明日何しようかな?#140

「むかブロ?」140日連続更新企画

自作小説を連載しています

温かい目で読んでください

第一~六章(#1~#116)のまとめ読みはこちら

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心菜
 

光輔はスマホのライトをつけて、キョロキョロしている。すぐに目的のものを見つけて物色し始めた。光輔はピアノの椅子を照らしている。

「一般的なグランドピアノは白の鍵盤が五十二。黒の鍵盤が三十六。白の数から黒の数を引くと十六。あの計算式はピアノを表している」

その場の全員が小さく「ああ」と言う。タッチは光輔の解説を驚きながら聞いている。もう本当に覚えてないみたいだ。

「で、なんで椅子なの?」

光輔は椅子の座面を外す。

「逆さまの牛が描かれてるだろ?牛はローマ字でU・S・I。逆から読むと……」

I・S・U。椅子。なるほど。

「あった」

光輔は二枚の紙切れを取り出す。そこにはタッチの手書きの文字で「卒業証書」と書かれていた。名前は「福山光輔」と「泉心菜」の二枚。日付は二〇一〇年三月九日、卒業式の日だ。

「戻るぞ」

光輔は余韻に浸ることなく、すぐに戻る準備をした。

結局、帰りも光輔におぶってもらって全力疾走で校門まで戻る。すぐにタッチの車に乗り込み、駅まで送ってもらった。校舎には十分もいなかったみたいだ。

新幹線にも無事間に合い、私たちは大阪をあとにした。濃い一日だった。

あれから何週間も経った。桜はとっくに散って、少しずつ夏が近づいているのが窓からも分かる。

渚さんがテレビをつける。

「ラブ&メロディーが活動を再開します……」

ワイドショーではそんなニュースが流れていた。

「良かったね」

「うん」

ソヨンは脱退して、ラブメロは活動を再開するらしい。色々あったけど、ラブメロに直接会えたことは私の自慢だ。

ちょっとずつちょっとずつ、時間は流れている。光輔は日本を離れた。景子はお姉ちゃんと会って話しているらしい。私は……特に変わりはない。

「ひかりちゃん、また夕方に来るってさ」

私と同い年で、私と同じ病気の女の子が病院に入院している。その子は私とは違って、人懐っこく、病気が嘘かのように元気に病院内で友達を作っているらしい。

「心菜ちゃんにも会いたいって」と渚さんにこないだ言われた。半年前の私だったらすぐに拒否していたと思う。絶対にイヤだって。

でも、今の私はそうはしなかった。断る理由も無かったし、なんとなく会ってみたいと思ったからだ。そういう心持ちとか人との接し方は変わった気がする。

実際に会ってみると、ひかりちゃんはぐいぐい来るタイプというよりは、クラスの人気者って感じだった。

「よろしくね」

「うん」

すぐに友達になった。渚さんもそれを見て笑っていた。

はじめに宣告された「余命」の期間はもう過ぎた。周りの人は多くは語らないが、私はどうも生き延びているらしい。いつ死ぬか分からない恐怖はあるけれど、それでも渚さんがいて、新しい友達もいて、それなりに毎日は楽しい。

「心菜ちゃん、こんにちは」

ひかりちゃんがやって来た。

「こんにちは」

今日も他愛もない会話をする。渚さん以外にこんな会話をする人が出来るとは思わなかった。

「心菜ちゃんって、いっつも笑ってるよね」

「え?」

「怖くないの?死ぬの?」

こんな質問できるのって、ひかりちゃんくらいだと思う。私は答える。

「怖いよ。だけど約束したんだ。友達とまた会おうって。だから元気でいなきゃいけないの」

私のスマホが震える。家族からのLINEの通知だった。待ち受け画面がパッとついて、それをひかりちゃんも見る。

「この子が友達」

私はひかりちゃんに教える。

「男の子と女の子?」

「そう」

「え、聞かせて聞かせて!」

私はスマホの画像フォルダを開ける。三人で撮った写真。渚さんも含めて四人で撮った写真。真っ暗の校門で車のヘッドライトだけで撮った、タッチも入れた写真。

「この卒業証書って何?」

光輔とタッチと三人で撮った写真。私と光輔は暗号部の卒業証書を持っている。

「これはね……」

なんで私こんなに過去について話せてるんだろう。あれかな?呪いが解けたからかな?

