明日何しようかな?#127

「むかブロ?」140日連続更新企画

自作小説を連載しています

温かい目で読んでください

第一~六章(#1~#116)のまとめ読みはこちら

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心菜


四人で山を登りながら、私は後悔していた。

さっき手紙を読み合ったとき、また私は嘘をついてしまった。

「心菜まさか、自分が何書いたか覚えてんじゃないの?」

「覚えてないけど、でも、なんか変なこと書いてそうだもん」

タイムカプセルを埋めたことは覚えていた。だけど、思い出のものを埋めたことは全く覚えていなかった。たまごっちを見て「そういえばこんなものも埋めたっけ」とやっとなったくらいだ。

理由ははっきりしている。もう一つ埋めた手紙。それがくっきりと記憶に残っていたからだ。

光輔が封筒と便箋を持ってきて「十年後の自分に手紙を書こう」と言い出した。それを私は拒否した。手紙なんて書けないし、そんな恥ずかしいことしたくないのが理由だったと思う。で、景子が間をとってくれて、「一言、質問を書こう」に落ち着いた。

それでも私は未来の自分への質問なんて思いつかなくて苦労した。光輔は本当は手紙が書きたかった不満がにじみ出ていて、渋々ペンを走らせていた。景子はどうしてるのかな?と見たときにはもう書き終わっていた。

私だけがまだ書けてない。どうしよう。何も思いつかない。悩みに悩んで出た結論はこれだった。

「みんなは大人になれてますか?」

卒業と同時に私たちは離れ離れになる。今までみたいに毎日一緒にいることが無くなる。それが私はイヤでイヤで仕方が無かった。不安しかなかった。この二人のおかげで私は毎日楽しく過ごせていた。

それなのに二人は特に「寂しい」とか「悲しい」と口に出すこともなく、そういう素振りも見せなかった。いつもみたいに軽く手を振って別れて、特に「さよなら」も言えずに別れるのかなと思うと怖かった。

「私だけが子どもなんだ。二人はもう大人なんだ。だから寂しくないんだ」

「みんなは」と手紙には書いた。でも、正直自分に向けてって意味が大きかった。二人と別れて、十年間で私は大人になれていますか?周りに頼らずに生きていますか?自分への期待も含めて、そう綴った。

ずっとずっと心の中でその質問だけが残っていた。忘れたくても忘れられない。まるで呪いのように、時々あの手紙を思い出した。

結果「さよなら」も言ってもらえずに別れた。そのショックはあまりに大きかったし、立ち直るのにかなり時間がかかった。いや、まだ立ち直れていないのかもしれない。

ちょっとだけ頑張ろうともした。高校でクラスの人と会話をしたこともあった。

「心菜ちゃんって、中学校どこ?」

「中学のとき部活やってた?」

でもみんな聞いてくるのは過去のことばかり。いや、それが普通なんだけど。そのたびに私は心を閉ざしてしまう。

みんなはいいな。地元に帰れば、昔の友達がいて。

昔は昔。今は今。この高校の同じクラスの人たちだって、それぞれ過去があって、また違う友達を作ろうとしている。私だっていつまでもくよくよしちゃダメだ。そう言い聞かせると、心の中で思い出す。

「みんなは大人になれてますか?」

これを思い出すってことは、普通は「よし大人になろう」って前向きになれずはずなのに。私がこれを呪いと呼んでいるのは、逆だからだ。

この言葉を思い出すと、二人の顔が思い浮かぶ。中学の思い出がよみがえる。あの二人と一緒にいる以上の時間なんて無くて。だけどあの二人とはもう会えなくて。あの二人と話すと子どもに戻ってしまうし、甘えてしまう。ずっとそんなんで生きてきたからバチが当たって。「バイバイ」も言えず別れて。自分で一人で生きるって決めたんだから頑張らなきゃって言い聞かせて。それでも周りは「中学どこ?」って聞いてくる。

