明日何しようかな?#100

「むかブロ?」140日連続更新企画

自作小説を連載しています

温かい目で読んでください

第一~五章(#1~#96)のまとめ読みはこちら

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景子


「彼女がこのガラケーを使って書いていたブログ。そこではただただ「死にたい」とか「もうイヤだ」って内容が書かれていたんだ。僕はたまたまそれを見つけた」

お姉ちゃんはそんなブログみたいなことをする人じゃないと思っていた。いつの間にそんなことをしていたんだろう。

「はじめは些細なコメントだったんだ。あんなにも追い詰められてSOSを発信しているのに、コメントの一つもついていないブログ。僕はほんのちょっと手を貸すつもりでコメントした。どんなことを書いたのかは覚えてない」

光輔は黙って早見の話を聞いている。ふとももに置いてある手は私にしか分からないくらい小さく震えていた。

「そこから少しずつ交流が始まった。連絡先を教え合い、メールや電話をするようになった。はじめは、まあ「病みブログ」を書いてるかまってちゃんだと思っていたよ」

早見は「ふふ」と少し笑う。どうしてこの状況で笑えるのかは分からない。色んな感情が入り混じる。

「だけどね、莉子はいい子だった。馬鹿なかまってちゃんではなかった。頭もいいし、礼儀も正しい。将来が実に楽しみな子だと思った」

怖い。早見のことも怖いし、早見のペースに飲まれてる私も怖い。

私たちは勝負には勝ったはずでしょ?それとも何、ここから逆転されるのか?

「何年も連絡を取るうちにある感情が芽生えたんだ。莉子を檻から出してあげたいと。不自由な檻の中で毎日泣いている莉子を見て、このままではいけないと思った。このままだと檻の中で自分の体を噛みちぎって死んでしまうと」

早見の言葉が少しずつ私の体を蝕んでいくような気分になる。さっきまでは言葉として聞けていたのに……。

「正義の味方っているじゃない。僕はあれになろうと思ったんだ」

正義の味方……。

「困っている子を救ってあげる。莉子を救ってあげる。そして、僕は今回の計画を思いついたんだ」

「…………」

何か言いたい。だけど、言葉が出ない。

「もちろん、彼女とも相談して。周りから見れば誘拐事件かもしれない。でも違う。僕は莉子の合意のもと、莉子を連れ去ったんだ」

つまりお姉ちゃんは望んで失踪した。

「莉子は私のことを信頼してくれた。僕も莉子のことを信頼した。今君たちは僕の話を聞いただけだと、僕たちが本当に信頼しあっていたかなんて分からないだろう」

お姉ちゃんはこの人を信頼していた。

「何時間も夜があけるまで電話をし、家族にばれないように実際に会ったりもしたんだ。景子さん、知らなかったでしょ?そんなこと」

知らない。そんなことしているとは思わなかった。

「大阪の莉子と東京の僕。簡単に会えるわけじゃなかったけど、僕からあの村へ行って何度か会った。こうして、僕は彼女を連れ去るにまで至ったんだ」

お姉ちゃんは私なんかより、家族なんかより信頼できる人を見つけていた。

「ある日突然いなくなったかのように失踪する。僕が莉子を連れ去る。車は足がつかないよう盗難車を使った。防犯カメラや警察の目をかいくぐれるようルートも丹念に決めた。その全てを知ったうえで、莉子は僕に協力した」

どうして?どうして、この人を信頼したの?

「これは僕と莉子の二人のやったことだ。僕が正義の味方となって莉子を救う。それだけのこと」

「…………」

「長々と話してしまったね。僕から言いたいことは、次のことだ」

早見は私たち二人に視線を向けて言う。

「このことは警察には言わず、ここでの話はなかったことにしないか」

「…………」

「莉子は追い詰められていた。莉子は助けを求めていた。僕はそれを救っただけ。これは犯罪ではない。誘拐ではない。悪いことではない。分かるだろう?特に君なら」

早見は私を見る。

「莉子が、きっと莉子自身がこの事件が解決することを望んでいない。それが僕が言いたいことだ。この事件は未解決のまま、世間に忘れ去られるべきなんだ」

私は光輔の方を見る。明らかに体が震えている。視線は早見から離れない。

「君たち二人が警察に言わずに黙っていてくれれば、全てが平和に解決する。もう警察に言っているかもしれないが、そこは誤魔化してほしい。この場に警察を連れ込んでいないようだし、君たちみたいな頭のいい人ならまだ警察の目は誤魔化せるだろう」

早見は頭を下げる。

「頼む。お願いだ。何度も言うが、これは僕がやった犯罪ではない。僕と莉子が二人でやった救済だ。莉子は事件が暴かれることを望んでいないだろう。どうか莉子のために黙っていてくれないか」

