明日何しようかな?#129

「むかブロ?」140日連続更新企画

自作小説を連載しています

温かい目で読んでください

第一~六章(#1~#116)のまとめ読みはこちら

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光輔


「私ね、光輔のこと好き」

そう言われた瞬間、固まってしまう。

「中学の卒業式でさ、光輔に告白しようとしてたんだ、私」

俺も馬鹿ではないから、色々と事情を察知する。渚と景子が怪しい動きでいなくなったのもそういうことか。

「それでね、景子とも約束してたんだ」

感情という感情が全部湧いてくる。どれが自分の本当の感情かは分からない。今が現実かも分からない。

「だけど、告白しないまま、卒業しちゃった」

「…………」

「渚さんも知ってる。全部知ってる。私が光輔に告白できなかったことも」

心菜とも、景子とも、渚とも、しゃべっているとほんの少しの違和感があった。これは違和感と言っていいのだろうか。なんとも言えない感情。別に悩むほどでもない、ほんのちょっとの違和感。それが全部解決する。この三人は俺に隠し事をしていた。それがほんの些細な違和感として、俺は感じ取っていたんだ。

「こんなこと言ったところで、困るだろうけど……」

「…………」

「でも、私、光輔のこと好きだよ」

告白された。

言葉がなかなか見つからない。どれもこれも心菜を傷つけてしまうような気がして。

「……俺、もう結婚しちゃった」

絶対に模範解答ではないけれど、そう言うしかなかった。

「ごめんな」

「ううん。全然」

そうか。心菜はずっとずっとこの気持ちに整理をつけることが出来ずにいたんだ。

「私こそ、ごめん」

少し落ち着いた自分の感情は「驚き」だった。

この田舎の村のたった二人の同級生。もちろん他にも女子はいたけど、一番一緒にいたのは心菜と景子の二人。この二人に恋愛感情はまるでなかった。愛情の一線を超えるはずがない、永遠の友達だと俺は今の今まで思っていた。もうあのときは二人といるしか選択肢が無かった。「好き」とか「嫌い」とか、そういう話ではなかった。

俺が鈍感すぎたのかな。俺が無愛想すぎたのかな。

中学生のときなんて、今思えばそこまで鮮明に覚えていない。とりあえず学校に行って、とりあえず授業を受けて、とりあえず部活で走って、そして寝る。勉強することとか、部活をすることに大きな意味なんて無くて、それが当たり前だと思っていた。

「福山は進路どうするんだ?」

中三のある日、タッチにそう聞かれた。ぼんやり陸上で推薦が取れたらいいなとは思っていたけど、理由は「勉強したくない」以外の何ものでもなかった。

それを正直に言うと、タッチは笑った。

「いいじゃねえか。勉強したくねえなら、走ればいい。教師がこんなこと言うのもあれだけど、自分がやりたいことやればいいさ」

そう言われて嬉しかったのと同時に強烈な違和感を覚えた。果たして陸上が「自分のやりたいこと」なのか?

そんな悩みが付きまとい始めた頃、心菜はタッチと二人で放課後に勉強をしている姿をよく見るようになった。心菜はお世辞にも頭がいいとは言えない。成績も負けたことがなかったし、授業中もしょっちゅうとんちんかんな質問をして先生を困らせていた。

その心菜が放課後に勉強をしている姿に俺は焦りを覚えた。心菜も将来のことを考え始めている。景子は間違いなくいい高校に行くのは分かっていた。

勉強すること、部活に入ること、景子と心菜とくだらない会話をすること。全部当たり前と思っていたが、急にそれが当たり前と感じなくなった。

景子と心菜は間違いなく自分の親友で、お互いのことを深く深く理解し合っている自信がある。結局それぞれの進路が決まって離れ離れになることが分かったときは、もちろん寂しいと感じた。事件が起きて卒業式が出来なかったことも悔しいと思っていた。

ただ、どこかで微妙な心の距離があった。あった、というか自分で距離を取っていた。なんか景子とか心菜を見ていると「焦る」から。それだけ。「嫌い」ではない。腐れ縁の大切な友達。でも、なんか勉強している二人を見ると、自分が勉強していないことに焦りを感じるようになってしまった。

