明日何しようかな?#119

「むかブロ?」140日連続更新企画

自作小説を連載しています

温かい目で読んでください

第一~六章(#1~#116)のまとめ読みはこちら

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景子


心の傷は簡単には癒えない。

短期間に色んなことが起こったせいで、私も疲れ果ててしまった。それでも、光輔や心菜のおかげで少しは元気を取り戻せた気がする。

お姉ちゃんが生きていた。それがなにより嬉しかった。

今だから言えるが、心の中ではお姉ちゃんはもうすでに死んでいると決めつけていた。そりゃそうだ。誘拐された女の子が八年もいなくなったらもう死んでいると思うに決まっている。

だけど、奇跡的に生きていた。姿を変えて。

九年ぶりにお姉ちゃんと会話をした。いや、会話とは言えないか。あのときお姉ちゃんはたしかに「ごめん」と言った。あの瞬間は間違いなくソヨンではなく、私のお姉ちゃんだった。

色々な気持ちはある。何が正しいかは分からない。だけど、あのときのあの一言で私はこれからお姉ちゃんが戻ってきてくれると確信した。私はそれでいいと自分に言い聞かせている。

犯人だった早見。彼にも大きく裏切られた。はじめこそ嫌悪感は凄まじかったが、すみれさんの件を経て、少しずつ悪いやつじゃないと思っていた。それがまさか私のお姉ちゃんを連れ去った犯人だったなんて。

だけど、私が仕事で早見に会うことが無かったら一生この事件は未解決のままだった。たまたま私がライターの仕事に就き、たまたま早見とのインタビューすることになり、たまたま早見の家に行く機会が出来た。ここまでの偶然あるのだろうか。自分も神様に見放されなかったんだなって思う。

そんな奇跡を起こせた理由の一つが、光輔の諦めない心だったと思う。「もう無理だ」と諦めていた私と違って、光輔は何年経っても事件を追い続けてくれた。私一人じゃこの奇跡は起こせなかっただろう。光輔には感謝してもしきれない。

早見のことを許せるわけではない。でも不思議と憎くて憎くてたまらないというわけでもない。あいつにはあいつの正義があって、確固たる信念を持っていた。私たちはそれにほぼ負けかけていた。

……いや、もう負けてたのかもしれない。光輔が事件について問い詰めた後、静かに最後の反抗をする早見に私は言葉が出なかった。その時点で負けだ。

だから憎いというより、悔しい気持ちが大きい。

もうあいつと会うことはこの先ないだろう。もちろん会いたくもない。

私の人生はこれから何年も続く、はず。その中で早見のことは憎むんじゃなくて、反面教師にしないといけないなと思っている。世の中にごまんといる悪いやつに騙されたりしないように、これからずっとあいつの言葉を忘れずに生きていこう。

さあくよくよしていられない。今日は百白村に帰るんだ。あの三人とタイムカプセルを掘り起こすんだ。私が「這ってでも行く」と言ったんだ。私が元気じゃないとダメに決まっている。


ピンポーン


家のチャイムが鳴る。私はすぐに出る。

「心菜です」

「はーい」

心菜が病院から抜け出す作戦はうまくいったみたいだ。どんな手段を使っているのかしらないが、渚さんの力があれば抜け出せるらしい。そして、二人を乗せた車が今、私の家まで来た。私の家から駅まで送ってくれるらしい。

「自分で駅まで行くからお迎えなくていいよって渚さんに言っておいてよ」

「え~めんどくさい。いいじゃん、病院から駅に行く方向に景子の家があるんだし」

そんな電話でのやりとりもあって、結局私は渚さんに駅まで送ってもらうことになった。

「すみません、わざわざ」

「いえいえ全然」

女性三人を乗せた車が駅へと向かう。

車内は若干気まずい空気だった。なんでだろう。まあ最後に会ったのが、あの事件が解決した日ってのもあるのだろうか。渚さんに関しては事件と無関係でただのラブメロのファンだったわけだし……。いやでも、謝るのもおかしいし……。