苦しい。それが私の九年間。大人になんてちっともなれやしなかった。


つづく


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【「明日何しようかな」あらすじ】

大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」

学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった

二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める

卒業式当日

景子の姉である莉子の失踪事件が起こる

事件の混乱で卒業式は中止が決定

心菜が光輔に告白することや、心菜が所属していた暗号部の最後の暗号を解くこと

それらを整理することが出来ずに、光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう

ニ〇一八年、舞台は東京へ

事件は解決せず、心菜とは光輔、景子ともに音信不通となってしまう

景子は自宅の近くで雨宿りをしたのをきっかけに雑居ビルでアトリエを開いているすみれと出会う

すみれは腕に元カレのタトゥーが入っており、まともな職につくことが出来ないでいた

光輔は会社の帰り道、車窓からたまたまアパートの廊下にいた心菜を見かける

驚いた光輔は電車を飛び降り、心菜を探す

結局、心菜は見つからなかったが、心菜を見つけたアパートを確認することに

すると、アパートの一室にはあの日失踪したはずの莉子がいた

光輔は莉子の目撃を確信にするために、頻繁に偵察を続けることにした

一方、景子は自身の人脈を使い、すみれ救済計画を進める

まずは「愚痴聞き」サービスのオペレーターの職につき、安定した収入を得られるようにする

そして、元美容整形外科医の早見の力を借り、腕のタトゥー除去も企てる

すみれの生活は徐々に明るくなっていった

そんなさなか、公園にいた心菜と偶然再会する

心菜はガンを患っており余命宣告もされている状況で、治療のために東京に来ていた

一緒にいた看護師の渚にそのことを聞いた景子は、もう一度三人で会おうと誓う

光輔は事件解決の糸口が見つからず、自身の転勤の話もあり、かなり焦っていた

失踪事件の担当であった益川の力を借り、莉子がいたアパートに突入する

しかし、そこにいたのは莉子そっくりの人物だった

事件は振り出しに戻り、消沈する光輔

そんな光輔も景子の助けもあり、心菜とは電話越しではあるが再会する

事件が起きたあの日、心菜は不審な音を聞いていたことを告白する

事件解決、そして三人揃ってタイムカプセルを開けるためにそれぞれが動き出す

 

 

【登場人物】

・福山光輔(ふくやま・こうすけ

男性。百白中学校出身。言葉使いが荒かったりと乱暴な一面もあるが、体育会系のしっかり者でもある。
中学の頃から陸上にのめり込み、大学まで続けたが思うような結果は残せず。
大学進学を機に上京したことをきっかけに東京の一般企業に就職する。


・佐々木景子(ささき・けいこ)

女性。百白中学校出身。思いやりや優しさもあるが、ときに周りに冷たくあたってしまうサバサバした性格でもある。
厳しい家庭で育ち、大学進学まで親の言いなりで生きてきたが、もっと自分らしい生き方をしようとウェブライターに就職。
光輔や益川ともたまに連絡を取るが、姉の失踪事件は半ば諦めているというのが本音。


・泉心菜(いずみ・ここな)

女性。百白中学校出身。幼馴染三人の中では一番ワガママで寂しがりやで甘えん坊。
事件が原因で光輔と景子と離れ離れになったことがあまりにショックで、人間不信になっていた。
誰にも心を開かず大人になったが、病院で出会った渚には徐々に心を開くようになる。


・佐々木莉子(ささき・りこ)

女性。景子の姉。2010年3月に謎の失踪を起こす。
失踪の前触れのような行動は見られず、ある日突然いなくなった。


・上杉史也(うえすぎ・ふみや)

男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」。学校中の生徒から愛されており、光輔、景子、心菜の三人も親しい仲だった。
心菜以外の二人とは中学卒業後も連絡をたまに取っている。


・益川正義(ますかわ・せいぎ)

男性。莉子失踪事件を担当する刑事。事件発生当時はベテランながら若々しい見た目。まだ中学生だった光輔らにも丁寧に接し、すぐに信頼を得る。
刑事人生で唯一莉子失踪事件のみが解決できておらず、なんとしてでも解決しようと情熱を注いでいる。
しかし、自身の定年も近付いていた。


・早見徹(はやみ・とおる)

男性。元天才美容整形外科医。現在はラーメン屋を営む。
記事を書くために取材したことをきっかけに、ウェブライターの景子(ネオン)と親しくなる。
景子はこの男が苦手であるが、すみれのタトゥー除去のために話しているうちに少しずつ打ち解け合っていく。


・片寄渚(かたよせ・なぎさ)

女性。心菜を担当する看護師。
おてんばで明るい性格で、周りからも愛されるキャラクター。
患者思いの性格で、なかなか心を開かない心菜にも何度もアタックし少しずつ信頼を得ていった。


・長谷川すみれ(はせがわ・すみれ)

女性。東京の小さなアトリエで絵を描いている。景子いわく「かなりの馬鹿」
猟奇的な彼氏の束縛にあい、右腕に大きな彼氏の名前のタトゥーをいれてしまう。
それが原因で就職も出来ず、アトリエで絵を描きつつギリギリの生活をしていたところで景子と出会った。


・羽田部長(はねだ)

男性。光輔の上司。
光輔はあまり好きではないが、羽田は光輔のことを一目置いている。


・松尾(まつお)

男性。光輔の部下。
彼もまた光輔はあまり好きではない。光輔いわく「近頃の若者」の悪いところ全てを集約したような奴。


・林さん(はやし)

女性。「グッバイぐっちー」を運営する。
実業家として成功を収めており、景子は数少ない友達であり、憧れでもある。

 

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