俺はこの自分の「焦り」を抑えるのに精いっぱいだったと思う。誰かを好きになったり、誰かから好きになったり、そういう恋愛感情を持つ余裕がなかった。


つづく


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【「明日何しようかな」あらすじ】

大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」

学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった

二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める

卒業式当日

景子の姉である莉子の失踪事件が起こる

事件の混乱で卒業式は中止が決定

心菜が光輔に告白することや、心菜が所属していた暗号部の最後の暗号を解くこと

それらを整理することが出来ずに、光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう

ニ〇一八年、舞台は東京へ

事件は解決せず、心菜とは光輔、景子ともに音信不通となってしまう

景子は自宅の近くで雨宿りをしたのをきっかけに雑居ビルでアトリエを開いているすみれと出会う

すみれは腕に元カレのタトゥーが入っており、まともな職につくことが出来ないでいた

光輔は会社の帰り道、車窓からたまたまアパートの廊下にいた心菜を見かける

驚いた光輔は電車を飛び降り、心菜を探す

結局、心菜は見つからなかったが、心菜を見つけたアパートを確認することに

すると、アパートの一室にはあの日失踪したはずの莉子がいた

光輔は莉子の目撃を確信にするために、頻繁に偵察を続けることにした

一方、景子は自身の人脈を使い、すみれ救済計画を進める

まずは「愚痴聞き」サービスのオペレーターの職につき、安定した収入を得られるようにする

そして、元美容整形外科医の早見の力を借り、腕のタトゥー除去も企てる

すみれの生活は徐々に明るくなっていった

そんなさなか、公園にいた心菜と偶然再会する

心菜はガンを患っており余命宣告もされている状況で、治療のために東京に来ていた

一緒にいた看護師の渚にそのことを聞いた景子は、もう一度三人で会おうと誓う

光輔は事件解決の糸口が見つからず、自身の転勤の話もあり、かなり焦っていた

失踪事件の担当であった益川の力を借り、莉子がいたアパートに突入する

しかし、そこにいたのは莉子そっくりの人物だった

事件は振り出しに戻り、消沈する光輔

そんな光輔も景子の助けもあり、心菜とは電話越しではあるが再会する

事件が起きたあの日、心菜は不審な音を聞いていたことを告白する

事件解決、そして三人揃ってタイムカプセルを開けるためにそれぞれが動き出す

 

 

【登場人物】

・福山光輔(ふくやま・こうすけ

男性。百白中学校出身。言葉使いが荒かったりと乱暴な一面もあるが、体育会系のしっかり者でもある。
中学の頃から陸上にのめり込み、大学まで続けたが思うような結果は残せず。
大学進学を機に上京したことをきっかけに東京の一般企業に就職する。


・佐々木景子(ささき・けいこ)

女性。百白中学校出身。思いやりや優しさもあるが、ときに周りに冷たくあたってしまうサバサバした性格でもある。
厳しい家庭で育ち、大学進学まで親の言いなりで生きてきたが、もっと自分らしい生き方をしようとウェブライターに就職。
光輔や益川ともたまに連絡を取るが、姉の失踪事件は半ば諦めているというのが本音。


・泉心菜(いずみ・ここな)

女性。百白中学校出身。幼馴染三人の中では一番ワガママで寂しがりやで甘えん坊。
事件が原因で光輔と景子と離れ離れになったことがあまりにショックで、人間不信になっていた。
誰にも心を開かず大人になったが、病院で出会った渚には徐々に心を開くようになる。


・佐々木莉子(ささき・りこ)

女性。景子の姉。2010年3月に謎の失踪を起こす。
失踪の前触れのような行動は見られず、ある日突然いなくなった。


・上杉史也(うえすぎ・ふみや)

男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」。学校中の生徒から愛されており、光輔、景子、心菜の三人も親しい仲だった。
心菜以外の二人とは中学卒業後も連絡をたまに取っている。


・益川正義(ますかわ・せいぎ)

男性。莉子失踪事件を担当する刑事。事件発生当時はベテランながら若々しい見た目。まだ中学生だった光輔らにも丁寧に接し、すぐに信頼を得る。
刑事人生で唯一莉子失踪事件のみが解決できておらず、なんとしてでも解決しようと情熱を注いでいる。
しかし、自身の定年も近付いていた。


・早見徹(はやみ・とおる)

男性。元天才美容整形外科医。現在はラーメン屋を営む。
記事を書くために取材したことをきっかけに、ウェブライターの景子(ネオン)と親しくなる。
景子はこの男が苦手であるが、すみれのタトゥー除去のために話しているうちに少しずつ打ち解け合っていく。


・片寄渚(かたよせ・なぎさ)

女性。心菜を担当する看護師。
おてんばで明るい性格で、周りからも愛されるキャラクター。
患者思いの性格で、なかなか心を開かない心菜にも何度もアタックし少しずつ信頼を得ていった。


・長谷川すみれ(はせがわ・すみれ)

女性。東京の小さなアトリエで絵を描いている。景子いわく「かなりの馬鹿」
猟奇的な彼氏の束縛にあい、右腕に大きな彼氏の名前のタトゥーをいれてしまう。
それが原因で就職も出来ず、アトリエで絵を描きつつギリギリの生活をしていたところで景子と出会った。


・羽田部長(はねだ)

男性。光輔の上司。
光輔はあまり好きではないが、羽田は光輔のことを一目置いている。


・松尾(まつお)

男性。光輔の部下。
彼もまた光輔はあまり好きではない。光輔いわく「近頃の若者」の悪いところ全てを集約したような奴。


・林さん(はやし)

女性。「グッバイぐっちー」を運営する。
実業家として成功を収めており、景子は数少ない友達であり、憧れでもある。

 

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