明日何しようかな?#126

「むかブロ?」140日連続更新企画

自作小説を連載しています

温かい目で読んでください

第一~六章(#1~#116)のまとめ読みはこちら

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景子


私は中身を取り出し、手紙を読む。

「みんな、今楽しいですか?」

私は読み終わり二人の顔を見ると、二人とも満面の笑みがこぼれていた。心菜の手紙のときとは大違いだ。

「楽しい?」

私が聞く。

「うん」

「うん」

二人は大きくうなずく。

「私も」

分からないこと、どうしようもないこと、悲しいこと、辛いこと。たくさんあるけど、今、この瞬間は楽しい。それだけははっきりと言える。

「さすが景子。いい手紙だね」

心菜が雑に褒める。

「何よそれ」

「いやなんか……、ちゃんと三人を笑顔にできたの景子だけなんだもん」

それは褒めてるんだろうか。

「手紙書いたこと後悔してたけど、景子のおかげでいい感じになった」

光輔も同調する。後悔してたんだ。

この手紙、どんな気持ちで書いたんだっけな。それすらも覚えていない。「楽しいですか?」なんて無難も無難な内容だから、きっとそこまで今日のこと考えずに書いたんだろうな。結果、三人の中で一番まともだったけど。

今の三人の置かれた状況とか、再会までの経緯とか考えると「楽しいですか?」って質問は深く感じてしまう。でも実際はそんな深いこと考えてないと思う。「めんどくさいな」ってぴゃぴゃって書いたような気がする。覚えてないからなんとも言えないけど。

だいたい三人でいればそりゃ楽しいだろ、とも思う。お姉ちゃんが失踪する前だから、書いたときは、これからも三人で仲良しのままでいるって思ってたんだろうな。それとも、なんとなく三人が離れ離れになる予感でもしてたのかな……?

光輔は深く掘った穴を必死に戻している。まだ寒いのに額には汗をかいている。そんな馬鹿馬鹿しい姿を、心菜はしゃがんで光輔をじっと見つめている。

そんな二人を見て、やっぱりそこまで真剣に書いた手紙じゃないなって確信した。結果的にいい空気になったけど、たぶん狙ってたわけじゃない。十年後の自分に手紙なんて普通に考えて恥ずかしい。それは今も昔も変わらない。

「よし、山登るか」

タイムカプセルを掘り返した穴を埋めた光輔が言う。そこだけ土の色が違うが、さっき来たときと同じ地面だ。

さっき新幹線の中で決めたプランがある。タイムカプセルを掘り返して、山に登る。本当は中学生のときみたいに日が沈む景色を見たかったけれど、時間的にそれは無理そう。だけど、あの誰も使っていない展望台はまだあるのかは三人とも気になっていた。

