明日何しようかな?#132

「むかブロ?」140日連続更新企画

自作小説を連載しています

温かい目で読んでください

第一~六章(#1~#116)のまとめ読みはこちら

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景子


「え?」

「光輔に付き合ってって迫ったのも、結婚してって言ったのも私なんです。あれでも少しはマシになったみたいで、彼氏らしい振る舞いとかしてくれたんですけど……、でも全然進展する気配が無くて」

光輔と付き合うだけでも、大したものだと感じてしまう。

「それで「結婚とか興味ないの?」って聞いたら「いつかはしたい」って。だったら、私としよって言ったんです」

強い。

「それでそれぞれの両親とかに報告に行ったんですけど、光輔は両親の次に景子さんに電話してたんです」

「え?」

「そのときは出なくて、光輔は落ち込んでたんですよ。私、てっきり元カノかな?って驚いて聞いてみたら「いいや全然」って」

「…………」

「それでも聞いてみたら、村の大事な友達だって言うんです。俺に一番最初に恋愛を教えてくれた友達だから、ちゃんと報告しとかなきゃって」

恋愛を教えたつもりはないけれど。

「だって、その恋バナしたときに景子さんキレたんでしょ?」

渚さんは笑っている。キレた、つもりではなかったけど。

「……それで「ありがとうね」って、手を振ったの」

そう聞いた瞬間、私は光輔につい口が滑ってしまった。

「最低」

「え?」

「最低だよ。人の気持ちも分からないで」

……いや、キレてるな。

なんか心菜のことを思うとそう言わずにいられなかった、気がする。

「光輔は「あのとき景子が女子の気持ちを教えてくれたんだ」って、少しだけ自分の行動を見つめ直すようになったって」

「光輔が?」

「はい。あとからじわじわとその言葉が効いたみたいです」

でも、心菜の気持ちには気づけなかったのか。

「手紙を書く時も三人だったんですよね」

「はい」

「そのとき景子さん怒ってませんでした?」

たしか心菜と光輔が手紙を書く書かないで言い争いをしていて、それを止めたんだっけ。私としては怒っているつもりはなかったんだけど、そう見えたのかもしれない。

「光輔、景子さんには弱いんですよ。さっきから新幹線とか乗ってるときもそう。景子さんの機嫌をよくうかがってて……」

そんなつもりは……、さっきから「つもりはない」しか思ってないな。

「手紙を書いたときに景子さんが不機嫌だったから、十年後、景子さんが喜ぶことって考えて咄嗟に「結婚してますか?」って書いたんだと思いますよ」

「本当かな?」

「たぶんそうです。景子さんに電話で報告するときも「景子より先に結婚するなんて」ってつぶやいてましたし」

失礼なやつだ。悪気がないから余計に。

「変なやつ」

私は多少の怒りと共に言葉を吐く。

「ふふ」

渚さんは吹き出す。

「いじわるですよね、景子さんも。光輔にも心菜ちゃんにもちょっと怒ってるんでしょ?」

「…………」

「だって、光輔が心菜ちゃんのこと振るなんて当たり前だし、それが分かってて告白させてるじゃないですか」

そんな、つもり、は、ない……。

「あ、ごめんなさい、私言い過ぎました……」

渚さんは私の表情が少しムッとしたのを見て、言葉を止める。

「……いやでも」

腹は立っているのは事実だけど、渚さんの言う通りだった。

私は光輔みたいに恋愛が分からなくなるくらい没頭できるものがなかった。勉強は得意だったけど、それは三人の中での話。あんなに毎日日が暮れるまで走っている光輔がどこか羨ましかった。

私は心菜みたいに誰かを好きになることもなかった。キョトンとグラウンドの光輔を見つめる心菜を見て、口ではからかっていたけれど、心では羨ましがっていたのかもしれない。

あの日卒業式があって、心菜が光輔に告白していたら……。

告白は成功してほしいと思っていた。つもりではない、本気で。でも、光輔がOKするはずがないことも分かっていた。それでも心菜の背中を押した理由……

「嫉妬……してたのかな」

最低なのは私だったのかもしれない。

心菜のことも光輔のこともどちらも大切な友達だった。それは絶対。二人の両方の気持ちを汲み取っていくうちに、私と二人との距離が空いていく気がしていた。昔はもっと近くの友達だったのになって。それを表に出すのもプライドが邪魔した。