「でも、部活を「卒業」するのっておかしくない?「引退」でしょ」

「たしかに」

ひかりちゃんはゲラゲラ笑っている。そんなところに渚さんもやってくる。

「二人とも楽しそうだね」

「渚さんも話そうよ」

「いいよ」

私はとんでもなく子どもだった。とんでもなくワガママだった。あんなに「死にたい」って思ってたのに、今は「死にたくない」って思ってる。「誰とも話したくない」と思ってたのに、今は「色んなこと話したい」って思ってる。

一人になると"「死にたい」と思ってた自分"とか"「誰とも話したくない」と思ってた自分"を思い出す。そして心の中で反省する。色んな人に謝りたくなる。

人生ってそれの繰り返しなんだろうな。今は楽しいけど、また一人になると苦しくなるんだろうな。ちょっとしたことでまた「死にたい」って思うかもしれない。

まだ二十五年しか生きてないけれど、今のところ私の人生は「楽」よりも「苦」のほうが多かった。残り少ないあとの人生も「苦」のほうが多いと思う。

でも今の私は自慢の友達がいる。私が死んだら、それが私の友達の「苦」になってしまうかもしれない。

だから生きよう。生きる意味はいくらでもある。

生きていればお腹が空く。美味しいものを食べれば少し幸せになれる。

生きていれば眠たくなる。一晩眠ればいい夢を見られるかもしれない。

私は「大人になる」が生きる意味。大人になるって約束したから、そのために私は生き続ける。

私が笑えば、誰かが笑う。誰かが笑えば、みんなが笑う。そうやってたくさんの「苦」を乗り越えていこう。

「ねえ、ひかりちゃんのお友達のお話も聞かせてよ」

「うん、じゃあ明日写真持ってくるね」

一年後、十年後、もっと先。遠い将来を考えると苦しくなる。私はいるのかな?ひかりちゃんはいるのかな?病気とかそんなの関係なく、みんな生きているか死んでいるか分からない。

だから、明日まで生きる意味を見つけていこう。

明日はまた、違ういいニュースが聞けるかもしれない。明日はまた、違う友達に会えるかもしれない。一年後に絶望するんじゃなくて、明日にほんの少しだけ期待しよう。

「光輔からメール来た」

「え?」

渚さんはスマホを見せてくれる。そこにはシンガポール観光をしている光輔の笑顔があった。

「心菜ちゃんにも送るね」

「やめてよ、恥ずかしいよ」

光輔にまた会えるかな。大人になって会えるかな。

生き辛い世の中、どうしようもない世の中、イヤなことばかり起こる世の中、分からないことだらけの世の中。そんな世の中に自分がいる意味は絶対にある。また死にたくなったら、とりあえず明日まで頑張ってみよう。

私のスマホが震える。光輔からのメールだった。

「私にも光輔からメールだ」

「あ、良かったじゃん」

私はスマホを手に取る。渚さんとはまた違う写真を送ってくれたみたいだ。

「見てこれ」

「あ、私と違う写真」

そう言って渚さんも笑った。それを見て私も自然と口が緩む。

なんて返事しよう。笑顔の光輔の写真を見ながら、そんなこと考える。私は少しだけ背筋を伸ばした。

明日何しようかな?


心菜編、終わり
明日何しようかな?、全140話完結

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140日連続更新、無事完了しました!

