明日何しようかな?#106

「むかブロ?」140日連続更新企画

自作小説を連載しています

温かい目で読んでください

第一~五章(#1~#96)のまとめ読みはこちら

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景子


早見はテレビを指さし、こう言った。

「はあ?」

「彼女は今、韓国人のソヨンとして生きている」

……すぐには信じられなかった。意味が分からなかった。

私たちはなんて言っていいか分からない。黙り込んだ三人の空気に場違いなアイドルソングが流れてくる。

黙り込む私たちに早見は続ける。

「僕の彼女への整形手術は成功した。莉子の面影は全くない別人の顔になった。その瞬間、全く新しい人物が誕生したんだ」

「…………」

「莉子ではない別人。新しい人生。それを送るために僕は異国での生活を提案したんだ。僕の手術の腕前があれば、新しい彼女の顔を見て莉子を思い出す人はまずいない。その自信はあった。だけど彼女自身が莉子として生きていた頃の人物にばったり出くわす可能性はある。そのたびに『忌まわしき過去』が思い出されるのはあまりにも可哀そうだ。だから、韓国での生活を選んだ」

テレビからは相変わらずラブメロの曲が流れてくる。それが雑音にしか聞こえない。光輔もきっとそうだろう。

「僕はパスポートや戸籍を偽造し、彼女をサポートした。そして彼女を韓国へ見送ったあとは縁を切ったんだ」

「…………」

「韓国へ行った理由はもう一つある。それは彼女が韓国へ行くことを望んだからだ。なぜか分かるかい?」

私は答えることが出来ない。今、早見の言っていることが処理しきることが出来ないからだ。光輔も黙っている。

「彼女には夢があった。人前に立って歌をうたったり踊ったりすること。どうせ君たちはそんな夢聞いたことないんだろうけど」

聞いたことなかった。どうして、どうして私に言ってくれなかったの?

「誘拐した当時はね、KーPOPが流行っていたんだ。彼女はああいったアイドルを陰で応援していた。自分もあんなキラキラした人生を送りたいって、僕にだけ教えてくれたんだ」

そんな夢があってなんて……。

「二人で毎晩電話をして、たくさん話して、たくさん笑って、たくさん泣いて……。そのうちに僕はこの計画を思いついた。僕から彼女に提案したんだ。僕が全くの別人の顔に整形してあげる。日本を脱出して、韓国で新しい人生を歩むのはどうだい?って。韓国人になって、自分の好きなことをやりたいだけやればいい。トップアイドルになるのは難しいだろうけど、小さな会場で少ないお客さん相手に歌って踊るような人生ならば送れるんじゃないかって」

光輔はテレビの画面を見つめていた。早見の顔が見ることが出来ないのか、それとも莉子の今の姿を見つけたいのかは分からない。

「彼女は快諾し、僕たちの計画は始まった。彼女は高校三年生のとき、受験勉強をしているふりをして韓国語を勉強していた。彼女は頭はいいからね、みるみる上達したんだ」

知らない。私の知らないお姉ちゃんがいる。

「そしてあの村を離れた翌日、僕は手術をした。彼女はもう莉子ではなくなった」

「…………」

「彼女は計画通り韓国へと渡った。フリーターとして細々と生きながら、アイドルのオーディションに参加した。そして、小さなアイドルグループのメンバーに選ばれたんだ」

早見は少しずついつもの調子に戻っているのが分かった。さっきまではかなり動揺していたが、今は自信を取り戻してきている。

「これで分かっただろう?僕が言いたいことが。もう彼女は莉子ではないんだ。君にも言えないような夢があった。誰にも言えない夢があった。誰かが敷いたレールを走り続ける人生がイヤだった。だから、僕を信頼した。これでも分からないのかい?これは『救済』なんだよ」

「彼女とは今も連絡を取ってるのですか?」

光輔が力のない声で聞く。

「いいや、取っていない。さっき言っただろう?もう縁を切ったんだ。もう彼女は日本の人とは一切連絡を取っていない。僕ですら取っていない。もう完全に別人なんだよ」

「…………」

「まあまさかここまでアイドルとして成功するとは思わなかったけどね。誤算ではあったよ。だけど、日本人の誰か一人でも気づいた人がいたかい?あれだけテレビに出ているラブ&メロディーを見て、「佐々木莉子」だと気づいた人がいたかい?君たちも気づかなかったじゃないか。僕の力は間違いなく偉大で、彼女は大きな覚悟を持ってソヨンとして生きた」

