明日何しようかな?#116

「むかブロ?」140日連続更新企画

自作小説を連載しています

温かい目で読んでください

第一~五章(#1~#96)のまとめ読みはこちら

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莉子


……信じられなかった。どうして?なんで?あの計画がバレたということ?早見先生が自首でもしたのか?

動かない。体が動かず、言葉も出ない。

そうか、また夢を見ているんだ。またあの悪夢を見ているんだ。無理矢理自分にそう言い聞かせる。

それにしてもリアルな夢だ。周りを見れば、ラブ&メロディーのメンバーがいる。一緒に地道に活動し続けたメンバーがいる。

メンバーは驚いていた顔をしていた。

「失踪事件?」

「なんで?」

「どういうこと?」

メンバーは何も分からず、私を見つめる。

覚めろ、覚めろ、覚めろ、覚めろ!なんだこの悪夢は。たちが悪すぎる。どれだけ強く願っても夢は覚めない。

「出頭、出来ますか?」

私は何の言い訳も思いつかない。

「早見徹を先ほど逮捕しました」

……………………ああダメだ。現実だ。何かの間違いじゃないかと思ってたけれど、目の前の警察も、周りのメンバーも、自分も、みんな現実の世界にいるんだ。私たちは負けたんだ。

どうして?誰が?どうやって?バレた過程は全く分からない。

だけど。この瞬間「ソヨン」としての人生は終了した。

とりあえず謝らなきゃ。

「ごめん、みんな」

メンバーはポカンとしている。当たり前だ。私は警察の人の指示に従い、手荷物をまとめ出頭する準備を始めた。その間、誰も何も言わなかった。いや、言えなかった。

私は全ての準備が整い、楽屋をあとにする。

「ソヨン、どういうこと?」

最後にアカリが聞く。

「すぐに分かると思う」

私は多くは語らなかった。

「本当にごめんなさい」

メンバーに向かって、深く深く頭を下げた。

私は楽屋を出る。警察の人に連れられ、重い足取りで歩く。

「どうして?」

私はつぶやく。

「どうして分かったんですか?」

警察の人たちは「誰が話す?」と目で相談しながら困っている。一人が話し始めた。

「あなたの妹とそのお友達が早見の犯行を突き止めました」

景子……。景子が早見先生にたどり着いた。

そうか、景子はずっと「莉子」を探してくれていたんだ。

悔しい。とぼとぼと廊下を歩きながら、悔しい気持ちが溢れてきた。計画が崩れたことが悔しい。ソヨンの人生が終わったことも悔しい。

でも……、でもなぜか少しホッとしている自分がいるのが一番悔しい。

「外に景子さんがいます」

もうこんな近くまで「莉子」が迎えにきていたなんて。現実を受け止めきれない。全身から汗が出て、クラクラする。

景子……。会って何を話せばいいんだろう。景子は景子で私を探し続けていた。そんな景子がもうそこにいる。

もちろん怒りもある。何も無ければ、私は「莉子」を捨てて生きることが出来たんだから。「ソヨン」の人生をめちゃくちゃにしたんだから。

怒りもあるけれど、一番は「会いたくない」って気持ちだった。会った時どんな感情が湧くのか怖い。

これから私は「誰」になるんだろう。それは今は分からないけれど、こうなってしまった以上、もう誰も私には構わないでほしい。景子にも会いたくないし、誰にも会いたくない。今、地球に隕石が落ちて世界が終わればいいのに。

無視しよう。何も言わず立ち去ろう。

そう決めた頃にはもう武道館の外にいた。

しばらく歩くと、本当に景子はいた。現実だ。これが現実なんだ。

隣にいる男の人も見たことある。中学の友達だったと思う。こいつが一緒に事件を暴いた「友達」か。その他にも何人かうしろにいた。

景子はたぶん私に気づいている。私はなるべく目を合わせないようにする。

「お姉ちゃん」

震えた声で私のことを呼ぶ。その声は悪夢の中のような恐ろしい声ではなく温かい声だった。九年前の景子そのままの声だった。変わっていない。

「お姉ちゃん、分かる?」

そう言うと景子は近付いてくる。

「近寄らないで!」

反射的にそう叫ぶことしか出来なかった。それが精一杯だった。

来るな!来ると「莉子」を思い出してしまう。

違う。景子、違うの。

もう私は「莉子」じゃない。「お姉ちゃん」じゃない。

やめて。やめてくれ!もうこれ以上私を苦しめないで!