「渚、大丈夫か?」

渚さんは走ってこっちへやってくる。

「大丈夫」

「じゃあさっきの予定通りで」

四人でゆっくりと山に向かって歩き始めた。

途中、光輔は実家に寄り、スコップなどを戻す。自分たちの手荷物だけになった四人は山を目指した。

歩きながら、みんな口々に渚さんに話しかける。私と心菜は「大丈夫?」と心配し、光輔は「もうたぶん大丈夫だよ」と女子三人をよそに先頭を歩いていた。

「本当に大丈夫だから」

「なんで泣いてたの?」

「心菜ちゃんが泣いてるの見て、なんか私もジーンと来ちゃって」

私は心菜の顔を見る。心菜は恥ずかしそうにしている。いつの間に泣いてたんだろ。

「友達っていいね。私、そんな泣くくらい仲いい友達いないもん」

「おいやめろ渚。こっちまで恥ずかしくなるからさ」

光輔は前を向いたまま言う。実際、私も恥ずかしかったし、心菜はもう顔が真っ赤だった。光輔の顔もたぶん赤いと思う。

展望台までの道の景色はそこまで変わっている様子はなかった。ただ、中学生のときよりも長く感じたのは気のせいだろうか。いや、渚さんのせいかもしれない。

「見えたぞ」

光輔がこっちを向く。その光輔のうしろには、懐かしい光景が広がっていた。


つづく


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【「明日何しようかな」あらすじ】

大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」

学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった

二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める

卒業式当日

景子の姉である莉子の失踪事件が起こる

事件の混乱で卒業式は中止が決定

心菜が光輔に告白することや、心菜が所属していた暗号部の最後の暗号を解くこと

それらを整理することが出来ずに、光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう

ニ〇一八年、舞台は東京へ

事件は解決せず、心菜とは光輔、景子ともに音信不通となってしまう

景子は自宅の近くで雨宿りをしたのをきっかけに雑居ビルでアトリエを開いているすみれと出会う

すみれは腕に元カレのタトゥーが入っており、まともな職につくことが出来ないでいた

光輔は会社の帰り道、車窓からたまたまアパートの廊下にいた心菜を見かける

驚いた光輔は電車を飛び降り、心菜を探す

結局、心菜は見つからなかったが、心菜を見つけたアパートを確認することに

すると、アパートの一室にはあの日失踪したはずの莉子がいた

光輔は莉子の目撃を確信にするために、頻繁に偵察を続けることにした

一方、景子は自身の人脈を使い、すみれ救済計画を進める

まずは「愚痴聞き」サービスのオペレーターの職につき、安定した収入を得られるようにする

そして、元美容整形外科医の早見の力を借り、腕のタトゥー除去も企てる

すみれの生活は徐々に明るくなっていった

そんなさなか、公園にいた心菜と偶然再会する

心菜はガンを患っており余命宣告もされている状況で、治療のために東京に来ていた

一緒にいた看護師の渚にそのことを聞いた景子は、もう一度三人で会おうと誓う

光輔は事件解決の糸口が見つからず、自身の転勤の話もあり、かなり焦っていた

失踪事件の担当であった益川の力を借り、莉子がいたアパートに突入する

しかし、そこにいたのは莉子そっくりの人物だった

事件は振り出しに戻り、消沈する光輔

そんな光輔も景子の助けもあり、心菜とは電話越しではあるが再会する

事件が起きたあの日、心菜は不審な音を聞いていたことを告白する

事件解決、そして三人揃ってタイムカプセルを開けるためにそれぞれが動き出す

 

 

【登場人物】

・福山光輔(ふくやま・こうすけ

男性。百白中学校出身。言葉使いが荒かったりと乱暴な一面もあるが、体育会系のしっかり者でもある。
中学の頃から陸上にのめり込み、大学まで続けたが思うような結果は残せず。
大学進学を機に上京したことをきっかけに東京の一般企業に就職する。


・佐々木景子(ささき・けいこ)

女性。百白中学校出身。思いやりや優しさもあるが、ときに周りに冷たくあたってしまうサバサバした性格でもある。
厳しい家庭で育ち、大学進学まで親の言いなりで生きてきたが、もっと自分らしい生き方をしようとウェブライターに就職。
光輔や益川ともたまに連絡を取るが、姉の失踪事件は半ば諦めているというのが本音。


・泉心菜(いずみ・ここな)

女性。百白中学校出身。幼馴染三人の中では一番ワガママで寂しがりやで甘えん坊。
事件が原因で光輔と景子と離れ離れになったことがあまりにショックで、人間不信になっていた。
誰にも心を開かず大人になったが、病院で出会った渚には徐々に心を開くようになる。


・佐々木莉子(ささき・りこ)

女性。景子の姉。2010年3月に謎の失踪を起こす。
失踪の前触れのような行動は見られず、ある日突然いなくなった。


・上杉史也(うえすぎ・ふみや)

男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」。学校中の生徒から愛されており、光輔、景子、心菜の三人も親しい仲だった。
心菜以外の二人とは中学卒業後も連絡をたまに取っている。


・益川正義(ますかわ・せいぎ)

男性。莉子失踪事件を担当する刑事。事件発生当時はベテランながら若々しい見た目。まだ中学生だった光輔らにも丁寧に接し、すぐに信頼を得る。
刑事人生で唯一莉子失踪事件のみが解決できておらず、なんとしてでも解決しようと情熱を注いでいる。
しかし、自身の定年も近付いていた。


・早見徹(はやみ・とおる)

男性。元天才美容整形外科医。現在はラーメン屋を営む。
記事を書くために取材したことをきっかけに、ウェブライターの景子(ネオン)と親しくなる。
景子はこの男が苦手であるが、すみれのタトゥー除去のために話しているうちに少しずつ打ち解け合っていく。


・片寄渚(かたよせ・なぎさ)

女性。心菜を担当する看護師。
おてんばで明るい性格で、周りからも愛されるキャラクター。
患者思いの性格で、なかなか心を開かない心菜にも何度もアタックし少しずつ信頼を得ていった。


・長谷川すみれ(はせがわ・すみれ)

女性。東京の小さなアトリエで絵を描いている。景子いわく「かなりの馬鹿」
猟奇的な彼氏の束縛にあい、右腕に大きな彼氏の名前のタトゥーをいれてしまう。
それが原因で就職も出来ず、アトリエで絵を描きつつギリギリの生活をしていたところで景子と出会った。


・羽田部長(はねだ)

男性。光輔の上司。
光輔はあまり好きではないが、羽田は光輔のことを一目置いている。


・松尾(まつお)

男性。光輔の部下。
彼もまた光輔はあまり好きではない。光輔いわく「近頃の若者」の悪いところ全てを集約したような奴。


・林さん(はやし)

女性。「グッバイぐっちー」を運営する。
実業家として成功を収めており、景子は数少ない友達であり、憧れでもある。

 

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