やめて。聞きたくない。もう聞きたくない。

「この事件は解決されるべきじゃなかったんだ」

私たちは完全に黙り込んでしまう。

光輔は胸ポケットのスマホに語りかけた。

「益川さん、聞こえますか?」

「ああ」

スピーカー越しに益川さんの声が聞こえる。

「早見をお願いします。それと、一台車を貸してください」

しばらくすると、インターホンが鳴る。

「出ろ。警察が待っている」

光輔は最後の力を振り絞って、早見に言い放った。

早見は不敵な笑みを浮かべた。

「ああ」

私たちは玄関まで早見と一緒に歩く。早見は一切抵抗することなく、警察に身柄を拘束された。

益川さんが私たちのもとへやってくる。

「大丈夫かい」

「はい」

光輔が答える。

「景子……」

「なに?」

「行くぞ」

分かっている。光輔はどこへ行こうとしているか分かっていたけど、私は聞き返した。

「武道館へ」

光輔は私を見ずに答えた。


つづく


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【「明日何しようかな」あらすじ】

大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」

学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった

二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める

卒業式当日

景子の姉である莉子の失踪事件が起こる

事件の混乱で卒業式は中止が決定

心菜が光輔に告白することや、心菜が所属していた暗号部の最後の暗号を解くこと

それらを整理することが出来ずに、光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう

ニ〇一八年、舞台は東京へ

事件は解決せず、心菜とは光輔、景子ともに音信不通となってしまう

景子は自宅の近くで雨宿りをしたのをきっかけに雑居ビルでアトリエを開いているすみれと出会う

すみれは腕に元カレのタトゥーが入っており、まともな職につくことが出来ないでいた

光輔は会社の帰り道、車窓からたまたまアパートの廊下にいた心菜を見かける

驚いた光輔は電車を飛び降り、心菜を探す

結局、心菜は見つからなかったが、心菜を見つけたアパートを確認することに

すると、アパートの一室にはあの日失踪したはずの莉子がいた

光輔は莉子の目撃を確信にするために、頻繁に偵察を続けることにした

一方、景子は自身の人脈を使い、すみれ救済計画を進める

まずは「愚痴聞き」サービスのオペレーターの職につき、安定した収入を得られるようにする

そして、元美容整形外科医の早見の力を借り、腕のタトゥー除去も企てる

すみれの生活は徐々に明るくなっていった

そんなさなか、公園にいた心菜と偶然再会する

心菜はガンを患っており余命宣告もされている状況で、治療のために東京に来ていた

一緒にいた看護師の渚にそのことを聞いた景子は、もう一度三人で会おうと誓う

光輔は事件解決の糸口が見つからず、自身の転勤の話もあり、かなり焦っていた

失踪事件の担当であった益川の力を借り、莉子がいたアパートに突入する

しかし、そこにいたのは莉子そっくりの人物だった

事件は振り出しに戻り、消沈する光輔

そんな光輔も景子の助けもあり、心菜とは電話越しではあるが再会する

事件が起きたあの日、心菜は不審な音を聞いていたことを告白する

事件解決、そして三人揃ってタイムカプセルを開けるためにそれぞれが動き出す

 

 

【登場人物】

・福山光輔(ふくやま・こうすけ

男性。百白中学校出身。言葉使いが荒かったりと乱暴な一面もあるが、体育会系のしっかり者でもある。
中学の頃から陸上にのめり込み、大学まで続けたが思うような結果は残せず。
大学進学を機に上京したことをきっかけに東京の一般企業に就職する。


・佐々木景子(ささき・けいこ)

女性。百白中学校出身。思いやりや優しさもあるが、ときに周りに冷たくあたってしまうサバサバした性格でもある。
厳しい家庭で育ち、大学進学まで親の言いなりで生きてきたが、もっと自分らしい生き方をしようとウェブライターに就職。
光輔や益川ともたまに連絡を取るが、姉の失踪事件は半ば諦めているというのが本音。


・泉心菜(いずみ・ここな)

女性。百白中学校出身。幼馴染三人の中では一番ワガママで寂しがりやで甘えん坊。
事件が原因で光輔と景子と離れ離れになったことがあまりにショックで、人間不信になっていた。
誰にも心を開かず大人になったが、病院で出会った渚には徐々に心を開くようになる。


・佐々木莉子(ささき・りこ)

女性。景子の姉。2010年3月に謎の失踪を起こす。
失踪の前触れのような行動は見られず、ある日突然いなくなった。


・上杉史也(うえすぎ・ふみや)

男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」。学校中の生徒から愛されており、光輔、景子、心菜の三人も親しい仲だった。
心菜以外の二人とは中学卒業後も連絡をたまに取っている。


・益川正義(ますかわ・せいぎ)

男性。莉子失踪事件を担当する刑事。事件発生当時はベテランながら若々しい見た目。まだ中学生だった光輔らにも丁寧に接し、すぐに信頼を得る。
刑事人生で唯一莉子失踪事件のみが解決できておらず、なんとしてでも解決しようと情熱を注いでいる。
しかし、自身の定年も近付いていた。


・早見徹(はやみ・とおる)

男性。元天才美容整形外科医。現在はラーメン屋を営む。
記事を書くために取材したことをきっかけに、ウェブライターの景子(ネオン)と親しくなる。
景子はこの男が苦手であるが、すみれのタトゥー除去のために話しているうちに少しずつ打ち解け合っていく。


・片寄渚(かたよせ・なぎさ)

女性。心菜を担当する看護師。
おてんばで明るい性格で、周りからも愛されるキャラクター。
患者思いの性格で、なかなか心を開かない心菜にも何度もアタックし少しずつ信頼を得ていった。


・長谷川すみれ(はせがわ・すみれ)

女性。東京の小さなアトリエで絵を描いている。景子いわく「かなりの馬鹿」
猟奇的な彼氏の束縛にあい、右腕に大きな彼氏の名前のタトゥーをいれてしまう。
それが原因で就職も出来ず、アトリエで絵を描きつつギリギリの生活をしていたところで景子と出会った。


・羽田部長(はねだ)

男性。光輔の上司。
光輔はあまり好きではないが、羽田は光輔のことを一目置いている。


・松尾(まつお)

男性。光輔の部下。
彼もまた光輔はあまり好きではない。光輔いわく「近頃の若者」の悪いところ全てを集約したような奴。


・林さん(はやし)

女性。「グッバイぐっちー」を運営する。
実業家として成功を収めており、景子は数少ない友達であり、憧れでもある。

 

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