明日何しようかな?#120

「むかブロ?」140日連続更新企画

自作小説を連載しています

温かい目で読んでください

第一~六章(#1~#116)のまとめ読みはこちら

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景子


「いや、全然。……なんか、緊張するんだよね」

私は笑って返す。これも本音だった。これから三人がちゃんと再会する。「ちゃんと」って言い方は変だけど、たまたまじゃなくて三人が会いたくて集まる。それがなんだか緊張する。本当に九年前みたいになるのかなって。

「ふふ」

心菜は心配そうな表情をゆるめて吹き出した。

「私もおんなじこと思ってた」

……まあそりゃそうか。三人で「遊ぶ」のはタイムカプセルをうめたあのとき以来。みんな緊張するか。

「だから体調とかは大丈夫。今日は事件のことは忘れるから」

私がこう言えば済む、はず。

「分かった」

心菜は前を向き直した。

私たちを乗せた車は駅の近くまで来た。近くのコインパーキングに駐める。三人で駅まで歩く。

「光輔!」

駅で待っていた光輔を見て、心菜は叫ぶ。光輔は駅まで自分で来たらしい。

四人が集合する。全員少し緊張していて、だけど明るい表情で。

「なんか……緊張するな」

光輔はぼそっと言う。それに対して女三人は一斉に笑い出す。

「なんでそんな笑うんだよ」

「緊張するねって話、もうさっきしたの、車の中で」

光輔の顔もぱっと明るくなる。

「そっか、みんな一緒か」

結局、私たちはケラケラ笑いながら新幹線のホームに向かった。

途中、光輔が私にだけ聞こえるようにささやく。

「大丈夫か?」

事件のこととか体調は大丈夫か、の意味だろう。

「車の中で今日は事件のことは忘れるって決めたの。だから大丈夫」

「分かった」

新幹線の中は四人掛けの座席に向かい合って座る。

会ってなかった九年間それぞれ何をしていたのか、その話題で持ち切りだった。九年もしゃべってなかったから、しゃべらなきゃいけないことは山ほどあった。私の仕事の話とか。光輔の結婚の話とか。

「次は新大阪」

その車内アナウンスを聞いて、ハッとなる。うそ、もうついたの?

三人を見ると同じ表情をしていた。さっきまで東京にいなかったっけ?そんな表情。

「降りるか」

光輔が声をかけて私たちは新幹線を降りる。

降りる寸前、扉の窓ガラスに薄く映った自分の顔を見て気づく。いつもより格段に口角があがっていた。私って、こんな明るい顔だったっけ?