そんな空気を察してか、助手席の心菜が口を割る。

「……やっぱりしんどい?」

後部座席に向けられたその顔はかなり心配してくれている表情だった。


つづく


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【「明日何しようかな」あらすじ】

大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」

学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった

二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める

卒業式当日

景子の姉である莉子の失踪事件が起こる

事件の混乱で卒業式は中止が決定

心菜が光輔に告白することや、心菜が所属していた暗号部の最後の暗号を解くこと

それらを整理することが出来ずに、光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう

ニ〇一八年、舞台は東京へ

事件は解決せず、心菜とは光輔、景子ともに音信不通となってしまう

景子は自宅の近くで雨宿りをしたのをきっかけに雑居ビルでアトリエを開いているすみれと出会う

すみれは腕に元カレのタトゥーが入っており、まともな職につくことが出来ないでいた

光輔は会社の帰り道、車窓からたまたまアパートの廊下にいた心菜を見かける

驚いた光輔は電車を飛び降り、心菜を探す

結局、心菜は見つからなかったが、心菜を見つけたアパートを確認することに

すると、アパートの一室にはあの日失踪したはずの莉子がいた

光輔は莉子の目撃を確信にするために、頻繁に偵察を続けることにした

一方、景子は自身の人脈を使い、すみれ救済計画を進める

まずは「愚痴聞き」サービスのオペレーターの職につき、安定した収入を得られるようにする

そして、元美容整形外科医の早見の力を借り、腕のタトゥー除去も企てる

すみれの生活は徐々に明るくなっていった

そんなさなか、公園にいた心菜と偶然再会する

心菜はガンを患っており余命宣告もされている状況で、治療のために東京に来ていた

一緒にいた看護師の渚にそのことを聞いた景子は、もう一度三人で会おうと誓う

光輔は事件解決の糸口が見つからず、自身の転勤の話もあり、かなり焦っていた

失踪事件の担当であった益川の力を借り、莉子がいたアパートに突入する

しかし、そこにいたのは莉子そっくりの人物だった

事件は振り出しに戻り、消沈する光輔

そんな光輔も景子の助けもあり、心菜とは電話越しではあるが再会する

事件が起きたあの日、心菜は不審な音を聞いていたことを告白する

事件解決、そして三人揃ってタイムカプセルを開けるためにそれぞれが動き出す

 

 

【登場人物】

・福山光輔(ふくやま・こうすけ

男性。百白中学校出身。言葉使いが荒かったりと乱暴な一面もあるが、体育会系のしっかり者でもある。
中学の頃から陸上にのめり込み、大学まで続けたが思うような結果は残せず。
大学進学を機に上京したことをきっかけに東京の一般企業に就職する。


・佐々木景子(ささき・けいこ)

女性。百白中学校出身。思いやりや優しさもあるが、ときに周りに冷たくあたってしまうサバサバした性格でもある。
厳しい家庭で育ち、大学進学まで親の言いなりで生きてきたが、もっと自分らしい生き方をしようとウェブライターに就職。
光輔や益川ともたまに連絡を取るが、姉の失踪事件は半ば諦めているというのが本音。


・泉心菜(いずみ・ここな)

女性。百白中学校出身。幼馴染三人の中では一番ワガママで寂しがりやで甘えん坊。
事件が原因で光輔と景子と離れ離れになったことがあまりにショックで、人間不信になっていた。
誰にも心を開かず大人になったが、病院で出会った渚には徐々に心を開くようになる。


・佐々木莉子(ささき・りこ)

女性。景子の姉。2010年3月に謎の失踪を起こす。
失踪の前触れのような行動は見られず、ある日突然いなくなった。


・上杉史也(うえすぎ・ふみや)

男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」。学校中の生徒から愛されており、光輔、景子、心菜の三人も親しい仲だった。
心菜以外の二人とは中学卒業後も連絡をたまに取っている。


・益川正義(ますかわ・せいぎ)

男性。莉子失踪事件を担当する刑事。事件発生当時はベテランながら若々しい見た目。まだ中学生だった光輔らにも丁寧に接し、すぐに信頼を得る。
刑事人生で唯一莉子失踪事件のみが解決できておらず、なんとしてでも解決しようと情熱を注いでいる。
しかし、自身の定年も近付いていた。


・早見徹(はやみ・とおる)

男性。元天才美容整形外科医。現在はラーメン屋を営む。
記事を書くために取材したことをきっかけに、ウェブライターの景子(ネオン)と親しくなる。
景子はこの男が苦手であるが、すみれのタトゥー除去のために話しているうちに少しずつ打ち解け合っていく。


・片寄渚(かたよせ・なぎさ)

女性。心菜を担当する看護師。
おてんばで明るい性格で、周りからも愛されるキャラクター。
患者思いの性格で、なかなか心を開かない心菜にも何度もアタックし少しずつ信頼を得ていった。


・長谷川すみれ(はせがわ・すみれ)

女性。東京の小さなアトリエで絵を描いている。景子いわく「かなりの馬鹿」
猟奇的な彼氏の束縛にあい、右腕に大きな彼氏の名前のタトゥーをいれてしまう。
それが原因で就職も出来ず、アトリエで絵を描きつつギリギリの生活をしていたところで景子と出会った。


・羽田部長(はねだ)

男性。光輔の上司。
光輔はあまり好きではないが、羽田は光輔のことを一目置いている。


・松尾(まつお)

男性。光輔の部下。
彼もまた光輔はあまり好きではない。光輔いわく「近頃の若者」の悪いところ全てを集約したような奴。


・林さん(はやし)

女性。「グッバイぐっちー」を運営する。
実業家として成功を収めており、景子は数少ない友達であり、憧れでもある。

 

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