明日何しようかな?#59

「むかブロ?」140日連続更新企画

自作小説を連載しています

温かい目で読んでください

第一~三章(#1~#58)のまとめ読みはこちら

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光輔


「あのアパートの真ん中の部屋に莉子ちゃんらしき人がいたと」

あごに手をやりながら、益川さんはつぶやいた。

「僕が見たのが間違いなければ、ですけどね」

今日は二月十二日。午前十時。いつもなら会社にいるはずの時間だが、今日は有給休暇を取った。

理由は簡単だ。莉子ちゃんを見たアパートの部屋に乗り込む。それだけ。

「姿を見たのは一度だけ……と」

「はい」

こんな俺のあやふやな証言でも、益川さんは時間を作って来てくれた。久々に顔を見た。かなり老け込んでいるのが否めないのが悲しい。初めて会ったときは若々しいおじさんだったのに。

警察の力を使えば事情聴取は可能だ、と益川さんは力強く言った。本当かどうかは分からない。だけど、そんなことはどうでもよかった。

益川さんは今も大阪府警で現役の刑事をしている。東京の警察官を動かすことも可能だったらしいが、益川さんは即答で自分が一緒に乗り込むことを決めてくれた。

今はコンビニ側から二人で部屋のほうを覗いている。カーテンは閉まっていて、中に人がいるかは分からない。

一度だけ平日の昼にいつものイートインで偵察をしていたことがあったのだが、そのとき人影があったのを確認した。だから、平日昼なら家にいるのでは?と思い、今こうして乗り込む直前まで来ている。

「僕はね、これまで携わった事件で莉子ちゃんの失踪事件だけが解決出来ていないんだ」

益川さんは俺に話しかけていないような口調で話す。空に向かって、いや、自分に向かって話しかけているみたいだ。

「だから、君たちとは連絡を取って、絶対に事件を解決しようとしてきた。あの失踪事件を一度も忘れたことはない」

あとから聞いた話だと、益川さんも心菜とは連絡が取れていないらしい。「君たち」とは俺と景子のことだ。

「本当はもっとちゃんとした証拠を掴んで連絡したかったんです」

俺の言葉を益川さんは手で遮る。

「分かってる。僕も定年するし、君も何か色々あるんだろう」

すごい。転勤の話なんて一言も言ってないのに。これが刑事の勘なんだろうか。

益川さんはやっと、俺の方を向く。俺に向かって話しかける。

「これがラストチャンスだ。行こう」

「はい」

震える声を抑えながら、強く返事をした。

二人でアパートの入り口の方へ回る。

階段を上がり、二○三号室の前まで来る。

前、自分が偵察したときにも確認したが、やはりインターホンはない。

「行くぞ」

俺はうなずく。

益川さんは木製の扉を三回ノックした。

「はい」

中から女性の声が聞こえる。

いる。人がいる。一気に緊張が高まる。

女性は警戒することもなく扉を開けた。

そこにいた女性は莉子ちゃん…………

「なんでしょう?」

ではなかった。

一瞬、やっぱり莉子ちゃんだと思った。顔立ちや背丈など完璧なまでに似ている。

でも違う。口元に小さなほくろがある。しゃべると八重歯が見える。

俺が中学生のときに見た莉子ちゃんとは微かに違う。

そして、目の前にして分かる。雰囲気というかオーラがそう感じさせるのだろうか。

この人は別人だ。


つづく


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【「明日何しようかな」あらすじ】

大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」

学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった

二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める

卒業式当日

景子の姉である莉子の失踪事件が起こる

事件の混乱で卒業式は中止が決定

心菜が光輔に告白することや、心菜が所属していた暗号部の最後の暗号を解くこと

それらを整理することが出来ずに、光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう

ニ〇一八年、舞台は東京へ

事件は解決せず、心菜とは光輔、景子ともに音信不通となってしまう

景子は自宅の近くで雨宿りをしたのをきっかけに雑居ビルでアトリエを開いているすみれと出会う

すみれは腕に元カレのタトゥーが入っており、まともな職につくことが出来ないでいた

光輔は会社の帰り道、車窓からたまたまアパートの廊下にいた心菜を見かける

驚いた光輔は電車を飛び降り、心菜を探す

結局、心菜は見つからなかったが、心菜を見つけたアパートを確認することに

すると、アパートの一室にはあの日失踪したはずの莉子がいた

 

【登場人物】

・福山光輔(ふくやま・こうすけ

男性。百白中学校出身。頼りがいのあるしっかりもの。


・佐々木景子(ささき・けいこ)

女性。百白中学校出身。さばさばした性格。


・泉心菜(いずみ・ここな)

女性。百白中学校出身。寂しがりやの甘えん坊。


・佐々木莉子(ささき・りこ)

女性。景子の姉。2010年3月に失踪する。


・上杉史也(うえすぎ・ふみや)

男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」。


・益川正義(ますかわ・せいぎ)

男性。莉子失踪事件を担当する刑事。


・早見徹(はやみ・とおる)

男性。元天才美容整形外科医。現在はラーメン屋を営む。


・片寄渚(かたよせ・なぎさ)

女性。心菜の味方をする。


・長谷川すみれ(はせがわ・すみれ)

女性。東京の小さなアトリエで絵を描いている。


・羽田部長(はねだ)

男性。光輔の上司。


・松尾(まつお)

男性。光輔の部下。


・林さん(はやし)

女性。「グッバイぐっちー」を運営する。

 

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