からたまたまアパートの廊下にいた心菜を見かける

驚いた光輔は電車を飛び降り、心菜を探す

結局、心菜は見つからなかったが、心菜を見つけたアパートを確認することに

すると、アパートの一室にはあの日失踪したはずの莉子がいた

光輔は莉子の目撃を確信にするために、頻繁に偵察を続けることにした

一方、景子は自身の人脈を使い、すみれ救済計画を進める

まずは「愚痴聞き」サービスのオペレーターの職につき、安定した収入を得られるようにする

そして、元美容整形外科医の早見の力を借り、腕のタトゥー除去も企てる

すみれの生活は徐々に明るくなっていった

そんなさなか、公園にいた心菜と偶然再会する

心菜はガンを患っており余命宣告もされている状況で、治療のために東京に来ていた

一緒にいた看護師の渚にそのことを聞いた景子は、もう一度三人で会おうと誓う

光輔は事件解決の糸口が見つからず、自身の転勤の話もあり、かなり焦っていた

失踪事件の担当であった益川の力を借り、莉子がいたアパートに突入する

しかし、そこにいたのは莉子そっくりの人物だった

事件は振り出しに戻り、消沈する光輔

そんな光輔も景子の助けもあり、心菜とは電話越しではあるが再会する

事件が起きたあの日、心菜は不審な音を聞いていたことを告白する

事件解決、そして三人揃ってタイムカプセルを開けるためにそれぞれが動き出す

 

 

【登場人物】

・福山光輔(ふくやま・こうすけ

男性。百白中学校出身。言葉使いが荒かったりと乱暴な一面もあるが、体育会系のしっかり者でもある。
中学の頃から陸上にのめり込み、大学まで続けたが思うような結果は残せず。
大学進学を機に上京したことをきっかけに東京の一般企業に就職する。


・佐々木景子(ささき・けいこ)

女性。百白中学校出身。思いやりや優しさもあるが、ときに周りに冷たくあたってしまうサバサバした性格でもある。
厳しい家庭で育ち、大学進学まで親の言いなりで生きてきたが、もっと自分らしい生き方をしようとウェブライターに就職。
光輔や益川ともたまに連絡を取るが、姉の失踪事件は半ば諦めているというのが本音。


・泉心菜(いずみ・ここな)

女性。百白中学校出身。幼馴染三人の中では一番ワガママで寂しがりやで甘えん坊。
事件が原因で光輔と景子と離れ離れになったことがあまりにショックで、人間不信になっていた。
誰にも心を開かず大人になったが、病院で出会った渚には徐々に心を開くようになる。


・佐々木莉子(ささき・りこ)

女性。景子の姉。2010年3月に謎の失踪を起こす。
失踪の前触れのような行動は見られず、ある日突然いなくなった。


・上杉史也(うえすぎ・ふみや)

男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」。学校中の生徒から愛されており、光輔、景子、心菜の三人も親しい仲だった。
心菜以外の二人とは中学卒業後も連絡をたまに取っている。


・益川正義(ますかわ・せいぎ)

男性。莉子失踪事件を担当する刑事。事件発生当時はベテランながら若々しい見た目。まだ中学生だった光輔らにも丁寧に接し、すぐに信頼を得る。
刑事人生で唯一莉子失踪事件のみが解決できておらず、なんとしてでも解決しようと情熱を注いでいる。
しかし、自身の定年も近付いていた。


・早見徹(はやみ・とおる)

男性。元天才美容整形外科医。現在はラーメン屋を営む。
記事を書くために取材したことをきっかけに、ウェブライターの景子(ネオン)と親しくなる。
景子はこの男が苦手であるが、すみれのタトゥー除去のために話しているうちに少しずつ打ち解け合っていく。


・片寄渚(かたよせ・なぎさ)

女性。心菜を担当する看護師。
おてんばで明るい性格で、周りからも愛されるキャラクター。
患者思いの性格で、なかなか心を開かない心菜にも何度もアタックし少しずつ信頼を得ていった。


・長谷川すみれ(はせがわ・すみれ)

女性。東京の小さなアトリエで絵を描いている。景子いわく「かなりの馬鹿」
猟奇的な彼氏の束縛にあい、右腕に大きな彼氏の名前のタトゥーをいれてしまう。
それが原因で就職も出来ず、アトリエで絵を描きつつギリギリの生活をしていたところで景子と出会った。


・羽田部長(はねだ)

男性。光輔の上司。
光輔はあまり好きではないが、羽田は光輔のことを一目置いている。


・松尾(まつお)

男性。光輔の部下。
彼もまた光輔はあまり好きではない。光輔いわく「近頃の若者」の悪いところ全てを集約したような奴。


・林さん(はやし)

女性。「グッバイぐっちー」を運営する。
実業家として成功を収めており、景子は数少ない友達であり、憧れでもある。

 

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