窓ガラスに映る他のみんなの顔も明るい顔をしていた。東京で集合したときの顔からは考えられないような顔。いつの間にか「緊張」も忘れていた。

自分の顔を自分で見て気づく。新幹線でおしゃべりをしているうちに私はあの日の私に戻れていたみたいだ。

「良かった」

良かった、ちゃんと再会できて。

「なんか言ったか?」

光輔が私に聞く。心の中でつぶやいたつもりだったのが、声に出していたみたいだ。

「ううん、なんでもない」

改札を抜け、駅の外へ出る。光輔はすぐにタクシーを指さす。

テキパキと動く光輔を見て我に返る。心菜は病院を抜け出している身だ。今日中に東京に戻らないといけない。時間にそんなに余裕はない。

「乗るぞ」

浮かれた気分を落ち着かせ、私はタクシーに乗り込んだ。


つづく


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【「明日何しようかな」あらすじ】

大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」

学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった

二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める

卒業式当日

景子の姉である莉子の失踪事件が起こる

事件の混乱で卒業式は中止が決定

心菜が光輔に告白することや、心菜が所属していた暗号部の最後の暗号を解くこと

それらを整理することが出来ずに、光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう

ニ〇一八年、舞台は東京へ

事件は解決せず、心菜とは光輔、景子ともに音信不通となってしまう

景子は自宅の近くで雨宿りをしたのをきっかけに雑居ビルでアトリエを開いているすみれと出会う

すみれは腕に元カレのタトゥーが入っており、まともな職につくことが出来ないでいた

光輔は会社の帰り道、車窓からたまたまアパートの廊下にいた心菜を見かける

驚いた光輔は電車を飛び降り、心菜を探す

結局、心菜は見つからなかったが、心菜を見つけたアパートを確認することに

すると、アパートの一室にはあの日失踪したはずの莉子がいた

光輔は莉子の目撃を確信にするために、頻繁に偵察を続けることにした

一方、景子は自身の人脈を使い、すみれ救済計画を進める

まずは「愚痴聞き」サービスのオペレーターの職につき、安定した収入を得られるようにする

そして、元美容整形外科医の早見の力を借り、腕のタトゥー除去も企てる

すみれの生活は徐々に明るくなっていった

そんなさなか、公園にいた心菜と偶然再会する

心菜はガンを患っており余命宣告もされている状況で、治療のために東京に来ていた

一緒にいた看護師の渚にそのことを聞いた景子は、もう一度三人で会おうと誓う

光輔は事件解決の糸口が見つからず、自身の転勤の話もあり、かなり焦っていた

失踪事件の担当であった益川の力を借り、莉子がいたアパートに突入する

しかし、そこにいたのは莉子そっくりの人物だった

事件は振り出しに戻り、消沈する光輔

そんな光輔も景子の助けもあり、心菜とは電話越しではあるが再会する

事件が起きたあの日、心菜は不審な音を聞いていたことを告白する

事件解決、そして三人揃ってタイムカプセルを開けるためにそれぞれが動き出す

 

 

【登場人物】

・福山光輔(ふくやま・こうすけ

男性。百白中学校出身。言葉使いが荒かったりと乱暴な一面もあるが、体育会系のしっかり者でもある。
中学の頃から陸上にのめり込み、大学まで続けたが思うような結果は残せず。
大学進学を機に上京したことをきっかけに東京の一般企業に就職する。


・佐々木景子(ささき・けいこ)

女性。百白中学校出身。思いやりや優しさもあるが、ときに周りに冷たくあたってしまうサバサバした性格でもある。
厳しい家庭で育ち、大学進学まで親の言いなりで生きてきたが、もっと自分らしい生き方をしようとウェブライターに就職。
光輔や益川ともたまに連絡を取るが、姉の失踪事件は半ば諦めているというのが本音。


・泉心菜(いずみ・ここな)

女性。百白中学校出身。幼馴染三人の中では一番ワガママで寂しがりやで甘えん坊。
事件が原因で光輔と景子と離れ離れになったことがあまりにショックで、人間不信になっていた。
誰にも心を開かず大人になったが、病院で出会った渚には徐々に心を開くようになる。


・佐々木莉子(ささき・りこ)

女性。景子の姉。2010年3月に謎の失踪を起こす。
失踪の前触れのような行動は見られず、ある日突然いなくなった。


・上杉史也(うえすぎ・ふみや)

男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」。学校中の生徒から愛されており、光輔、景子、心菜の三人も親しい仲だった。
心菜以外の二人とは中学卒業後も連絡をたまに取っている。


・益川正義(ますかわ・せいぎ)

男性。莉子失踪事件を担当する刑事。事件発生当時はベテランながら若々しい見た目。まだ中学生だった光輔らにも丁寧に接し、すぐに信頼を得る。
刑事人生で唯一莉子失踪事件のみが解決できておらず、なんとしてでも解決しようと情熱を注いでいる。
しかし、自身の定年も近付いていた。


・早見徹(はやみ・とおる)

男性。元天才美容整形外科医。現在はラーメン屋を営む。
記事を書くために取材したことをきっかけに、ウェブライターの景子(ネオン)と親しくなる。
景子はこの男が苦手であるが、すみれのタトゥー除去のために話しているうちに少しずつ打ち解け合っていく。


・片寄渚(かたよせ・なぎさ)

女性。心菜を担当する看護師。
おてんばで明るい性格で、周りからも愛されるキャラクター。
患者思いの性格で、なかなか心を開かない心菜にも何度もアタックし少しずつ信頼を得ていった。


・長谷川すみれ(はせがわ・すみれ)

女性。東京の小さなアトリエで絵を描いている。景子いわく「かなりの馬鹿」
猟奇的な彼氏の束縛にあい、右腕に大きな彼氏の名前のタトゥーをいれてしまう。
それが原因で就職も出来ず、アトリエで絵を描きつつギリギリの生活をしていたところで景子と出会った。


・羽田部長(はねだ)

男性。光輔の上司。
光輔はあまり好きではないが、羽田は光輔のことを一目置いている。


・松尾(まつお)

男性。光輔の部下。
彼もまた光輔はあまり好きではない。光輔いわく「近頃の若者」の悪いところ全てを集約したような奴。


・林さん(はやし)

女性。「グッバイぐっちー」を運営する。
実業家として成功を収めており、景子は数少ない友達であり、憧れでもある。

 

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