明日何しようかな?#61

「むかブロ?」140日連続更新企画

自作小説を連載しています

温かい目で読んでください

第一~三章(#1~#58)のまとめ読みはこちら

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景子


flowerと筆記体で描かれた周りを色とりどりの花が埋め尽くしている。素敵な絵だ。

「百均でもこんな立派な看板作れるんだね」

「ですね」

私は仕事の帰りに久々にすみれさんのアトリエに寄っていた。珍しく彼女から「来て欲しい」と連絡があったからだ。

アトリエに行くと、ビルの前ですみれさんは待っていた。すみれさんの周りの景色は前に行ったときとは明らかに違った。道端にお手製の看板が立っていたのだ。ポップで「階段あがって二階です!」と可愛く書かれている。

「景子さんのアドバイス通りにしてみました」

私は微笑みながら看板を見つめる。

「それと、ここの電球も入れ替えたんですよ」

すみれさんが雑居ビルの階段の方を指さす。私が初めてここに来たとき、ビルの廊下は真っ暗だった。それはどうやら電球が切れていたかららしい。

「そんなのビルのオーナーに言いなよ」

「オーナーってなんですか?」

私は会話をやめた。まいっか、電球変えるって別に悪いことじゃないし。

「で、聞いてくださいよ。二月くらいからこの看板をここに置いたんですよ。そしたら、もう今年だけで六人もお客さんが来てくれたんです」

学校であったことをお母さんに話すようなテンションですみれさんは話す。よっぽど嬉しかったのだろう。

「もう去年のお客さん超えてるじゃない」

「そうなんです~」

「去年が何人だっけ?」

「四人です」

彼女はかたくなに私をお客さんにカウントする。もうそれはいい。

「すごいじゃない」

「本当にすみれさんのおかげです。ありがとうございます」

彼女は例の深いお辞儀をする。これももういい。下げたきゃ下げてくれ。

顔をあげると、彼女は目が潤んでいた。

「ちょっとあんた、泣いてる?」

「だって、景子すわぁんのぉうぉか※$%@……」

途中から泣きじゃくって何を言っているか全く分からない。

「ちょっと泣かないでよ。私が泣かせてるみたいじゃない」

「ずびばぜん」

「とりあえず、アトリエ入ろ」

周囲の通行人の「あの女、女泣かせてる」という視線を無視して、私はすみれさんの背中をさすりながら階段を上った。

「で、ぐっちーなんちゃらはどうなの?」

「グッバイぐっちーですか?それも大成功なんです」

なんでも愚痴の聞き手は指名出来る制度があるらしい。すみれさんはすでに四人の指名を受けているらしい。

「才能あるじゃない」

「いや、愚痴聞いてるだけなんですけどね」

推薦した私が言うのもなんだが、ここまで愚痴を聞くのがうまい子だとは思わなかった。

「どんな愚痴があんの?」

「あんまり詳しくは言っちゃいけないんですけど……」

すみれさんは手元のノートを広げて、何やら読みだす。

「会社でラブ&メロディーのCDを配り歩く後輩が……」

「ちょっと待ってちょっと待って。……それ何?」

すみれさんが手元のノートをめくる手を止める。

「それって?」

「それ。ノート」

「ああ、これですか?これお客さんごとにどんな愚痴言ってたかメモってるんです」

「はああ?」

私は思わず近寄り、ノートを勝手に覗く。

「ちょっと」

・会社で飲みに行くような友達がいない
・後輩が敬語を使えてない
・最近妻が冷たい

そんなような内容がびっしり書かれている。次のページもまた別の人の内容が。次のページも。

「え?ここまでしなきゃいけないの?」

「いや、私が勝手にしてるだけです」

「……やりすぎよ。そこまで真面目にやんなくてもいいと思うよ?」

私は心配の意味で言う。

「私馬鹿なんで誰がどんな愚痴言ってたか、書いとかないとすぐ忘れちゃうんですよ」

「愚痴聞くだけだよ?聞くだけでいいの」

「でも、こうしないと仕事ちゃんと出来る気しないんですよね」

さっき「才能あるじゃない」と言ったが、間違っていたのかもしれない。

いや逆か?ここまで熱中できるほど才能があるということなのか?

いずれにしろ、言えることは一つ。やっぱりこの子は馬鹿だ。


つづく


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【「明日何しようかな」あらすじ】

大阪にあるド田舎な村「百白(ひゃくしろ)村」

学年は全体で三人しかおらず光輔、景子、心菜は腐れ縁の仲だった

二○一○年三月、三人は卒業式前日にタイムカプセルを埋める

卒業式当日

景子の姉である莉子の失踪事件が起こる

事件の混乱で卒業式は中止が決定

心菜が光輔に告白することや、心菜が所属していた暗号部の最後の暗号を解くこと

それらを整理することが出来ずに、光輔、景子、心菜は離れ離れとなってしまう

ニ〇一八年、舞台は東京へ

事件は解決せず、心菜とは光輔、景子ともに音信不通となってしまう

景子は自宅の近くで雨宿りをしたのをきっかけに雑居ビルでアトリエを開いているすみれと出会う

すみれは腕に元カレのタトゥーが入っており、まともな職につくことが出来ないでいた

光輔は会社の帰り道、車窓からたまたまアパートの廊下にいた心菜を見かける

驚いた光輔は電車を飛び降り、心菜を探す

結局、心菜は見つからなかったが、心菜を見つけたアパートを確認することに

すると、アパートの一室にはあの日失踪したはずの莉子がいた

 

【登場人物】

・福山光輔(ふくやま・こうすけ

男性。百白中学校出身。頼りがいのあるしっかりもの。


・佐々木景子(ささき・けいこ)

女性。百白中学校出身。さばさばした性格。


・泉心菜(いずみ・ここな)

女性。百白中学校出身。寂しがりやの甘えん坊。


・佐々木莉子(ささき・りこ)

女性。景子の姉。2010年3月に失踪する。


・上杉史也(うえすぎ・ふみや)

男性。百白中学校の先生。通称「タッチ」。


・益川正義(ますかわ・せいぎ)

男性。莉子失踪事件を担当する刑事。


・早見徹(はやみ・とおる)

男性。元天才美容整形外科医。現在はラーメン屋を営む。


・片寄渚(かたよせ・なぎさ)

女性。心菜の味方をする。


・長谷川すみれ(はせがわ・すみれ)

女性。東京の小さなアトリエで絵を描いている。


・羽田部長(はねだ)

男性。光輔の上司。


・松尾(まつお)

男性。光輔の部下。


・林さん(はやし)

女性。「グッバイぐっちー」を運営する。

 

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