読んでいただいた皆様、本当にありがとうございました

色々反省点や至らぬ点はたくさんありましたが、今は連載を終えたことにひとまず安心しています

この作品を読んでの感想、是非聞かせて欲しいです

一番楽な方法は質問箱です

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【「明日何しようかな」あらすじ】

大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」

学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった

二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める

卒業式当日

景子の姉である莉子の失踪事件が起こる

事件の混乱で卒業式は中止が決定

心菜が光輔に告白することや、心菜が所属していた暗号部の最後の暗号を解くこと

それらを整理することが出来ずに、光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう

ニ〇一八年、舞台は東京へ

事件は解決せず、心菜とは光輔、景子ともに音信不通となってしまう

景子は自宅の近くで雨宿りをしたのをきっかけに雑居ビルでアトリエを開いているすみれと出会う

すみれは腕に元カレのタトゥーが入っており、まともな職につくことが出来ないでいた

光輔は会社の帰り道、車窓からたまたまアパートの廊下にいた心菜を見かける

驚いた光輔は電車を飛び降り、心菜を探す

結局、心菜は見つからなかったが、心菜を見つけたアパートを確認することに

すると、アパートの一室にはあの日失踪したはずの莉子がいた

光輔は莉子の目撃を確信にするために、頻繁に偵察を続けることにした

一方、景子は自身の人脈を使い、すみれ救済計画を進める

まずは「愚痴聞き」サービスのオペレーターの職につき、安定した収入を得られるようにする

そして、元美容整形外科医の早見の力を借り、腕のタトゥー除去も企てる

すみれの生活は徐々に明るくなっていった

そんなさなか、公園にいた心菜と偶然再会する

心菜はガンを患っており余命宣告もされている状況で、治療のために東京に来ていた

一緒にいた看護師の渚にそのことを聞いた景子は、もう一度三人で会おうと誓う

光輔は事件解決の糸口が見つからず、自身の転勤の話もあり、かなり焦っていた

失踪事件の担当であった益川の力を借り、莉子がいたアパートに突入する

しかし、そこにいたのは莉子そっくりの人物だった

事件は振り出しに戻り、消沈する光輔

そんな光輔も景子の助けもあり、心菜とは電話越しではあるが再会する

事件が起きたあの日、心菜は不審な音を聞いていたことを告白する

事件解決、そして三人揃ってタイムカプセルを開けるためにそれぞれが動き出す

 

 

【登場人物】

・福山光輔(ふくやま・こうすけ

男性。百白中学校出身。言葉使いが荒かったりと乱暴な一面もあるが、体育会系のしっかり者でもある。
中学の頃から陸上にのめり込み、大学まで続けたが思うような結果は残せず。
大学進学を機に上京したことをきっかけに東京の一般企業に就職する。


・佐々木景子(ささき・けいこ)

女性。百白中学校出身。思いやりや優しさもあるが、ときに周りに冷たくあたってしまうサバサバした性格でもある。
厳しい家庭で育ち、大学進学まで親の言いなりで生きてきたが、もっと自分らしい生き方をしようとウェブライターに就職。
光輔や益川ともたまに連絡を取るが、姉の失踪事件は半ば諦めているというのが本音。


・泉心菜(いずみ・ここな)

女性。百白中学校出身。幼馴染三人の中では一番ワガママで寂しがりやで甘えん坊。
事件が原因で光輔と景子と離れ離れになったことがあまりにショックで、人間不信になっていた。
誰にも心を開かず大人になったが、病院で出会った渚には徐々に心を開くようになる。


・佐々木莉子(ささき・りこ)

女性。景子の姉。2010年3月に謎の失踪を起こす。
失踪の前触れのような行動は見られず、ある日突然いなくなった。


・上杉史也(うえすぎ・ふみや)

男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」。学校中の生徒から愛されており、光輔、景子、心菜の三人も親しい仲だった。
心菜以外の二人とは中学卒業後も連絡をたまに取っている。


・益川正義(ますかわ・せいぎ)

男性。莉子失踪事件を担当する刑事。事件発生当時はベテランながら若々しい見た目。まだ中学生だった光輔らにも丁寧に接し、すぐに信頼を得る。
刑事人生で唯一莉子失踪事件のみが解決できておらず、なんとしてでも解決しようと情熱を注いでいる。
しかし、自身の定年も近付いていた。


・早見徹(はやみ・とおる)

男性。元天才美容整形外科医。現在はラーメン屋を営む。
記事を書くために取材したことをきっかけに、ウェブライターの景子(ネオン)と親しくなる。
景子はこの男が苦手であるが、すみれのタトゥー除去のために話しているうちに少しずつ打ち解け合っていく。


・片寄渚(かたよせ・なぎさ)

女性。心菜を担当する看護師。
おてんばで明るい性格で、周りからも愛されるキャラクター。
患者思いの性格で、なかなか心を開かない心菜にも何度もアタックし少しずつ信頼を得ていった。


・長谷川すみれ(はせがわ・すみれ)

女性。東京の小さなアトリエで絵を描いている。景子いわく「かなりの馬鹿」
猟奇的な彼氏の束縛にあい、右腕に大きな彼氏の名前のタトゥーをいれてしまう。
それが原因で就職も出来ず、アトリエで絵を描きつつギリギリの生活をしていたところで景子と出会った。


・羽田部長(はねだ)

男性。光輔の上司。
光輔はあまり好きではないが、羽田は光輔のことを一目置いている。


・松尾(まつお)

男性。光輔の部下。
彼もまた光輔はあまり好きではない。光輔いわく「近頃の若者」の悪いところ全てを集約したような奴。


・林さん(はやし)

女性。「グッバイぐっちー」を運営する。
実業家として成功を収めており、景子は数少ない友達であり、憧れでもある。