……どうしよう、光輔。私、なんて言っていいか分からない。どうすればいいか分からない。早見の言う通りでいいわけがない。それくらい分かる。だけど……。

光輔は突然立ち上がる。

「光輔?」

光輔は早見の髪の毛を引っ張り、顔を無理矢理あげさせた。

「ふざけんじゃねえよ!」


つづく


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【「明日何しようかな」あらすじ】

大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」

学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった

二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める

卒業式当日

景子の姉である莉子の失踪事件が起こる

事件の混乱で卒業式は中止が決定

心菜が光輔に告白することや、心菜が所属していた暗号部の最後の暗号を解くこと

それらを整理することが出来ずに、光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう

ニ〇一八年、舞台は東京へ

事件は解決せず、心菜とは光輔、景子ともに音信不通となってしまう

景子は自宅の近くで雨宿りをしたのをきっかけに雑居ビルでアトリエを開いているすみれと出会う

すみれは腕に元カレのタトゥーが入っており、まともな職につくことが出来ないでいた

光輔は会社の帰り道、車窓からたまたまアパートの廊下にいた心菜を見かける

驚いた光輔は電車を飛び降り、心菜を探す

結局、心菜は見つからなかったが、心菜を見つけたアパートを確認することに

すると、アパートの一室にはあの日失踪したはずの莉子がいた

光輔は莉子の目撃を確信にするために、頻繁に偵察を続けることにした

一方、景子は自身の人脈を使い、すみれ救済計画を進める

まずは「愚痴聞き」サービスのオペレーターの職につき、安定した収入を得られるようにする

そして、元美容整形外科医の早見の力を借り、腕のタトゥー除去も企てる

すみれの生活は徐々に明るくなっていった

そんなさなか、公園にいた心菜と偶然再会する

心菜はガンを患っており余命宣告もされている状況で、治療のために東京に来ていた

一緒にいた看護師の渚にそのことを聞いた景子は、もう一度三人で会おうと誓う

光輔は事件解決の糸口が見つからず、自身の転勤の話もあり、かなり焦っていた

失踪事件の担当であった益川の力を借り、莉子がいたアパートに突入する

しかし、そこにいたのは莉子そっくりの人物だった

事件は振り出しに戻り、消沈する光輔

そんな光輔も景子の助けもあり、心菜とは電話越しではあるが再会する

事件が起きたあの日、心菜は不審な音を聞いていたことを告白する

事件解決、そして三人揃ってタイムカプセルを開けるためにそれぞれが動き出す

 

 

【登場人物】

・福山光輔(ふくやま・こうすけ

男性。百白中学校出身。言葉使いが荒かったりと乱暴な一面もあるが、体育会系のしっかり者でもある。
中学の頃から陸上にのめり込み、大学まで続けたが思うような結果は残せず。
大学進学を機に上京したことをきっかけに東京の一般企業に就職する。


・佐々木景子(ささき・けいこ)

女性。百白中学校出身。思いやりや優しさもあるが、ときに周りに冷たくあたってしまうサバサバした性格でもある。
厳しい家庭で育ち、大学進学まで親の言いなりで生きてきたが、もっと自分らしい生き方をしようとウェブライターに就職。
光輔や益川ともたまに連絡を取るが、姉の失踪事件は半ば諦めているというのが本音。


・泉心菜(いずみ・ここな)

女性。百白中学校出身。幼馴染三人の中では一番ワガママで寂しがりやで甘えん坊。
事件が原因で光輔と景子と離れ離れになったことがあまりにショックで、人間不信になっていた。
誰にも心を開かず大人になったが、病院で出会った渚には徐々に心を開くようになる。


・佐々木莉子(ささき・りこ)

女性。景子の姉。2010年3月に謎の失踪を起こす。
失踪の前触れのような行動は見られず、ある日突然いなくなった。


・上杉史也(うえすぎ・ふみや)

男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」。学校中の生徒から愛されており、光輔、景子、心菜の三人も親しい仲だった。
心菜以外の二人とは中学卒業後も連絡をたまに取っている。


・益川正義(ますかわ・せいぎ)

男性。莉子失踪事件を担当する刑事。事件発生当時はベテランながら若々しい見た目。まだ中学生だった光輔らにも丁寧に接し、すぐに信頼を得る。
刑事人生で唯一莉子失踪事件のみが解決できておらず、なんとしてでも解決しようと情熱を注いでいる。
しかし、自身の定年も近付いていた。


・早見徹(はやみ・とおる)

男性。元天才美容整形外科医。現在はラーメン屋を営む。
記事を書くために取材したことをきっかけに、ウェブライターの景子(ネオン)と親しくなる。
景子はこの男が苦手であるが、すみれのタトゥー除去のために話しているうちに少しずつ打ち解け合っていく。


・片寄渚(かたよせ・なぎさ)

女性。心菜を担当する看護師。
おてんばで明るい性格で、周りからも愛されるキャラクター。
患者思いの性格で、なかなか心を開かない心菜にも何度もアタックし少しずつ信頼を得ていった。


・長谷川すみれ(はせがわ・すみれ)

女性。東京の小さなアトリエで絵を描いている。景子いわく「かなりの馬鹿」
猟奇的な彼氏の束縛にあい、右腕に大きな彼氏の名前のタトゥーをいれてしまう。
それが原因で就職も出来ず、アトリエで絵を描きつつギリギリの生活をしていたところで景子と出会った。


・羽田部長(はねだ)

男性。光輔の上司。
光輔はあまり好きではないが、羽田は光輔のことを一目置いている。


・松尾(まつお)

男性。光輔の部下。
彼もまた光輔はあまり好きではない。光輔いわく「近頃の若者」の悪いところ全てを集約したような奴。


・林さん(はやし)

女性。「グッバイぐっちー」を運営する。
実業家として成功を収めており、景子は数少ない友達であり、憧れでもある。

 

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