景子はそれでも私にあの日の声で話しかけてきた。

「これからはどんなに苦しくても私が救うから。だからお願い。私のお姉ちゃんに戻って!!」

景子はそれでも「お姉ちゃん」と言い張った。

これ以上いると、心がどうにかなってしまいそうだった。

「行きましょう」

私は周りの警察の人に聞こえるようにつぶやく。警察もそれに応じて、歩き始める。

これでいい。これからどうなるか分からない。悪いことはいっぱいしたから、捕まるんだろう。

だけど、もう景子とは話さない。お姉ちゃんでもない。ラブ&メロディーのメンバーでもない。それでいいんだ。そうするしかないんだ。

少しずつ景子との距離が空く。これ以上行くと、景子には声が聞こえないだろうという距離まで来る。

「景子」

……ダメだ。体が、口が、勝手に動く。このまま離れちゃダメだ、って。

「……ごめん」

そう言うことしか出来なかった。

私は負けたんだ。

あの日私が選んだ選択肢。私が信じた人。結局全部間違いだった。

私は莉子。私は佐々木莉子なんだ。どれだけイヤでも、どれだけ苦しんでも、私は莉子なんだ。

楽屋で「莉子」と呼ばれた瞬間から、また私の見える世界がモノクロになった。

いつからかは忘れた。だけど、中学生や高校生のときの私が見る世界は全部モノクロだった。だけど、早見が手術をした直後に鏡を見た瞬間から私の世界は色を取り戻した。

別人として、自分のやりたいことが出来る人生。それが私にとってカラフルな人生。

もう何年もカラフルな世界だったのに、今はまたモノクロになっている。武道館も、警察の人のスーツも、たくさん止まっているパトカーも、全部モノクロ。

でもさっき首が勝手に振り向いたとき。「ごめん」と言ったとき。モノクロの世界の中に景子ただ一人だけ、色がついていた。

悔しい。本当に悔しい。私は負けたんだ。私は莉子なんだ。

涙が止まらなかった。


つづく


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【「明日何しようかな」あらすじ】

大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」

学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった

二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める

卒業式当日

景子の姉である莉子の失踪事件が起こる

事件の混乱で卒業式は中止が決定

心菜が光輔に告白することや、心菜が所属していた暗号部の最後の暗号を解くこと

それらを整理することが出来ずに、光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう

ニ〇一八年、舞台は東京へ

事件は解決せず、心菜とは光輔、景子ともに音信不通となってしまう

景子は自宅の近くで雨宿りをしたのをきっかけに雑居ビルでアトリエを開いているすみれと出会う

すみれは腕に元カレのタトゥーが入っており、まともな職につくことが出来ないでいた

光輔は会社の帰り道、車窓からたまたまアパートの廊下にいた心菜を見かける

驚いた光輔は電車を飛び降り、心菜を探す

結局、心菜は見つからなかったが、心菜を見つけたアパートを確認することに

すると、アパートの一室にはあの日失踪したはずの莉子がいた

光輔は莉子の目撃を確信にするために、頻繁に偵察を続けることにした

一方、景子は自身の人脈を使い、すみれ救済計画を進める

まずは「愚痴聞き」サービスのオペレーターの職につき、安定した収入を得られるようにする

そして、元美容整形外科医の早見の力を借り、腕のタトゥー除去も企てる

すみれの生活は徐々に明るくなっていった

そんなさなか、公園にいた心菜と偶然再会する

心菜はガンを患っており余命宣告もされている状況で、治療のために東京に来ていた