光輔の口がパクパク動いている。九年前に見たはずの光景。もし一人で見守っていたらどんな感情だったんだろう。

九年経って良かったこと。それは私の本心を教えてくれる人が隣にいることだ。

くちびるを軽く噛みしめる私を見て、渚さんは口を開く。

「ごめんなさい、私、つい……」

「渚さん」

「はい?」

「ちゃんと私の友達を見守ってくださいね。ずっと。心菜も。光輔も」

それが出来るのはもう今は私より渚さんだ。

「分かりました」

「もう終わったみたい」

ベンチに座った二人は和やかに笑っている。

これで良かったのかな。二人の表情を見て光輔が心菜を振ったことが分かってしまうのが、今は辛かった。


つづく


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【「明日何しようかな」あらすじ】

大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」

学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった

二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める

卒業式当日

景子の姉である莉子の失踪事件が起こる

事件の混乱で卒業式は中止が決定

心菜が光輔に告白することや、心菜が所属していた暗号部の最後の暗号を解くこと

それらを整理することが出来ずに、光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう

ニ〇一八年、舞台は東京へ

事件は解決せず、心菜とは光輔、景子ともに音信不通となってしまう

景子は自宅の近くで雨宿りをしたのをきっかけに雑居ビルでアトリエを開いているすみれと出会う

すみれは腕に元カレのタトゥーが入っており、まともな職につくことが出来ないでいた

光輔は会社の帰り道、車窓からたまたまアパートの廊下にいた心菜を見かける

驚いた光輔は電車を飛び降り、心菜を探す

結局、心菜は見つからなかったが、心菜を見つけたアパートを確認することに

すると、アパートの一室にはあの日失踪したはずの莉子がいた

光輔は莉子の目撃を確信にするために、頻繁に偵察を続けることにした

一方、景子は自身の人脈を使い、すみれ救済計画を進める

まずは「愚痴聞き」サービスのオペレーターの職につき、安定した収入を得られるようにする

そして、元美容整形外科医の早見の力を借り、腕のタトゥー除去も企てる

すみれの生活は徐々に明るくなっていった

そんなさなか、公園にいた心菜と偶然再会する

心菜はガンを患っており余命宣告もされている状況で、治療のために東京に来ていた

一緒にいた看護師の渚にそのことを聞いた景子は、もう一度三人で会おうと誓う

光輔は事件解決の糸口が見つからず、自身の転勤の話もあり、かなり焦っていた

失踪事件の担当であった益川の力を借り、莉子がいたアパートに突入する

しかし、そこにいたのは莉子そっくりの人物だった

事件は振り出しに戻り、消沈する光輔

そんな光輔も景子の助けもあり、心菜とは電話越しではあるが再会する

事件が起きたあの日、心菜は不審な音を聞いていたことを告白する

事件解決、そして三人揃ってタイムカプセルを開けるためにそれぞれが動き出す

 

 

【登場人物】

・福山光輔(ふくやま・こうすけ

男性。百白中学校出身。言葉使いが荒かったりと乱暴な一面もあるが、体育会系のしっかり者でもある。
中学の頃から陸上にのめり込み、大学まで続けたが思うような結果は残せず。
大学進学を機に上京したことをきっかけに東京の一般企業に就職する。


・佐々木景子(ささき・けいこ)

女性。百白中学校出身。思いやりや優しさもあるが、ときに周りに冷たくあたってしまうサバサバした性格でもある。
厳しい家庭で育ち、大学進学まで親の言いなりで生きてきたが、もっと自分らしい生き方をしようとウェブライターに就職。
光輔や益川ともたまに連絡を取るが、姉の失踪事件は半ば諦めているというのが本音。


・泉心菜(いずみ・ここな)

女性。百白中学校出身。幼馴染三人の中では一番ワガママで寂しがりやで甘えん坊。
事件が原因で光輔と景子と離れ離れになったことがあまりにショックで、人間不信になっていた。
誰にも心を開かず大人になったが、病院で出会った渚には徐々に心を開くようになる。


・佐々木莉子(ささき・りこ)

女性。景子の姉。2010年3月に謎の失踪を起こす。
失踪の前触れのような行動は見られず、ある日突然いなくなった。


・上杉史也(うえすぎ・ふみや)

男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」。学校中の生徒から愛されており、光輔、景子、心菜の三人も親しい仲だった。
心菜以外の二人とは中学卒業後も連絡をたまに取っている。


・益川正義(ますかわ・せいぎ)

男性。莉子失踪事件を担当する刑事。事件発生当時はベテランながら若々しい見た目。まだ中学生だった光輔らにも丁寧に接し、すぐに信頼を得る。
刑事人生で唯一莉子失踪事件のみが解決できておらず、なんとしてでも解決しようと情熱を注いでいる。
しかし、自身の定年も近付いていた。


・早見徹(はやみ・とおる)

男性。元天才美容整形外科医。現在はラーメン屋を営む。
記事を書くために取材したことをきっかけに、ウェブライターの景子(ネオン)と親しくなる。
景子はこの男が苦手であるが、すみれのタトゥー除去のために話しているうちに少しずつ打ち解け合っていく。


・片寄渚(かたよせ・なぎさ)

女性。心菜を担当する看護師。
おてんばで明るい性格で、周りからも愛されるキャラクター。
患者思いの性格で、なかなか心を開かない心菜にも何度もアタックし少しずつ信頼を得ていった。


・長谷川すみれ(はせがわ・すみれ)

女性。東京の小さなアトリエで絵を描いている。景子いわく「かなりの馬鹿」
猟奇的な彼氏の束縛にあい、右腕に大きな彼氏の名前のタトゥーをいれてしまう。
それが原因で就職も出来ず、アトリエで絵を描きつつギリギリの生活をしていたところで景子と出会った。


・羽田部長(はねだ)

男性。光輔の上司。
光輔はあまり好きではないが、羽田は光輔のことを一目置いている。


・松尾(まつお)

男性。光輔の部下。
彼もまた光輔はあまり好きではない。光輔いわく「近頃の若者」の悪いところ全てを集約したような奴。


・林さん(はやし)

女性。「グッバイぐっちー」を運営する。
実業家として成功を収めており、景子は数少ない友達であり、憧れでもある。

 

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