一緒にいた看護師の渚にそのことを聞いた景子は、もう一度三人で会おうと誓う

光輔は事件解決の糸口が見つからず、自身の転勤の話もあり、かなり焦っていた

失踪事件の担当であった益川の力を借り、莉子がいたアパートに突入する

しかし、そこにいたのは莉子そっくりの人物だった

事件は振り出しに戻り、消沈する光輔

そんな光輔も景子の助けもあり、心菜とは電話越しではあるが再会する

事件が起きたあの日、心菜は不審な音を聞いていたことを告白する

事件解決、そして三人揃ってタイムカプセルを開けるためにそれぞれが動き出す

 

 

【登場人物】

・福山光輔(ふくやま・こうすけ

男性。百白中学校出身。言葉使いが荒かったりと乱暴な一面もあるが、体育会系のしっかり者でもある。
中学の頃から陸上にのめり込み、大学まで続けたが思うような結果は残せず。
大学進学を機に上京したことをきっかけに東京の一般企業に就職する。


・佐々木景子(ささき・けいこ)

女性。百白中学校出身。思いやりや優しさもあるが、ときに周りに冷たくあたってしまうサバサバした性格でもある。
厳しい家庭で育ち、大学進学まで親の言いなりで生きてきたが、もっと自分らしい生き方をしようとウェブライターに就職。
光輔や益川ともたまに連絡を取るが、姉の失踪事件は半ば諦めているというのが本音。


・泉心菜(いずみ・ここな)

女性。百白中学校出身。幼馴染三人の中では一番ワガママで寂しがりやで甘えん坊。
事件が原因で光輔と景子と離れ離れになったことがあまりにショックで、人間不信になっていた。
誰にも心を開かず大人になったが、病院で出会った渚には徐々に心を開くようになる。


・佐々木莉子(ささき・りこ)

女性。景子の姉。2010年3月に謎の失踪を起こす。
失踪の前触れのような行動は見られず、ある日突然いなくなった。


・上杉史也(うえすぎ・ふみや)

男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」。学校中の生徒から愛されており、光輔、景子、心菜の三人も親しい仲だった。
心菜以外の二人とは中学卒業後も連絡をたまに取っている。


・益川正義(ますかわ・せいぎ)

男性。莉子失踪事件を担当する刑事。事件発生当時はベテランながら若々しい見た目。まだ中学生だった光輔らにも丁寧に接し、すぐに信頼を得る。
刑事人生で唯一莉子失踪事件のみが解決できておらず、なんとしてでも解決しようと情熱を注いでいる。
しかし、自身の定年も近付いていた。


・早見徹(はやみ・とおる)

男性。元天才美容整形外科医。現在はラーメン屋を営む。
記事を書くために取材したことをきっかけに、ウェブライターの景子(ネオン)と親しくなる。
景子はこの男が苦手であるが、すみれのタトゥー除去のために話しているうちに少しずつ打ち解け合っていく。


・片寄渚(かたよせ・なぎさ)

女性。心菜を担当する看護師。
おてんばで明るい性格で、周りからも愛されるキャラクター。
患者思いの性格で、なかなか心を開かない心菜にも何度もアタックし少しずつ信頼を得ていった。


・長谷川すみれ(はせがわ・すみれ)

女性。東京の小さなアトリエで絵を描いている。景子いわく「かなりの馬鹿」
猟奇的な彼氏の束縛にあい、右腕に大きな彼氏の名前のタトゥーをいれてしまう。
それが原因で就職も出来ず、アトリエで絵を描きつつギリギリの生活をしていたところで景子と出会った。


・羽田部長(はねだ)

男性。光輔の上司。
光輔はあまり好きではないが、羽田は光輔のことを一目置いている。


・松尾(まつお)

男性。光輔の部下。
彼もまた光輔はあまり好きではない。光輔いわく「近頃の若者」の悪いところ全てを集約したような奴。


・林さん(はやし)

女性。「グッバイぐっちー」を運営する。
実業家として成功を収めており、景子は数少ない友達であり、憧れでもある。

 

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